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【書籍3巻&コミカライズ連載中】世界で一番『可愛い』雨宮さん、二番目は俺。  作者: 編乃肌
二章

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10 水も滴るいい女装男子

 猛スピードで駆け抜けていくバイク。


 別にぶつかられかけたとか、そこまでの大惨事ではない。

 だが俺たちの横を無遠慮に走っていったバイクは、先ほどの雨で出来た水溜まりの水を、盛大にバシャン! と跳ねさせていった。


 俺は雨宮さんのか細い手首を引いて、俺の体で水が被らないようにガードする。


 おかげで俺は、大袈裟ではなく背中側が全面的にびしょ濡れだ。

 あのバイク野郎め。



「は、ははははは晴間くん! 大丈夫!?」



 俺の腕の中にいる雨宮さんは、真っ青な顔で俺を見上げてくる。よかった、雨宮さんには水滴ひとつかかっていないようだ。


 こうしていると、やはり生物学上、雨宮さんは女の子で俺は男だ。

 『可愛い』が売りの女装男子としては小柄な体型はありがたいが、そんな俺よりも雨宮さんは小さく、服越しに触れる肌はどこも柔らかいし、なんかいい匂いもする。


 あれだ、柔軟剤の匂いだ。

 ドラッグストアとかで一番安く買えるやつ。


 だけどそれがなんとも雨宮さんらしくて、素朴な香りが可愛いくて癒される。


 至近距離でかち合う瞳も、やはり綺麗でって、あれ……?



「あ、雨宮さん、眼鏡! 眼鏡がない! どこだ!?」



 俺が引っ張った衝撃で眼鏡が飛ばされたのか。

 しかも今の俺はもしかしなくとも、雨宮さんを抱き締めている状況か!?


 冷静になってようやくことの重大さを理解する。



「ご、ごめん! 雨宮さん!」



 俺はバッと、雨宮さんから距離を取る。

 それでも手の中に雨宮さんを抱き締めた感触が残っていて、気まずいことこの上ない。 


 不慮な事故とはいえ、セクハラで嫌われたくないんだよ!


 しかも眼鏡は俺の足元に落ちていた。

 若干だがツルが歪んでいる。これなら眼鏡屋で簡単に直してもらえそうだが、すぐに掛けることは無理だろう。



 うああ、余計なことしなきゃよかった。

 でも俺が動かなきゃ雨宮さんが濡れていたし……!



「悪い、俺のせいで眼鏡が……」

「そ、そんなの後回しだよ!」

「雨宮さん?」


 俺は眼鏡を拾って、項垂れながら雨宮さんに差し出したが、雨宮さんは眼鏡なんて目もくれない。まあ、顔隠しのためだと聞いているので、裸眼でも視力に問題はないからだろうが。


 離れたはずの距離を勢いよく詰めて、雨宮さんは俺のTシャツの裾をムンズッと掴んで迫ってきた。


「服!」

「服?」

「服を早く着替えないと、晴間くんが風邪ひいちゃう!」

「あー、いや、別にこれくらい……」


 確かに背中の方は水が滴るほどで、肌に布がぴっとり張り付いて気持ち悪いっちゃ悪いけどさ。

 雨宮さんを家まで送って、さっさと走って帰って風呂にでも入れば問題ないだろう。幸い、正面側は無事だし。



 だが雨宮さんは頑なで「ダメだよ、ダメ!」と首をブンブン横に振る。



「私の家、もう角を曲がったらすぐ近くだから! 私の家で着替えよう? 上の弟の服、晴間くんならサイズ的に着れると思うから!」

「え。いやいや、そんな悪いし……」

「あ、わ、私の服でもいいよ!」

「そこじゃない!」


 テンパっていつになく押しの強い雨宮さんに、素でツッコミを入れてしまった。


 hikariになって雨宮さんの服を着るだけでもなんとなくアウトなのに、ただの俺が雨宮さんの服を着るとかレッドカードで即退場だろう。



 変態になってしまう。勘弁してくれ。



「お願い、晴間くん……ちゃんと着替えてください。私のせいで、晴間くんが風邪ひくなんて嫌だよ……」

「う」



 雨宮さんに真摯に見つめられながら『お願い』なんて言われたら、断れる俺はもはや俺じゃない。


 ただでさえ、分厚い眼鏡も、伊達眼鏡すらもない、顔を隠すものがなにもない雨宮さんの上目遣いは、hikariの必殺技に匹敵する威力なのだ。



 いや、もうhikari以上だ!

『必ず殺す』と書いて必殺技! オーバーキル!



「…………じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて、お邪魔させて頂こうかな」

「うん!」



 ただ雨宮さんを家に送っていく予定だったのに……どうしてこうなった?


 俺は雨宮さん宅を一目見て帰るどころか、雨宮さん宅に上がることになってしまったのだった。



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書き下ろしシーンも盛り沢山!なによりイラストが素晴らしい(◍>◡<◍)
なにとぞよろしくお願い致します!
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