第十六話「聖剣マッヒェン・ブロード」
イギリスパン、ドイツパン、フランスパンはあれどっ! ティエアのパン、ティパンはないっ!! ならばこれから作るしかないっ!!! この物語は、熱き血潮が宿るサン・ハンドを持つ少年が、世界に誇れるティエア人のティエア人によるティエア人のためのパン、ティパンを作っていく一大抒情詩であるっ!!!!
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「……ついにきた……ティエア最大のベーカリー店。パンタジー……オレは、この店でティパンを完成させるんじゃ!!」
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筆記試験っ! 合格っ!!
面接っ! からくも通過っ!!
技術試験っ! 圧倒的不合格っ!!!
~完~
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「…………うそじゃ…………オマージュネタから入って十行もないうちに終わってしまった」
パン職人を目指すハーフの犬獣人少年は、さっそく窮地に立たされた。それもそのはずだ。彼はオマージュ元に失礼なほどパン作りについては圧倒的に技術不足だった。…………ついでに手が温かいわけでもない。どっちかと言うと冷え性だ。
あまりにも才能がなさすぎて、試験を請け負った黒髪のおっちゃ……お兄さんの”ナウロク=リョギヤ”も、あきれて「なんというカスパンだっ!! マズすぎて吐き気がしそうだっ!!」と言っていた。
パンは分量や手際よく作らなければどうしても、おいしくはできない。一次発酵、二次発酵等の知識や経験も必要だ。
仮に作れても、お金がもらえるレベルになるのは大変だ。昨日今日パンを作り始めた人間がプロになれるわけがない。
「パンのー? 試食やってるよー?」
すると、やたら疑問符の多い少女の声がした。
「はぁ……なんじゃこの店は」
どこからどう見てもパンの店じゃない。どちらかと言えば雑貨屋だが、不思議な形のものばかりが売られている。
「誰でも簡単に―? パンが作れるよー?」
「……簡単じゃと?」
パン職人を目指す少年は鼻で笑った。その少女は子供だ。どう考えてもパンを作れるほどの経験を積んでいるとは思えない。
「なら、オレに食わせてみろ。これでもパン職人を目指した俺を納得させられたら認めてやる」
「? どうぞー?」
パンを一切れ渡されると、それをいぶかしげに見つめながら、一口で食べる。
*** 以下妄想 ***
「ここは……どこじゃ?」
あたりを見渡してみると、ふわふわとした雲海の上にいた。まるで綿あめの上に立っているような感触で、とても心地よい。
「なんと美しい景色じゃ……ふわっとしてて、もちもちとしておる……お?」
試しにその雲を一つつかんでみると、ふわっとした感触が手に広がる。
「これは……たまらんっ!!」
思わずその雲を食べた。本当に雲のように柔らかく、噛めば噛むほど甘みが増していく。
「んーーーー!! うまい!! ……ん? なんじゃアレは」
パ……雲を食べていくと、その中央に何か銀色のものがある。
「あれは……聖剣かっ!?」
なぜか銀の剣が雲の中に突き刺さっている。抜いたらハ〇ラルの勇者になりそうな剣が……。
少年がそこまで進むと、導かれるままに剣の柄を手にする。
「なんだ……生地がふわふわもちもちだから……聖剣がみるみるうちに抜けていくっ!! ちょっと手を触れただけで生地の弾力が、剣を押し返してくる……押し返してくるぞおおぉぉ!!」
もはや雲を生地と言ってしまうほど夢中になる聖剣に選ばれてそうな少年は、剣を天に掲げて叫ぶ。
「おお……これぞっ!! 聖剣っ!! マッヒェン・ブロードオオォォォ!!!」
*** 以上妄想 ***
「……マッヒェン・ブロードー?」
レイラも素で頭をひねる。いつの間にか後ろに控えていたユキオが、やれやれといった様子で、レイラの疑問に答えた。
「マッヒェン・ブロード……ドイツ語で”パンを作る”だね」
なぜそんな日常の言葉が聖剣になったのかはともかくとして、この少年は非常においしそうに食べていた。
「こんなにうまいパンを作るなんて……もしや君はパンタジーの職人じゃな!?」
「違うよー?」
「これはホームベーカリーという機械で作ったパンです。これを使えばだれでも簡単にパンが作れるんですよ」
そこにあったのは、立てに置いた長方形の箱。上には謎の薄いスイッチのようなものと、謎の灰色のガラスが付いている。店員の男がその箱のふたを開けると、パンとほぼ同じ大きさのケースが入っていた。おそらく食パンの形を作るためのケースだろうが、その周りには大きな空間があり、小物入れにしてはずいぶん無駄が多い。
「このパンケースに材料を入れて、こちらの上蓋を開けてドライイーストとレーズンなどを入れると自動でパンを作ってくれます」
「そんなバカなっ!! パンは手でこね、一次発酵、二次発酵が必要。ガス抜きもある。魔法でもあるまいし、どうやってパンを作るんだ」
「では解説しますね」
*** 食パン(パン・ド・ミ)の材料 ***
強力粉:250g
バター:20g
砂糖:21.5g(大さじ2と半分)
塩:5g(小さじ1)
水:190g(mL)
ドライイースト:1.4g(小さじ半分)
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1:まずはドライイースト以外のすべての素材をパンケースに入れます。
2:上ふたを開けてイースト容器にドライイーストを入れます。この時イースト容器と上ふたは濡れていたらふき取っておきましょう。
3:メニューを選び、焼き色、具材の有無を入力します。もし、出来上がり時刻を予約しておきたいときはこの時に入力しましょう。
4:ふたをすべて閉じてスタートボタンを押します。
5:焼きあがったら電源を切り、パンケースをふきんなどを敷いた台の上に置き、二分程度冷まします。
6:パンケースからパンを取り出し、粗熱を取ったら完成です。この時パン羽根(※生地をこねるときに必要な器具)がパンにくっついてないか必ず確認してください。
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「パン・ド・ミとは、クラスト(パンの耳)を楽しむフランスパンとは対照的に、クラム(パンの中身)に味わいを求めていくパンの事です。非常に高度なテクニックが必要なパンですが、このホームベーカリーならだれでも簡単にできてしまいます」
簡単な実演を交えながら、店員は答えていく。まさかこれだけの手順であの画期的なパンが生まれたとは思ってなく、自称パン職人は驚愕する。
「……これじゃ」
「どうです? 今なら初めての方にもおすすめなパンミックスセットをお渡ししますよ」
「これじゃ!! これでもう一度パンタジーの試験を受けるんじゃ!!」
「……へ? い、いやちょっと!!」
「ホームベーカリーでティパン試作一号じゃ!!」
※※※ 焼かれたて! 豆知識 ※※※
ホームベーカリーは手軽に誰でもパン作りができるが、パン生地だけ作成しておけば、メロンパンやフランスパンなどに挑戦することも可能。
アイデア次第ではプロ顔負けの料理も作れる魔法の機械だ! なお、今回の元ネタがわからない人はサンデーうぇぶりやHuluなどをチェックするのだ!
へーー。




