海日和
真珠についての潜入調査と観光をしながら情報を集めるチームの二つに分かれることになった。
なので、私と雫ちゃんはそれぞれ別行動だ。
せっかく、南の海に来て、雫ちゃんと楽しいことをたくさんしようと思ったのに……。
話が終わって、私と雫ちゃんの自分たちの棟に帰り、一泊。
ベットはふかふかで、旅の疲れもあって、私はすぐにぐっすり眠ってしまった。
そして翌朝――
「見て、雫ちゃん! 海だ!」
「はい!」
――私たちは海に来ていた。
「早起きしてよかったね!」
「はい!」
「エメラルドグリーンだね!」
「はい!」
「雫ちゃんの好きな色だね!」
「……っはい!」
別行動を始める前に、一緒に遊べばいいんじゃない? と早起きをしたのだ。
やっぱり、海遊びをしたい!
陽の光の下、エメラルドグリーンの海を楽しみたい!
雫ちゃんと一緒に!
「昨日は気づかなかったけど、砂浜の砂が白いね!」
「はい。夜と今は全然違いますね」
「宿が近くだから、海遊びにはぴったりだね。さすが観光地!」
宿の棟のテラスから下りると、そこはすぐに砂浜と海だ。
細かくて白い砂は、踏みしめるとザクザクと音が鳴った。
「あの……椎奈さん、水着、すごく似合ってます」
「そうかな? ありがとう。雫ちゃんもすごく似合ってるよ!」
波打ち際まで行こうと進んでいると、隣から雫ちゃんが声をかけてくれる。
はにかんだ笑顔がとってもかわいい。
そんな雫ちゃんは令嬢風のワンピースではなく、白いフリルビキニに。私は村娘風の服装ではなく、赤色のクロスビキニ。
そう! 私たちはしっかり水着に着替えていた。
「ここでも水着の文化があるなんてびっくりした」
「王宮で侍女の方などに話を聞いてみたんです。そうしたら、南では海遊びのときは水着を着るって教えてもらったので……」
「雫ちゃんが聞いてくれて助かったよ、王宮ではみんなロングスカートだし、もっと普通の服みたいな感じで、海で遊ぼうとしてた」
「あ、でも、デザインは私がお願いしたんです」
「え、これ雫ちゃんがデザインしたの?」
なにも考えずに着替えていたが、実はオリジナル……?
びっくりして雫ちゃんをみつめると、雫ちゃんは少しだけ表情を曇らせた。
「水着といっても、こう薄い布を着てる感じのデザインで、逆に危なそうだったんですよね……」
「危ない?」
「えっと……その……。侍女の方に聞いたところ、こういうビキニタイプも変じゃないし、むしろかわいいと褒めてもらえたので、こっちにしてもらいました。デザインといっても、覚えていた形を伝えただけなので、残りは王宮の方が手配してくれました」
「そっか、王宮の人に感謝だね。雫ちゃんの水着、とってもかわいい!」
王宮の人、本当にありがとう。
雫ちゃんのかわいさが2000%出ています……。
オフショルダーの袖に、胸の部分のフリルが非常に似合っている。
下はふんわりとしたショートパンツになっているので雫ちゃんの華奢な感じをより惹きたてていた。
――最高。
かわいい子のかわいい水着。
――最高。
「ね、ハストさん! 雫ちゃんすごくかわいいですよね!」
というわけで、反対隣りにいたハストさんへと声をかける。
そう。ハストさん。実はずっといる。
私たちが海遊びについて、伝えたところ、安全確保のためについてきてくれたのだ。
でも、水着に着替えた私たちを見てから、一言も話さない。
ずっと無言で周りを警戒しながら、殺気を飛ばし続けているのだ。
「……そうですね。ミズナミ様の雰囲気に合っています」
ハストさんはそれだけ言うと、またツイッと視線を外し、周りへの警戒へと戻った。
……朝早すぎて、砂浜にはだれもいないんだけどな?
不思議に思って、ハストさんを見上げる。
すると、ハストさんはおもむろに上着を脱ぎ始め――
「シーナ様、これを」
「え?」
「羽織って下さい」
「え? いや、今から海に入りますし、羽織ると濡れちゃうんですけど……」
明らかに水遊び用ではない上着(濡れると重そう)にさすがに戸惑う。
ハストさんが殺気を飛ばしているけど、まだ気温が下がったというほどではないし……。
そのやりとりを見ていた雫ちゃんが、私の隣から、ハストさんの横へと移動した。
「あの……ちょっとこっちへ……」
さらに、ハストさんに声をかけ、私から少しだけ遠ざかる。
「椎奈さんの水着、褒めなくていいんですか?」
「……そうですね。しかし……」
「私が水着を作ったのは、こちらの水着では布が重たすぎて、椎奈さんでは水遊びを楽しむ前に溺れるんじゃないかと思ったからです。椎奈さんなら、海に入ってさらわれてもおかしくありません」
「……たしかに」
そっか、私が溺れる心配をしてくれてたんだね、雫ちゃん……。
ハストさんも納得したね……。
しんらいかん……。
「このデザインもこちらですごくおかしいということはないって聞きました」
「はい、とくに問題はないか、と。……私の個人的な感情です」
ハストさんがそう言うと、雫ちゃんはなんとも言えない顔をして、それ以上はなにも言わずに、私の隣へと戻ってきた。
「椎奈さん、私、ちょっと先にいきますね」
「え」
そう言って、波打ち際まで走っていく。
慌てて、追いかけようとすると、手をそっと取られ――
「シーナ様」
「ハストさん?」
走ろうとした体勢で引き止められ、ゆっくりと振り返る。
すると、そこには目元を染めたハストさんがいて――
「どうしました?」
珍しいその表情に、なぜか私の心臓がドキリと音を鳴らした。
「シーナ様。……今朝の私の不自然な態度を謝ります。申し訳ありません」
「え、いやいや、それは、全然、問題ないです」
心臓の鼓動が速い。
そんな中、なにを謝られたかわからなくて、声が詰まってしまった。
それが恥ずかしくなって、もっと鼓動が速くなる。
「シーナ様、すごく似合っています」
「え、あ、」
水色の目が私を見て、優しく細まる。
まっすぐな言葉に、胸がきゅうっと痛くなった。
「シーナ様の白い肌に赤い色がすごく似合っています。首元で結ばれた布と、上腹部でクロスされて、背中側で結ばれた布が、とても素敵です」
「あ……あ……、ありがとう、ございます」
雫ちゃんが考えてくれたデザインはホルターネックだったので、首の後ろでリボンのように結んでいる。
さらに、バスト部分の布をクロスさせて背中側で結んでいるので、腰の部分や背中がオシャレなのだ。
ハストさんが私が気に入っている部分を全部褒めてくれたので、うれしい。
うれしいから、ちゃんと言葉を返したいのに、胸が痛くてうまく声が出てこない。
「あ、えっと……この、水着は下もいいですよ、ね」
「はい。布が巻いてあるんですか?」
「横の部分が開いているので、動きやすいです」
なんで、こんなに声が上擦っちゃうんだろう。
なんで、こんなに顔が熱いんだろう。
自分でもよくわからなくて、ハストさんに取られていないほうの手を、胸の前でぎゅっと握った。
「シーナ様……」
耳元で声が響く。
低くて、落ち着いた……甘い声。
「とても可愛い」
あ。
凍る。
「あ! あ! わ、私、ちょっとあっちに行きます!」
凍りそうになった体を、急いで動かす!
このままここにいては凍ってしまう! 南の海なのに!
「シーナ様、そちらは――っ」
とくになにも考えずに、走れば、そこは――
「あ、アッシュさん?」
――どうやら、アッシュさんたちが止まる宿の棟の前だったらしい。
ちょうど、テラスへ出ていたようで、私を見つけたアッシュさんが高笑いを上げた。
「ははっ! イサライ・シーナか! 朝から走るなんて、元、気だ……な……?」
が、言葉が不自然に止まる。
私の顔を見ていた目線がだんだんと下へと下りていく。
顔、胸、おなか、足。そして、もう一度、胸へと帰ってきて――
「アッシュさん……!? 血……!血がっ!?」
「え、あ?」
たらり、と鼻血を垂らした。
どうしたの!?
「あ、アッシュさん、鼻が弱いんですか!?」
「え、あ?」
「ああ、えっと、水着だから今、ハンカチとか持ってないんですよね。あっと……」
なにか拭くものを探すが、残念ながら水着なのでなにも持っていない。
鼻血はけっこうダラダラ出ているのに、アッシュさんはボーッとしている。
さっきまで、心臓がドキドキしていたが、今はまた違う感じでドキドキしているよ!
対応する気配が全然動かないので、こっちが慌ててしまう。
「熱中症とかですかねっ? 南に来たし? 陽の光を浴びすぎたとか? 海の照り返しとか? アッシュさん、なにか鼻を抑えるもの持ってないんですかっ!?」
原因を推測しながら、アッシュさんの元へ行こうと、テラスへと登る階段を探す。
すると、なぜか一気に気温が下がり……。
あ、これは――
「なにをしている」
南の海にも現われた。
極寒。極寒シロクマです。
寒い。
やっぱり上着がいるかもしれない。
「ひぃっ!」
そして、スイッチが入ったように動き始めるアッシュさん。
すごい。私がなにを聞いても動かなかったのに、ハストさんの棒の一閃で、あっという間にテラスから飛び降り、遠くまで走っている。
「やめろ! なにもしてないだろ!!」
「記憶を消すべきか、と」
「頭を狙うな! 普通に死ぬ!!」
「記憶を消してそうなるのであれば、仕方がありません」
「そんなわけあるか!!」
白い砂浜をアッシュさんが走っていく。
朝日に照らされた波打ち際に木の棒が刺さっていく。
さっきまで温かな気候だったエメラルドグリーンの海に、なぜか流氷の幻影が映る。
「……これが海遊びか」
いい うみびより です






