第119話:反撃開始です
「ルージュ、どうしたの?せっかくだから頂いたら?」
「そうよ、とても美味しいわよ」
セレーナ達も、私にマフィンを勧めてくる。でも…
「申し訳ございませんが、私はこのマフィンを食べる事が出来ませんわ。このマフィンには、毒が入っていますね?」
「ルージュ様、なんて酷い事をおっしゃるのですか?毒など入れておりませんわ。他の方も召し上がっておられますが、皆様特に何ともありません。いくら私が今まであなた様に酷い事をして来たからと言って、さすがに酷いですわ」
ポロポロと涙を流し、必死に訴えるヴァイオレット。
「ルージュ嬢、このマフィン、本当に美味しかったし、毒など入っていなかったよ。さすがにヴァイオレット嬢に失礼ではないのかい?」
「そうですわ、ルージュ様。ヴァイオレット様が可哀そうですわ」
他の生徒たちが、ヴァイオレットの味方をしだしたのだ。
「それでしたらヴァイオレット様、このマフィンはあなたが食べてみてください。もしあなたが食べて何ともなければ、改めて謝罪させていただきますわ。さあ、どうぞ」
ヴァイオレット様に、マフィンを差し出した。
でも、俯いてしまい、マフィンを手に取ろうとしない。
「どうされたのですか?毒が入っていないとおっしゃるのなら、食べてみてください。食べていただければ、毒が入っていないと証明できますよ」
「…何なのよ…あなた…」
ガタガタとヴァイオレットが震えだしたのだ。そしてギロリと私を睨んだ。どうやら本性を現した様ね。
「どうしてよ!どうしてあなたは最後の最後まで、私の邪魔をするの?私に何の恨みがあるというのよ!」
「あなたこそ、どうしてそこまでして私に執着するのですか?私はあなたに何もしていません。それなのに、毒まで入れて命まで狙おうとするだなんて!」
「どうしてですって?あなたが私のものを全て奪っていくからよ。私はね、可愛くて尊くて誰からも愛される存在なの。貴族学院に入学したら、殿下やグレイソン様はもちろん、学院中の令息が私の虜になるはずだった。皆から一目置かれる存在になるはずだった。でも!殿下もグレイソン様も、なぜかあなたの虜。私の方がずっと可愛いのに。どうして?どうして皆こんな女がいいの?私の方が何百倍も魅力的じゃない!」
「自分が一番じゃないと、気に食わない!ただそれだけの理由で、私の命まで奪おうとするだなんて、あなたは狂っているわ!」
「うるさい!あなたなんて、毒に苦しみながらこの世を去ればいいのよ。ほら、食べなさいよ!このマフィンを!」
マフィンを握りしめ、私に迫って来たヴァイオレット。その瞳はもう正気を失っている。
「止めろ、ルージュに近づくな!」
グレイソン様がヴァイオレットを突き飛ばし、私を庇う様に立ったのだ。
「それよ!それが気に入らないのよ。どうしてあなたがグレイソン様に庇われるのよ。そもそも、どうしてこのマフィンに毒が入っていることがわかったの?どうして私の邪魔ばかりするのよ!」
「あなたこそ、どうして私の幸せを奪おうとするの?自分の欲望を満たすために、平気で人の命を奪おうとするだなんて!あなたは人の命を何だと思っているのよ!」
1度目の生の時といい、今といい、私の命を何だと思っているのよ!ただ“気に入らない女”というだけで、殺されるこっちの身にもなってみなさいよ!
一気にヴァイオレットに対する怒りがこみあげてくる。
「ルージュ、大丈夫?ルージュはね、ずっとあなたが何か仕掛けてくるのではないかと考えていたのよ。だから私が協力して、ずっとあなたの行動を見張っていたの。だから今日、あなたが毒入りマフィンを持って来ることも想定済み。他の生徒に間違えて食べさせないように、そっと目印を付けていたでしょう。ほら、ここに」
ミシェルがマフィンの入っていた袋の底についている、青いシールを指さした。
「あなたがこの女にずっと協力していたの?何なのよ、あなた!どうして私の邪魔ばかりするの?私はあなたには何もしていないじゃない!」
「何もしていない?ふざけないで。私の大切な親友、ルージュを傷つけた時点で、十分酷い事をしたわよ。ヴァイオレット様、さすがに公爵令嬢でもあるルージュを殺そうとしたのです。覚悟は出来ているのですわよね」
ミシェルが真っすぐヴァイオレットを見つめた。
「ヴァイオレット様、私はあなたを絶対に許さない。あなたには私を殺そうとした罪を、償ってもらうわ!」
私は1度目の生の時、この女に家族もろとも無残にも殺されたのだ。だからこそ今回の生では、私の手でこの女を裁きたい、そう思う様になっていった。
さすがに公爵令嬢の私を毒殺しようとしたのだ。もう言い逃れは出来ない。さあ、罪を償ってもらうわ。




