男前ドラゴン
メリークリスマス!
乳母という日本の庶民には聞き慣れない言葉に例えられたあと、私たちはギャブッシュに乗り、南の海に向かって旅立った。
私も毛皮巻になってね……こんにちは町娘の毛皮巻ね……。
南の海まではギャブッシュなら半日で行ける距離らしい。
が、まあ当然私には無理である。絶対に無理である。いかに王太子であるエルジャさんが時間がなく、できるだけ早く現地に到着する必要があると言っても、休憩なしなんて絶対に絶対に無理である。
というわけで、王宮と南の海の中間地点である、峠の開けたところで休憩をすることになった。
酔ったらどうしようかと思ったが、ギャブッシュが私に気を遣い、あまり上下に揺れないよう、遠心力なんかも少なくしてくれたおかげで、思ったよりは気分は悪くない。
なんとか足元がふわふわする……ぐらいの状態で休憩に入ることができた。
「ギャブッシュ……ギャブッシュ、ありがとうね……」
「シャーシャー!」
背中にたくさんの人を乗せ、足には荷物を掴んで飛んでくれたギャブッシュ。
自分もしんどいだろうに、私に気を遣って飛んでくれるなんて、このドラゴン、男前がすぎる。
感謝を込めて、鼻筋をすりすりと撫でると、ギャブッシュも嬉しそうに喉をングガアオングガオち鳴らした。
「シーナ、ギャブッシュが伝えて欲しいって言ってる」
「いいんですか?」
ゼズグラッドさんはスキル『竜騎士』でドラゴンとも意思疎通ができるわけだけど、それは二人の絆であり、あまり訳したりはしない。
でも、最近のゼズグラッドさんは、私にはすぐに伝えてくれるようになった。
ギャブッシュと私の誤解を少なくするように、という心遣いなんだと思う。
今回も一応確認を取ってみたが、ゼズグラッドさんは私の疑問に、問題ないと笑顔で頷いた。
「ああ。シーナならいい。聞け」
ゼズグラッドさんがギャブッシュの隣に立ち、口を開く。
ここからはゼズグラッドさんの言葉ではなく、ギャブッシュの言葉。
『体調は大丈夫か?』
ギャブッシュの金色の目が優しく見つめてくる。
私はその目に、うんと頷いた。
「ギャブッシュのおかげで」
『そうか、良かった。……君はやはりオレと一緒に空を飛ぶのは嫌か?』
「いや、というか……」
すごくいや、なんだな……。
正直な心を吐露してもいいが、私と空を飛ぶのを楽しみにしていたギャブッシュにそれを言うのは忍びない。
だから、言葉を濁すと、ギャブッシュは苦笑いのような表情になって――
『オレは君の番として失格かもしれない』
「え」
え。いろいろと、え。
『番』という単語に、え。だし、ニュアンスも、え。
『君が嫌なんだってわかっているつもりなんだ。それでも……』
「ギャブッシュ……」
『……オレの背中に君がいる。そう思うと年甲斐もなくはしゃいでしまう』
あ、あ、あ、あ……。
『君と見る景色が、一番きれいだから』
「「ギャブッシュー!!」」
感極まる。こんなの感極まってしまうに決まっている。
なので、ゼズグラッドさんと同時に、ぎゅうっとギャブッシュに抱き付いた。
そして――
「雫ちゃんも……っ! レリィ君も……!」
私の隣にいた雫ちゃん。ついでにレリィ君も!
声をかければ、二人はあははっと笑って、ギャブッシュに抱き付いた。
「なんだいそれは! すごく楽しそうじゃないカ!」
それを見ていたエルジャさんも抱き付いた。
その瞬間、ギャブッシュがしっぽをブンッ! と大きく振って――
「ハハハッ! ボクには当たらないゾ!」
エルジャさんが高笑いを上げながら、そのしっぽを悠々と避ける。
私は抱き上げられ、雫ちゃんとレリィ君は、ころん、と優しく転がされていた。
「それにしても、こんなにドラゴンに懐かれるなんて、すごいネ!」
笑っているエルジャさんにギャブッシュがしっぽ攻撃の第二波をしかける。
どうやら、ギャブッシュはエルジャさんが気に食わないようだ。
「残念だけど、君のしっぽはボクには届かない」
ギャブッシュのしっぽをエルジャさんはスイッと避ける。
体に無駄な力が入っておらず、私から見ると、すごく簡単に避けているように見えて――
……もしかして、エルジャさん。
強い?
「シャーシャー」
思わず凝視していると、ギャブッシュが甘えた声で私を呼んだ。
「うんうん。わかってるよ。ギャブッシュのほうが二万倍かっこいいよ」
二億倍かも?
「ボクよりドラゴンのほうがかっこいいって? ハハハッ! 本当にシーナ君は面白いネ!」
エルジャさんは「お腹痛い」と体を曲げながら笑っている。
……エルジャさんって感性が独特。
すごく笑っているので、とりあえずそっとしておいて、私はギャブッシュのすべすべの鱗を撫でた。
「ギャブッシュ。がんばってくれているお礼にごはんを作ろうと思うんだけどどうかな?」
「シャー!」
私の言葉にギャブッシュが嬉しそうに声を上げる。
ゼズグラッドさんもそんなギャブッシュを見て、うれしそうに私を見た。
「シーナ、ギャブッシュがすごく喜んでる」
「はい。そうみたいですね」
ギャブッシュの金色の目がうれしいって細まっているから、私でもちゃんとわかる。
「シーナさん、料理をするの? 僕が手伝えることあるかな?」
「私も手伝います」
ギャブッシュに転がされていたレリィ君と雫ちゃんが立ち上がり、私の隣へとやってくる。
レリィ君はぎゅっと私の腕に手を回して。
雫ちゃんはふんわりと笑って。
「二人ともありがとう。それじゃあレリィ君にはこっちでたき火の準備をしてもらって、雫ちゃんには台所に一緒にいってもらおうかな?」
「うん!」
「はい!」
「シーナ様、私も手伝います」
「ハストさん、ありがとうございます」
ハストさんはエルジャさんに棒を刺そうとしていたけれど、それを切り上げて私のそばへと来てくれた。
ハストさんとレリィ君がいれば、キャンプ地はすぐに出来上がるので、任せていれば安心だ。
「それじゃあレリィ君はハストさんと一緒にお願いします。ちょっと周りを見てくるから、雫ちゃんはちょっと待っててね」
声をかけて、レリィ君の腕を外し、雫ちゃんにはその場に留まってもらう。
そして――
「アッシュさん、アッシュさん、なんだか元気がないですね?」
新作投稿しました。
「ほのぼの異世界転生デイズ~レベルカンスト、アイテム持ち越し!私は最強幼女です~」
ゲーム世界に転生した女の子が楽しくハッピーに悪いやつらをふっとばしながら異世界で生活していく話です。
年末年始の空き時間に、台所召喚と一緒に楽しんでいただけると幸いです。
台所召喚は明日も更新です!






