なんでこんなところに
本日二話更新しております。
前話がまだの方はそちらからご覧ください。
聖女視点です。
「シズク様。どこに向かう予定ですか?」
豪華な部屋。いたるところに金の装飾が施された質の良い家具。
そんな部屋にいても退屈だから、どこかへ行こうかと席を立ち、廊下へと続く扉へと向かう。
すると、一緒にお茶を飲んでいた、青い髪に緑色の目。眼鏡をかけた男性が私の後ろをついてきた。
……正直、この人は苦手だ。
最初のころは妙に優しくて、いつもいつも耳障りのいいことばかりを言っていた人。
けれど、少し前から、私の前にあまり顔を出さなくなった。
でも、それでよかった。
べつに困らない。
いなくたっていい。
なのに、一週間ほど前からまた顔を出すようになったのだ。理由なんて知らない。
「……裏庭です」
本当は行き先なんて決めてないけれど、とりあえず答えて、廊下を歩いていく。
すると、たくさんの人が私の周りにやってきて、一緒に動くことになる。
そうして、裏庭へとつけば、そこはいつもと変わりがない。
魔獣が来た、といって大きな鳥を見たときはびっくりしたけど、避難していれば、とくになにもなかった。
だから、私の日常はなにも変わらないまま、こうして庭を見て、過ごすだけ。
でも、部屋にいるよりはいいから、目の前に咲いている赤い花をぼんやりと見る。
すると、そのとき、ふっと目の前を何かが横切っていった。
それは茶色い体をしたバスケットボールぐらいの大きさのもので……。
「……にわとり?」
そう。そこにいたのはにわとり。茶色い羽のにわとりがコッコッと言いながら、歩いていた。
「なんでこんなところに……」
今まで、王宮でにわとりなんて見たことがない。
だから驚いて、言葉を零せば、後ろにいた眼鏡の人がどこか嬉しそうに声をかけてきた。
「あれはジドリというものらしいです」
「……じどり?」
それはもしかして『地鶏』だろうか。
でも、そんなものがこの世界にいるわけはない。
だって、ここは日本じゃない。
私のいた世界じゃない。
「ええ。……シズク様。シズク様は一緒に召喚された女性がいたのをご存知ですか?」
「知っています。でも、私とは違うところにいるから会えない、と。そう聞きました」
「これは、その女性が作り出したものです」
「……その女性が?」
「はい。その女性はすでにスキルも使えています。少し前まではこちらにいらっしゃいました」
「……そんな。じゃあ、今まではここにいたということですか?」
知らなかった。
だって、会えないって。
そう聞いていたから。
「どこに……どこにいるんですか?」
眼鏡の男性のほうを振り返り、じっとその目を見つめる。
すると、眼鏡の男性は薄く笑って言った。
「彼女は今、北の騎士団にいますよ」






