第124話:今度こそ幸せになります
「お嬢様、準備が整いましたわ。本当にお美しい事」
「ありがとう、アリー。なんだか見慣れないわね」
純白のウエディングドレスに身を包み、鏡に映る自分を見つめた。あの事件か早2年、今日は私とグレイソン様の結婚式だ。
王妃様とグレイソン様、さらに友人たちの支えもあり、何とか前を向く事が出来る様になった。その後クリストファー様が眠るお墓にも行き、必ず幸せになるとも約束してきたのだ。
そして今日、私は幸せの一歩を踏み出す。グレイソン様と一緒に。
ちなみにクリストファー様亡きあとは、陛下は国王を退き、弟でセレーナのお父様もあるミリアムズ元公爵が国王に就任した。そして王太子殿下には、その息子のセロス様が就任したのだ。
そんなセロス様も、1年前に婚約をした。相手はメアリーだ。あの2人、随分と仲を深めていたものね。次期王妃になるメアリーを、今度は私達が支えてあげたい。
さらに元陛下と元王妃様は今、王都を出て王族所有の領地でのんびりと暮らしているという。今でも元王妃様とは手紙のやり取りをするほど、仲良しだ。今日はわざわざ私の為に、元陛下と一緒に王都に来てくれている。
「さあ、お嬢様、皆様お待ちです、参りましょう」
アリー含めメイドたちに連れられ、部屋を出て控室へと向かう。今日は私達の為に、沢山の人たちが集まってくれているのだ。カラッソ王国からも、叔母様家族がわざわざ来てくれている。
私がカラッソ王国に出向いて以来、本格的に貿易を開始した様で、今では我が国でもパスタや真珠が普通に流通している。私の大好きな2つの国が交流を持ってくれた事が、私は嬉しくてたまらないのだ。
「ルージュ、そのウエディングドレス姿、とてもよく似合っているよ」
「グレイソン様もとても素敵ですわ。さあ、そろそろ参りましょう」
グレイソン様と一緒に、2人で教会の入口へとやって来た。なんだか緊張するわ。我が国では、新郎と新婦、一緒に入場するのだ。
ゆっくり扉が開かれ、2人で1歩1歩、歩き出す。たくさんの参列者に見守られながら。思い返せば、2度目の生が始まってから、本当に色々な事があった。1度目の生の呪縛にとらわれすぎて、すれ違ってしまった事もあった。
ヴァイオレット憎さに、復讐心が芽生え、その結果クリストファー様の命が奪われてしまった事。その事に対して後悔し、生きる希望まで失いかけた事もあった。
でも…
私はたくさんの人に支えられ、今日という日を迎えられたのだ。皆、本当にありがとう。1度目の生で果たせなかった幸せな未来を、今度こそグレイソン様と築いていきたい。
今日はそのための、第一歩なのだから…
~10年後~
「クラウド、レイジュ、そろそろ王宮に行きましょう。今日はクリス殿下に初めてお会いする日なのよ。どんな方なのか楽しみね」
「クリス殿下?」
「そうよ、レイジュと同じ、7歳の男の子なの。殿下は体が弱くて、お披露目も出来なかったのだけれど、少し体調がよくなったのですって。さあ、行きましょう」
グレイソン様と結婚して早10年、9歳の息子のクラウドと、7歳の娘のレイジュが生まれた。私達の宝物だ。
そしてセロス殿下とメアリーも8年前結婚し、御年7歳になる男の子、クリス殿下も生まれたのだが。どうやら体が弱くて、中々外に出る事が出来ないらしい。それでも先日、どうしても私にクリス殿下を会わせたいと、メアリーから連絡があったのだ。
その為、今日は家族4人で王宮へと向かった。
「ルージュ、グレイソン様、クラウド様、レイジュ嬢、よく来てくれたわね。この子がクリスよ」
王宮に着くと、すぐにメアリーの元へと案内された。メアリーの後ろに隠れている男の子を、メアリーが紹介してくれる。
ゆっくりクリス殿下に近づくと…
「えっ?クリストファー様…」
メアリーの後ろに隠れいていた男の子は、クリストファー様にあまりにもそっくりだったのだ。金色の髪に緑の瞳はもちろん、顔のつくりもよく似ている。
「やっぱりルージュもそう思う?この子を産んだ時、あまりにも殿下に似ていたからびっくりして。セロス様とクリストファー殿下は従兄弟同士だから、似ていてもおかしくはないのだけれど…それにしてもそっくりでしょう?この子はもしかして、クリストファー殿下の生まれ変わりなのではないかと思っているくらいなの。だからどうしても、あなたに会わせたくて。さあ、クリス、挨拶をして」
メアリーがクリス殿下に話しかけるが、恥ずかしいのかメアリーの後ろから動かない。すると
「あなたがクリス殿下?はじめまして、私はレイジュです。よろしくね」
レイジュがクリス殿下の方に来ると、にっこり笑って挨拶をしたのだ。
「綺麗な銀色の髪だね。僕はクリス。よろしくね、レイジュ」
少し恥ずかしそうに笑ったクリス殿下。その笑顔は、まさにクリストファー様を思い起こさせるほど、そっくりだった。彼の笑顔を見た瞬間、何とも言えない感情がこみ上げてくる。
「クリス殿下、あっちで遊びましょう」
「うん、いいよ。僕がお庭を案内してあげる」
レイジュがクリス殿下の手を取ると、2人で嬉しそうに部屋から出て行ったのだ。
「レイジュ、ダメよ!」
そう声を掛けたのだが…
「いいのよ、ルージュ。クリスも嬉しそう。あの子、人見知りが酷くて、私とセロス様以外とは、ろくに話もしないのよ。それなのに、レイジュ嬢、もうクリスの心を掴むだなんて。レイジュ嬢は、あなたにそっくりだものね。やっぱりクリスは、殿下の生まれ変わりかもしれないわね」
そう言ってクスクスと笑っているメアリー。
「ルージュ、もしもクリスがレイジュ嬢と結婚したいと言ったら、お嫁にくれる?」
急にメアリーがそんな事を言いだしたのだ。
「ちょっと、まだ2人とも7歳なのよ。気が早いわ…と言いたいところだけれど…グレイソン様はどう思う?」
「そうだね、もしレイジュがお嫁に行ってしまったら、僕は…」
フラフラと倒れそうになるグレイソン様に対し
「父上、僕がずっと傍にいるから、大丈夫ですよ」
そう慰めているのは、クラウドだ。
「クラウド、ありがとう。君はずっと僕の傍にいてくれるのだね」
クラウドをギューギュー抱きしめているグレイソン様、クラウドはちょっと迷惑そうだ。
「やっぱりレイジュは、まだ殿下には渡せない。今すぐ取り返しに行こう」
グレイソン様が、そのまま部屋から出て行った。私達も後を付いていく。すると…
「クリス殿下、このお花、キンシバイというのよ。お母様が好きなお花なの」
「僕もこのお花、大好き。レイジュの瞳の色と同じだね」
「クリス殿下の髪の色と一緒ですわ」
2人で楽しそうにキンシバイの花を見ていたのだ。その姿はまるで、私とクリストファー様の様だった。
「お母様、私、クリス殿下と結婚しますわ」
「僕も、レイジュと結婚する」
嬉しそうに私たちの方にやって来た2人。
「あら、もう2人で約束したの?今日会ったばかりでしょう?」
「いいの、ねっ、クリス殿下」
「もちろんだよ、レイジュ」
2人で見つめ合い、嬉しそうにしている。そんな2人を見ていると、クリストファー様の事を思い出し、涙が込みあげてくる。私はクリストファー様とは結ばれなかった。
でももし、クリス殿下とレイジュが結ばれたら…
もちろん、これからどうなるか分からない。でも…私は2人の気持ちを大切にしたい。今度は親として、レイジュやクラウド、さらにクリス殿下を見守っていきたい。
2人の幸せそうな笑顔を見ながら、そう願わずにはいられないのだった。
おしまい
随分長くなってしまいましたが、これにて完結です。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございましたm(__)m




