8 撮影完了⇒雨宮さん宅へ?
「ハレくんは変人だけど、私はアホの子じゃないよ!」
「俺は(ちょっと女装したら世界で二番目に可愛いだけの)一般人だ! 変人ではない!」
「ハレくんの変人、変人、へんじーん!」
「雷架のアホの子、アホの子、アホの子ー!」
……などという、低次元な争いを雷架としていたら、雨宮さんが「ふ、ふたりとも! 喧嘩はダメだよ!」と可愛く止めに入ってくれ、どうにか場は終息した。
雨宮さんに「こっちを見ないでください!」とか「あまり近寄らないでもらえると……!」とか言われたときはショック死するかと思ったが、態度が戻ってよかった。
いや、近付こうとするとちょいちょい離れられるけどさ……。
「それじゃあ撮るけど、ハレくんはそのままそこにいて!」
「え、俺がいていいのか?」
紫陽花ロードまでもう一度移動して、撮影は再開。
雨宮さんはポジションにつき、雷架はピカリさんを構えたので、俺はここまでついてきてなんだが、またベンチのところに戻るまではいかなくとも、ふたりから見えないとこまで離れようとした。
しかし、なぜか雷架に引き留められる。
俺は雨宮さんの視線の先にいろと言うのだ。
「でもここに俺が立っていたら、写真に若干入っちゃうんじゃないか?」
「そんなもの、切り取ったり多少の加工したりでなんとかなるから!」
「それはそれでなんかショックだな……」
この、世界中の名のあるカメラマンが「ぜひ撮らせて欲しい!」と懇願してくる、スーパーモデルの俺を写真から切り取るとは……。
もちろんhikariにならなければ、俺は雨宮さんの写真を邪魔する異物だとは承知しているけどな。
「えっと……あのね、晴間くん。私たぶん、晴間くんが見えるところにいてくれたら、ちゃんとモデル、できるから」
「まあ、雨宮さんがそういうなら……」
こうして俺も加わった奇妙な配置になった途端、カシャッ! とシャッターを切る音がして、雷架の「はい、撮影完了ー!」という明るい声が高らかに響いた。
いや、早いな!?
休憩前の一時間かかったやつはなんだったんだ!?
「おい、本当に終わったのか!?」
「うん! やっぱりアマミン、ハレくんの前でだとめっちゃいい顔するんだもん! これでオーケー! 奇跡の一枚撮れちゃった」
ルンルンと、雷架はピカリさんを高く掲げてご機嫌だ。
よほどいい写真が撮れたらしい。
ようやくお役御免になった雨宮さんは「よかったあ、ちゃんと出来て。ありがとう、晴間くん」と目を潤ませながら、俺に深々と頭を下げてきたが、俺はぼんやり突っ立っていただけだぞ!
「あっ! ちょうど晴れてきた! お日様ピカーン!」
バカ丸出しな擬音と共に、雷架が空を仰ぐ。
すると確かに雨雲はどこかに去り、眩い太陽が顔を出し始めていた。よいしょと、三人で一斉に傘をたたむ。
「これで今日の目的は達成されたわけだけど、私は大事なピカリさんも持っているし、ここで解散してお家に帰るよ! ふたりとも本当にありがとう! 今度、購買の新商品のどら焼き奢るね!」
止まるところを知らないどら焼き旋風はなんなのか。
「ふたりはこのあとどうするの?」
「あーっと、俺と雨宮さんは……」
アメアメの本社ビルに寄って雨宮さんの変身をとき、前回はココロさんが車で送ってくれたが、今回はそんな足もないのでおそらくアメアメで俺たちも解散だ。
各々徒歩で帰ることになるだろう。
雷架にアメアメのことを明かすわけにはいかないので「まあ、俺たちも適当に帰るよ」と答えた。
だけどその答えに、雷架はなぜかニヤニヤと口角をゆるめる。
「そーれーなーらー! ハレくんはアマミンのお家まで、ちゃんとアマミンを送っていってあげなよ!」
うえっ!? と、すっとんきょうな悲鳴をもらしたのは雨宮さんである。
「こ、小夏ちゃん! それは……!」
「女の子をひとりで帰すのはどうかと思いまーす! あ、私はいいよ? 私の家はここから目と足の先だし!」
目と鼻の先な。
目と足はわりと遠いぞ。
「ついでにアマミンのお家でお茶でもしていけば?」
「小夏ちゃんっ!」
雷架の口を雨宮さんが必死に塞ごうとして、傍に咲いている紫の紫陽花が揺れる。
お宅訪問までは雷架の冗談として、さすがに女の子の家に上がるつもりはないが、送っていくのは確かにすべきかもな。
「わかった、雨宮さんの家までキッチリ送るよ」
「晴間くん!?」
雨宮さんはずっとあわあわしていたが、俺は密かに、雨宮さんの家を見れることを楽しみにしていた。





