第112話:僕に出来る事は…~クリストファー視点~
「殿下、今ヴァレスティナ公爵家から通達が入り、グレイソン様とルージュ様が正式に婚約を結ばれたそうです」
「グレイソン殿とルージュが…そうか、ついに2人は婚約を結んだか…」
2人がお互いに惹かれ合っているのは知っていた。でも、僕の発言のせいで、一時期2人はすれ違っていた。
グレイソン殿はルージュを避け、そしてルージュはこの国を出て、叔母上がいるパレッサ王国へと旅立った。正直チャンスだと思った。このまま2人の仲が引き裂かれたら…
折を見て僕がルージュを、パレッサ王国に迎えに行こう。そう思っていた。パレッサ王国に行くための準備もしていた。でも、結局ルージュは帰国し、グレイソン殿と和解した様だ。
そして2人は…
分かっていた。ルージュが1度目の生の時の記憶が残っている限り、僕に勝ち目がないという事を。僕がどんなに後悔しても、どんなにルージュを大切にしたいと願っても、どうにもならない事を。
僕の存在自体が、彼女を傷つけ苦しめているという事を。
僕は婚約者だったルージュを裏切り、不貞を働いた。その上、ヴァイオレットの言う事だけを信じ、何の罪もないルージュを冷遇した。挙句、ろくに調べもせずに一方的に婚約を白紙に戻し、そしてルージュとその家族を死に追いやったのだ。
グレイソン殿には“君のせいで、ルージュとルージュの両親が死んだ”と言ったが、グレイソン殿だって、ヴァイオレットの被害者だ。彼は最後まで家族の事を心配し、ヴァイオレットの話を拒否していたと聞く。
それを無理やり決行させたのは、ヴァイオレットだという事も。
僕とヴァイオレットは、罪もないヴァレスティナ公爵家の一家を死に追いやったのだ。ルージュが僕を絶対に許せないという気持ちもわかる。
それでも僕は、この手でルージュを幸せにしたかった。
でも…
2人が婚約してしまった以上、僕にはもうどうする事も出来ない。僕にできる事は、2人を祝福し、身を引く事だけだ。
それがどんなに辛い事だったとしても。ただ、これが僕に与えられた罰なのかもしれない。神様は、僕にやり直しのチャンスをくれたのではない。僕に罰を与えるために、2度目の生を与えたのかもしれない。
そうだとしたら僕は、この現実を素直に受け入れるべきなのだろう。それが今の僕に出来る、ルージュへの唯一の償いだから…
それでも僕は、ルージュを愛していた。誰よりも…
「ルージュ…ルージュ…」
次から次へと溢れる涙を止める事が出来ない。今だけ、どうか今だけルージュを思い、泣かせてほしい。
しばらく泣いた後、そっと引き出しからあるものを取り出した。2度目の生の僕には、ルージュとの思い出の品はなにもない。でも、1つだけ。ルージュがくれた、真珠のネクタイピンだ。
パレッサ王国に行ったお土産に、ルージュが皆にくれたのもだ。ルージュにとっては、クラスメイト全員に配ったものだ。あえて僕の為と言う訳ではない。
でも僕にとっては、初めてルージュから貰った、宝物なのだ。この真珠の様に、いつまでもルージュには輝いていて欲しい。
その為にも、僕がやらなければいけない事は…
ルージュの幸せを願い、身を引く事だ。ただ…
あの女、ヴァイオレット。あの女はきっとまた、ルージュに何かしらしでかすに違いない。僕は1度目の生の時、ヴァイオレットの暴走を止められなかったどころか、共謀してルージュから全てを奪ってしまった。
既に追い込まれているヴァイオレットは、何をしでかすか分からない。せめてあの女の暴走だけは、絶対に止めて見せる。
それがルージュの為に出来る、唯一の事だから…
次回、ルージュ視点に戻ります。
どうぞよろしくお願いいたします。




