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【書籍3巻&コミカライズ連載中】世界で一番『可愛い』雨宮さん、二番目は俺。  作者: 編乃肌
四章

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36 最悪の遭遇


「――雨宮さん!」


 あちこち探し回って、彼女はキッズ島というプールエリアにいてくれた。


 ライトアップされ出したプールには、トランポリンやウォーターロール、バナナボートなどの様々なアスレチックが水の上に浮いている。如何にも子供が喜びそうだが、今は人っ子一人いなかった。


 雨宮さんはそのプールの縁に座り、足だけ水に浸して夜に塗り替わる空をぼんやりと見上げていた。


「え……hikariさん? 晴間くん?」

「な、泣いてるのっ、ステージから見て……急いで来たっ!」


 ゼーゼーと息が荒いのは、俺に体力がないからに他ならない。雷架と明日から走り込みでもした方がいいだろうか。


 ずり下がったサングラスは額の上までグイッと押し上げる。ここには雨宮さん以外いなし、騒がれることもないはずだ。

 俺の登場に驚いた雨宮さんが立ち上がると、チャポンッと水面が静かに波打った。


「私のこと、ステージから見つけてくれたの……?」

「目が合ったよな? 最初から発見は余裕だったよ」  

「は、恥ずかしいな……私ったら、なんか急に晴間くんが遠い存在になったように感じちゃって……気付いたらなんか涙が出ていて……」


 目元をこする雨宮さんには、ハッキリと涙の痕があった。こすり続けると痛むから、そっと腕を取って制止を掛ける。


 薄暗い中で真正面から、雨宮さんと相対した。

 悲しい顔はさせたくない。


「hikariが雨宮さんにとって遠い存在なんて、そんなことはあり得ないぞ。君がもしひとたびステージに立てば、きっと俺の方が霞むくらいだ」

「そっ、それこそあり得ないよ! 私なんて、まだ過去を引き摺っていて、眼鏡を外しても昔のままで……」

「……過去って、なにがあった? 全部ゆっくりでいいから話してくれ」


 雨宮さんの腕から両肩に手を置き、なるべく柔らかく促す。

 隠さず打ち明けて欲しかった。


 しばらく躊躇していたけど、雨宮さんはたどたどしく唇を動かす。


「フ、フードコートにね、いたの」

「誰がいたんだ?」

「中学の時……私に『調子に乗んなブス!』って、吐き捨てた男の子」


 衝撃と一気に押し寄せる怒りで、俺は目を見開いた。


 雨宮さんはかつて、見知らぬ他校の男子に突然告白されたことがある。

 ソイツは雨宮さんに真っ当な好意を抱いたというわけではなく、雨宮さんの顔がたまたまタイプで『根暗でカレシもいないだろうし、俺が付き合ってやるよ』などとほざいたカス野郎だ。


 口が悪いが勘弁してくれ。俺はソイツが話を聞くだけで大嫌いである。


 あまつさえ一緒にいた数人で雨宮さんを笑い者にした上、フラれたら暴言を叩き付けていった。

 それが雨宮さんのトラウマになってしまい……周囲の目が怖くなり、眼鏡を掛けて俯いて生きるようになったのだ。


 改めて許せん。

 そのカス野郎が、この施設にいただと?


 あの横暴そうな茶髪か。もしかしたら周りの連中も当時の仲間かもしれない。


「ソイツがいたから、雨宮さんはあんなに青褪めていたんだな。悪い、ただの体調不良と勘違いして……」

「は、晴間くんはなんにも悪くないよ! 私がまだあの頃のまま、変われていないせいで……!」

「トラウマが目の前に現れたら、誰だって怯える。雨宮さんが変われていないなんて、絶対にない!」


 強く断言する。

 雨宮さんは俺に『変わりたい』と宣言したあの日から、自分を奮い立たせて頑張って来たんだ。


 俺のカノジョは優しくて強い。

 そして世界で一番可愛い。


「やっと取り戻した自信を失わないでくれ。俺はどんな雨宮さんも大好きだから!」

「晴間くん……」


 恥もかなぐり捨てて好きとか言っちゃえば、雨宮さんは伏し目がちに「私も……」と答えようとしてくれる。

 そんな超絶いいところで、割り入ったのは甲高い少女の声。


「離してよっ! ハナは帰るんだってば!」


 ……無視しようにも、切羽詰まった響きは無視しがたい。


 なにより知っている相手だ。そういえばコイツもいたんだったな。


 そうっと声のした方を振り向けば、キッズ島の注意事項などが記された立て看板の前に、ツーサイドアップを荒ぶらせた虹色がいた。黒フリルのビキニ姿のままで、昼から変わらずハート型のクセ強サングラスを掛けている。


 そして、そんな虹色に絡んでいるのは……。


「なあ、ひとりなんだろう? 暇ならいいじゃん? モデルみたいにスタイル抜群だよね、俺たちと遊ぼうって!」

「あれ、あの子に似てない? 地雷系の」

「似てる似てる~! サングラス外してみてよ!」


 茶髪の男を筆頭に、ピアスやタトゥーが派手な男が三人。ギラギラしたメイクの女が二人。フードコートで騒いでいた集団だ。


 そして茶髪の男は、もはや俺の宿敵でもあるカス野郎。

 ソイツは嫌がる虹色からサングラスを無理やり外し、「おおっ!」と囃し立てる。


「マジで地雷系モデルの子じゃん! 名前なんだっけ?」

「か、返して! 返してよ!」


 サングラスを取り返そうとする半泣きの虹色を、囲んでゲラゲラ笑う連中。


 胸糞の悪い光景だ。

 もう我慢の限界だった。


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GCN文庫様より、2025年1/20に第3巻発売決定、詳細は活動報告に☘
コミカライズも連載中☘

書き下ろしシーンも盛り沢山!なによりイラストが素晴らしい(◍>◡<◍)
なにとぞよろしくお願い致します!
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