13 スイーツ店にて。
スイーツ店に着く頃には夕方になっていて、ちょうど客の入れ替え時だったためか、席にはすんなり案内された。
壁がショッキングピンクのファンシーな店内は、テーブル席とソファ席があり、真ん中に色とりどりのスイーツが並ぶビュッフェ形式だ。
客は存外、女性ばかりと思いきや男性も少なくはない。
カップルの彼氏とか家族連れのお父さんとか、話題の店のためかいかにも陽キャな男性だけのグループもいる。
また別のところには、ケーキの写真を「この角度ではクリームの滑らかさが伝わらない……!」などと呟きながら真剣に撮るスイーツガチ勢な奴等も。彼らはスイーツ男子の集いだろうか。
「あの、晴間くん……やっぱり私、なにか変じゃないかな?」
「変って?」
テーブル席で向かい合わせに座る雨宮さんは、気まずそうにモジモジと体を揺すっている。
「あ! 晴間くんと、ココロさんがしてくれたメイクやファッションが変ってわけじゃないよ! ただ、自意識過剰かもしれないんだけど、その、さっきから見られている気がして……」
ふむ、見られているのは紛れもない事実だ。
ここに来るまではバタバタしていて、あまり周囲の視線には気付けなかっただろうが、今の雨宮さんは主に男性、時には女性の視線も集めている。もちろん、雨宮さんが危惧しているだろう『悪い意味』ではなく『いい意味』で。
耳を澄ませば聞こえてくる、雨宮さんへのたくさんの賛美。
「なあなあ、あの子さ、可愛くね? ワンピ着た三つ編みの子」
「思った! あれだけ可愛いのに、控え目そうなところがマジタイプ」
「いいよなあ、ずっとhikariみたいな彼女が欲しかったけど、ああいう三歩引いた感じの子が彼女ってのもさ」
「前の奴が彼氏じゃねえの? あの地味な男」
「それはないだろうー、地味だし」
「あっちの席の子、すっごい可愛いよね。あのピスタチオカラーのワンピ、モデルのhikariが着ていたやつじゃん!」
「ああ、人気すぎて買えなかったやつ。いいなあ、hikariと同じくらい似合っているよね。私もあれだけ可愛くなりたーい!」
「あの子もモデルとかしてそうだよね」
「一緒に座っているのって彼氏? 地味じゃね?」
「つり合ってないよねー、地味だし」
うん。
ちょいちょい俺へのディスも挟んで来られるが、hikariにならない俺の評価などこんなものだ。
それより雨宮さんが褒められていることこそが、今の俺にとってはもっとも重要である。
雨宮さんは可愛いのだと、どんどん世に知らしめたい。
しかしながら若干、俺以外が知ってしまうのは惜しい気持ちも、今になって湧いてきたが……。
『可愛い』を共有できない了見の狭さじゃ、俺もまだまだだな。
「……晴間くん?」
「ああ、ごめん。ちょっとぼんやりしてた」
雨宮さんに呼ばれて我に帰る。
俺は安心させるように笑って「変じゃないから。雨宮さんが可愛くて素敵だから見られているんだよ」と諭す。
「す、素敵なのは晴間くんだよ……! 私は助けられてばっかりで……今日も私が恩返しするはずが、こんなにもったいない格好させてもらえて、本当に素敵すぎてどうしよう、って」
「んー、まあ、hikariが素敵な女子なのは万国共通の常識だからな」
「ちが……っ! う、ううん、違わないんだけど! hikariさんが素敵なのは確かにそうなんだけど、そうじゃなくて……!」
雨宮さんはうんうんと唸って頭を抱えてしまった。
苦悩する雨宮さんも可愛いなあ。
「でもほら、悩んでいたらケーキがなくなるぞ? ただでさえ遅く来たから、数減っているみたいだし」
「あ! た、大変……!」
雨宮さんはぴょこっと、ゆるふわな三つ編みを跳ねさせて立ち上がった。
俺たちは連れ立ってビュッフェコーナーを品定めしていく。
大降りのイチゴがツヤツヤ光るストロベリータルト、濃厚なビターの香りを漂わせるガトーショコラ、こんがり焼けたバスク風チーズケーキ、しっとり食感が味わえるだろうミルクレープ、ふわふわの食感が楽しめそうなシフォンケーキ……と、種類は目移りするほど豊富だ。クッキーやマフィン、シュークリームなどもある。
しかもそのどれもが小さめのサイズで、いろんなスイーツをより多く楽しめるようになっていた。
なるほど、これは人気が出そうだな。
「あれ? 雨宮さん?」
だが雨宮さんは、そんな「私を選んで!」と自己アピールしてくる魅惑的なスイーツたちを総スルーして、なにやら忙しなく視線を走らせていたかと思えば、一番端っこの人集りのできている一角へと駆けていった。
なにかお目当てのものがあったのか? と、後を追おうとして……止めた。
ビュッフェは自分の好きなものを好きなように取るのがいいのであって、俺がカルガモの親子のように雨宮さんについて回ったら、彼女が好きなものを取り辛いだろう。
万が一にでも雨宮さんに鬱陶しがられたら俺は死ぬ。
俺も俺で気になるスイーツをいくつか四角いプレートに乗せて、先に席で座って待っていることにした。
雨宮さんは、そのお目当てのスイーツをゲットするために並んでいて、なかなか戻ってこない。
あそこだけ店員さんがひとりずつ手渡しする方式のようだ。いったいなんのスイーツなんだろうな?
「ねー! これヤバくない!?」
「ヤバいヤバい! 超ヤバい!」
「マジヤバすぎ!」
並ぶ雨宮さんを遠目で見つめていたら、ヤバいしか言っていない騒がしい声が鼓膜を揺らした。
どうやら俺の席の後ろにいる、俺と同年代の女子高校生っぽい子たちが、映えるケーキひとつで盛り上がっているようだ。
さすがにこういうところは陽キャ率が高いな。
雨宮さんが来ないと、さしもの俺も肩身が狭い……と気まずさを感じつつもチラッと振り向いてみる。
「げっ」
そして振り向いたことを一気に後悔した。
若干聞き覚えのある声も混じっているなと思ったら、女子高生の集団は思いきりクラスメイトたちだったのだ。





