7.5 雨宮さんの自覚③
「それで、あの……アピールってどうすれば……」
「そうだなあ、ハレくんが喜ぶことをまずはしてあげるとか? それで好感度アップ! とかどうかな?」
「晴間くんが喜ぶこと……」
私ができる範囲でなら、なんだってしたいけど……晴間くんはなにで喜ぶんだろう?
晴間くんはいつも私を喜ばせてくれるけど、私は少しも思い付かなかった。
しかし、そこはさすが頼もしい小夏ちゃんだ。
「だいじょうぶだよ、アマミン! ここは私に任せて!」
「小夏ちゃん……」
「こういうのはね、『当たって大爆発』が一番なの!」
「『当たって砕けろ』ってことかな……?」
どっちにしろ大丈夫じゃないんだけど……ほ、本当に任せていいんだよね。
そこで小夏ちゃんが、私に抱き着いたままだった体を離して、パッと顔を上げる。
「あっ、ハレくん!」
「も、もう、小夏ちゃん! さすがに二回目は騙され……」
「――ごめんな、遅れて」
「うひゃぁ!」
聞こえた声にベンチから飛び上がる。
目の前には、お茶のペットボトルを三つ抱えた晴間くんが立っていた。
私の奇声に「な、なんかすまん」と謝っている。
「う、ううん! 晴間くんは悪くないの! 本当にいるとは思わなかったから……」
「俺って幽霊的な存在か?」
「私が一回ドッキリしかけちゃっただけだから、ハレくんは気にしなくていいよー。それよりさ、それよりさ!」
自然に晴間くんからお茶を受け取りながら、雷架さんは「ハレくんって、アマミンになにされたら嬉しい?」なんて、唐突かつ直球もいいところな質問を投げかけている。
ま、待って、『当たって大爆発』って、つまり晴間くんに直接聞くってこと!?
訝し気な顔をした晴間くんが、「雨宮さんにされて嬉しいこと……?」と私に視線を遣る。
ああ、彼に恋していると自覚したら、晴間くんがいつもの二割増しカッコよく見えてしまう。でもhikariさんの片鱗も窺えるから、彼は可愛くもあって……どうしよう、晴間くんが眩しすぎる!
「は、晴間くん! こっちを見ないでください!」
「えっ!? 俺なんかしたか!?」
「あ、あまり近寄らないでもらえると……!」
「俺がなにかしたなら言ってくれ、雨宮さん! 今すぐ治すから! 俺は雨宮さんに拒否られたら死ぬが!?」
反射的に晴間くんを避けようとする私に、晴間くんも困惑している。
ああ、そうだよね、ごめんなさい。
でも今は心臓に優しい距離が欲しいよ……!
「あはっ、やっぱりアマミンとハレくんは面白いね!」
雷架さんはマイペースに、ゴクゴクとペットボトルのお茶を飲んでいる。
そういえばあれ、晴間くんの奢りになっているのかな。後でお金返さないと……。
「それでハレくん、さっきの質問のお答えはー?」
「いや、なんで雷架がそんなこと聞くんだよ」
「私とアマミンがお友達になったからだよ!」
理由になっているようでなっていないけど、雷架さんの『お友達』発言は単純に嬉しい。
えへへと照れて笑っていたら、どうしてか晴間くんが「雷架グッジョブ!」と拳を突き上げていた。ど、どうしたんだろう?
「しかし、俺が雨宮さんにか……まあ、ひとつくらいかな」
な、なにかあるみたい。
私はまだ晴間くんとは一定の距離を保ったまま、ドキドキと返答を待つ。
「俺はただ、雨宮さんが自分に『自信』を持ってくれたら嬉しいよ。俺になにかしてくれるっていうより、雨宮さんが『私は可愛いんだ』って自信を持って、今より前向きに堂々と振舞ってくれたら、俺としては万々歳だ」
そ、そんなことでいいの……?
私はポカンとしてしまう。
「あっ! もちろん無理はしなくていいからな! そういうのは追々身に着くものっていうか!」
「そんなことで満足なんて、ハレくんって変わっているよねー。マジ変人」
「お前には言われたくないからな、このダイナマイトアホの子!」
晴間くんと雷架さんがわーわー騒いでいる横で、私はまだ降り続く雨を見つめながら、ひとつの決意を固めていた。
それは私にとって、とってもとっても勇気のいることだけど、それで晴間くんが喜んでくれるなら。
「……うん」
ぎゅっと、拳を小さく握りしめた。





