スキルの活用法
そう言いながらも、しっかりミルク缶を運んでくれた、まーくん……ゼズグラッドさんにお礼を言う。
「重たいのに、ありがとうございました」
「別にこれぐらい、重くねぇ」
私の言葉に、ゼズグラッドさんはけっと言うと、鍋を覗いた。
そこにあるのは、しっかりと炒められたベーコンとたまねぎ。小麦粉は最初とは違い、もったり感はなくなっている。油脂と混ざりあい、さらりとしていた。
「これに牛乳を入れんのか?」
「はい。しっかりと焼いた小麦粉に牛乳を入れると、とろりとしたソースができるんです」
「……シチューみたいなもんか?」
「そうですね。今回はシチューよりも、とろみを強くしたいと思ってますけど」
そう、今作っているのはシチューよりもとろみのある白いソース。
ホワイトソースなのだ!
ホワイトソースはバターと小麦粉をしっかりと炒め、そこに牛乳を入れて、泡だて器で混ぜる方法が一般的だが、今回は少しだけ手間を省き、失敗を防ぐために、具材も一緒に炒めた。
具材と一緒に炒めると、ダマになりにくいのだ。
さらに、しっかりと小麦粉を炒めると、コクが増え、完成後に粉っぽい味になることがない。
ただ、小麦粉をしっかり炒めようとすると、焦げてしまいやすく、真っ白なホワイトソースにならないことがあるから注意が必要なんだけど……。
今回は、レリィ君が火加減を調節してくれ、ハストさんが上手に混ぜてくれたので、しっかりと炒められているが、焦げはなかった。
「牛乳は全部入れていいのか?」
「はい、すべて入れてもらって大丈夫です」
うまい具合にできている鍋の中身ににんまりと笑っていると、ゼズグラッドさんに作業の確認をされる。
なので、その言葉に頷くと、ゼズグラッドさんはミルク缶を傾け、鍋の中へ入れていった。
熱い鍋に触れた牛乳は一度、ジュウッっと音を立てた後、静かに鍋に満たされていく。
「レリィ君、牛乳が沸騰するまで、一度、火力を上げてもらっていいかな」
「うん!」
「ハストさん、鍋肌に小麦粉が固まりやすいので、全体をよく混ぜるようにおねがいします」
「はい」
牛乳を入れた後の作業をレリィ君とハストさんに任せる。
そうして、火力を上げて、中身を混ぜていけば、牛乳はふつふつと音を立てた。
さらに、とろみも増してきて――
「シーナ様、どうですか?」
「はい、すごくいい感じです……!」
白い牛乳がほかほかと湯気を上げながら、とろりと木べらで掬われた。
しっかりと炒められたベーコンのかぐわしい香りと、たっぷりと入った甘そうなたまねぎが白いソースの中で存在感を放っていた。
あとは塩で味付けをすれば、具材は完成!
「この具材をさっき、ゼズグラッドさんが切ってくれたパンの器に入れていきます」
「あ? あのパンにこれを入れんのか?」
「はい。これとパンを合わせると、パンの気泡に染み込むんですが、食べるとやわらかく、じゅわっとあふれてくるんです」
「……それはおいしそうですね」
ゼズグラッドさんの疑問に返事をしていると、その言葉に、ハストさんの水色の目がきらきらと光る。
その目に、にんまりと笑って返して、隣にいたレリィ君に火を消してもらうように頼んだ。
「これで具材は完成なんですけど、ハストさんとレリィ君には、次にお願いしたいことがあるんです」
そう。具材は完成したが、これはまだ終わりじゃない。
パンに入れた後、もう一作業!
「レリィ君にはオーブンを温めておいて欲しいんだ。これから具材を入れたパンを焼きたいから」
「うん、任せて!」
私の願いを受けて、レリィ君は大きなオーブンへと移動し、薪を入れていく。
オーブンを温めるのは時間がかかるはずだが、レリィ君に任せておけば安心だろう。
なので、私とハストさんには鍋から離れて、さっきベーコンやたまねぎを切った作業机へと移動した。
「ハストさんにはチーズを削って欲しいです」
「チーズを?」
「はい。細長くこれぐらいの大きさのものをたくさん作ってもらいたくて……」
作業机には大きな丸いチーズが置かれていて、それを見ながら、ハストさんにお願いをする。
親指と人差し指で示した大きさは、長さは3cm、幅は5mm。厚さは薄めで。
そう。シュレッドチーズを作って欲しいのだ。
「チーズを削る器具があるのかな、とも思ったんですが、ハストさんならスキルでできるのかな、と」
「はい。可能です」
私の言葉にハストさんは力強く頷いてくれ、その手をチーズへと伸ばす。
すると、チーズが輝いて――
「すごい! あっという間……!」
さすが、ハストさん。
そこにあるのは指定通りの形をしたチーズ。
細長く削られたチーズはピザに乗せれば、とてもおいしいだろう。
「シーナさん! オーブンが温まったよ!」
「すごい! あっという間……!」
さすがレリィ君。
時間がかかるはずのオーブンの温めが瞬時。
「ハストさんのスキルとレリィ君のスキルは最強ですね……」
なんてすごいスキル……。
二人のスキルのすごさに感嘆する。
すると、ハストさんとレリィ君は二人で目を見合わせて――
「シーナさんがそう言ってくれると、このスキルのことを好きになれそう」
「そうだな」
二人の目がやわらかく細くなる。
そうして、目を合わせていた二人は、私へと視線が移した。
水色の目も若葉色の目もとろりと甘い色をしていて――
なんだかそれが照れくさくて、こほんと一つ咳ばらいをして、みんなに最後の作業をお願いした。
「それじゃあ、私がパンにソースをかけるから、レリィ君にはその上にシュレッダーチーズをかけて欲しいな」
「うん!」
「ハストさんとゼズグラッドさんには私とレリィ君が準備したものを、鉄板に並べて、オーブンに入れてもらってもいいですか?」
「はい」
「わかったよ」
みんな、すぐに私の言葉に反応してくれて、それぞれ作業にとりかかった。
ハストさんが鉄板を持ってきて、ゼズグラッドさんが用意してくれたパンを並べる。
そして、その鉄板をゼズグラッドさんは私の元へと持ってきてくれた。
パンの器を一つ取れば、その中にはお願いしていた通り、サイコロ状に切られたパンが入っている。
そこにホワイトソースを掬って、かけていった。
「……すげーな。なんかうまそうに見える」
両手に一枚ずつ。計二枚の鉄板を持ったゼズグラッドさんがその作業を見て、ごくり、と喉を鳴らす。
なので、にんまりと笑いながら、ゼズグラッドさんを見上げた。
「まだまだこれからですよ。チーズをかけて焼くと、もっとすごいですから」
そう! ポテンシャルが高い。
「あ、それにしても、片手で鉄板を持って、危なくないですか? パンが6つも乗っているので、こうしてソースをかけると、かなり重くなりますけど……」
「べつにこれくらい重くねぇ」
器用にも鉄板を片手で一枚ずつ持っているが、さすがに重いだろうと声をかける。
けれど、ゼズグラッドさんはけっと言うと、いいから、作業をしろ、と私を急かした。
そうして、すべてのパンにソースを入れると、かなり重くなったはずなのに、ゼズグラッドさんはとくに辛そうな様子もなく、軽々と鉄板を二枚持っている。
そして、チーズをかけるためにレリィ君の元へと歩いていった。
その、頼もしい後ろ姿を見ていると、胸がふわふわとして――
「ふふんラ――」
「ふふんらっしゅじゃねぇからな!!」
「まー――」
「まーくんじゃねぇからな!!」






