第113話:皆から祝福を受けました
グレイソン様と婚約を結んだ翌日。いつもの様に、貴族学院に向かう。
「ルージュ、君はもう僕の婚約者だ。僕が必ずルージュを守るからね。もうあの4人にルージュを守ってもらう必要はない。あの4人にも、はっきりとそう言わないと」
なぜか朝から俄然やる気を見せているグレイソン様。そしてなぜか友人たちに、張り合っている様だ。
どうしてそこまで、あの子たちに張り合おうとするのかしら?私にはよくわからない。
馬車から降りると
「ルージュ、グレイソン様、ご婚約おめでとうございます」
「「「おめでとうございます」」」
「「「おめでとう、グレイソン、ルージュ嬢」」」」
私を待っていてくれたのは、友人4人とアルフレッド様だ。騎士団のメンバーの姿も。さらに…
「ルージュ嬢、グレイソン殿、婚約おめでとう。グレイソン殿、どうかルージュ嬢の事を幸せにしてあげて欲しい」
私達の前にやって来たのは、何とクリストファー殿下だ。まさかクリストファー殿下から、祝福を受けるだなんて…
「クリストファー殿下、ありがとうございます。ええ、もちろんです。僕が必ず、ルージュを幸せにして見せます!」
グレイソン様が真剣なまなざしで、殿下にそう伝えていた。そんなグレイソン様を見た殿下が、少し悲しそうに微笑むと
「ルージュ嬢、よかったね。どうか今度こそ幸せになってくれ。僕は君の幸せを、陰ながら見守っているから」
「クリストファー殿下…ありがとうございます。あなた様もどうか素敵な令嬢を見つけ、幸せになってください。あなた様にも幸せになる権利がございますから」
1度目の生で、クリストファー殿下は辛い最期を迎えたと聞いている。どうか今度こそ、彼にも幸せになってもらいたいのだ。
「ありがとう…そうだね、いつか僕にも素敵な令嬢が現れるといいな…それじゃあ、僕はもう行くね」
悲しそうに微笑んだクリストファー殿下、クルリと後ろを向くと、そのまま歩き出した。1度目の生で私が愛したクリストファー殿下。彼には本当に酷い事をされたけれど、それでも私は、殿下にも幸せになって欲しい。
どうか殿下にも、素敵な令嬢が現れますように。そう願わずにはいられなかった。
「ルージュ、グレイソン様、教室に参りましょう。きっと今日は、2人の話題でもちきりですわ」
マリーヌに背中を押され、教室へと向かった。そして教室に着くなり
「「「「グレイソン殿、ルージュ嬢、婚約おめでとうございます」」」」
クラスの皆が、一斉に祝福してくれたのだ。
「グレイソン殿とルージュ嬢、どう見てもラブラブだったものね。いつくっ付くのか、気になっておりましたのよ」
「一時期喧嘩をしていた時期もあったようですが、仲直りされて本当によかったですわ。再来月には婚約披露パーティもあるそうですね。私もぜひ参加させていただきますわ」
皆が次々と祝福してくれる。そんな中…
「グレイソン殿、ルージュ嬢。あの時は本当にすまなかった。あの…僕たちも祝福してもいいかな?」
私達の元にやって来たのは、ヴァイオレットに魅了された、哀れな侯爵令息たちだ。謹慎が解けた後も、目立たない様にひっそりと過ごしていた2人。ただ、そんな2人をグレイソン様が気にかけ、輪の中に入れていたのだ。
そのお陰で、最近ではすっかりクラスに溶け込んでいる。
「もちろんだよ、あの時の事は、もう気にしていないから。君たちにも是日僕たちの婚約披露パーティに来て欲しいと思っているよ。そうだろう?ルージュ」
「もちろんですわ。ぜひご参加ください」
笑顔でそう答えた。一時はクラスが気まずい空気になってしまった事もあったが、今は皆仲良しだ。そう、あの人を除いてだが…
チラリとヴァイオレットの方を見ると、すごい形相でこちらを睨んでいた。きっと私がグレイソン様と婚約したことが、気に入らないのだろう。ただ、そんなに露骨に睨まなくても。
とりあえず今は、そっとしておこう。せっかく皆が祝福してくれているのだ。水を差すような事はしたくない。
“見て、ルージュ。ヴァイオレット様のあの顔。あんなに露骨に睨まなくても。いい、ルージュ、十分気を付けるのよ”
私の耳元でそっと呟いて来たのは、ミシェルだ。こういう時でも、彼女はいつも冷静に周りを見ているのだ。
“ミシェル嬢、ルージュの事はこれからは僕が守るから、君は気にしなくてもいいよ。それにしてもヴァイオレット嬢め。ルージュが何をしたというのだ。こんな時にまでルージュを睨んで。そもそも昨日、誰よりも立派な真珠を強奪していたくせに。本当に図々しい女だな”
どうやらグレイソン様も、ヴァイオレットが睨んでいる事に気が付いた様だ。
“2人ともありがとう。あの人はああいう人だから、放っておきましょう。せっかく皆が、私とグレイソン様の婚約を祝福してくれているのですもの。今はそちらに集中しましょう”
不満そうな2人をなだめる。
その後先生も加わり、皆から祝福の言葉を沢山いただいたのだった。




