第106話:幸せです
「ルージュ、本当にごめんね。もう二度と君の傍から離れないから。ずっと一緒だよ。それから、これからは何でも話をする様にするよ」
「私の方こそごめんなさい。まさか殿下から、1度目の生の話を聞かされているだなんて思わなくて…私がきちんと話をしておくべきでしたわ」
もしかしたら殿下は、私が既にグレイソン様に1度目の生の時の話をしていると思って、話したのかもしれない。
「まさか僕たちが2度目の生を生きているだなんて、考えられないものね。ルージュが話すことをためらっても、不思議ではないよ。さあ、そろそろ寝ようか。今日はずっと移動していて疲れただろう。明日は貴族学院もあるし」
「そうですね、さすがに疲れましたわ。そろそろ寝ましょう、グレイソン様、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ…」
グレイソン様に挨拶をして、そのままベッドに入ったのだが、なぜかグレイソン様が部屋から出ていかない。
「グレイソン様?」
一体どうしたのだろう。
「この3ヶ月、ずっとルージュに会いたくてたまらなくて。何度もルージュの夢を見たんだ。夢の中のルージュはいつも笑顔で。嬉しくてルージュに近づこうとすると、目が覚めるんだ。だからなんだか不安で…今日はルージュの傍にいてもいいかな?」
不安そうな瞳で、グレイソン様がそう訴えて来たのだ。随分とやつれているグレイソン様を見たら、さすがに部屋からは追い出せない。
「分かりましたわ、それでは今日は一緒に寝ましょう。どうぞこちらへ」
「いいのかい?その…手は出さないから」
「分かっておりますわ。さあ、どうぞ」
グレイソン様が、遠慮がちにベッドに入り込んできた。元々大きなベッドなので、2人で寝てもまだまだ余裕がある。それでもなぜか、私の方にグレイソン様がくっ付いて来たのだ。
「ルージュに触れていると、ゆっくり眠れそうだ。ありがとう、ルージュ。お休み」
「おやすみなさい、グレイソン様」
グレイソン様が、私のおでこに口づけをした。さすがに今日は疲れた。それに、グレイソン様の温もりが伝わる。温かくて気持ちいい。
もうダメだ…
私は一瞬にして、眠りについたのだった。
翌日
「ルージュ、そろそろ起きて。ルージュ」
う~ん…この声は…
瞼を上げると、グレイソン様の姿が。相変わらずやつれてはいるが、穏やかな表情をしている。
そうか、私達、昨日一緒に寝たのだったわ。
「おはようございます、グレイソン様」
「おはよう、ルージュ。気持ちよさそうに寝ていたから、起こすのは可哀そうかと思ったのだけれど、さすがにそろそろ起きないと、貴族学院に遅刻してしまうから…」
申し訳なさそうに、グレイソン様が呟いている。どうやら寝坊をしてしまった様だ。
「大変ですわ。すぐに準備をしないと。グレイソン様もご準備を」
「僕はもう準備が出来ているから。外で待っているね」
ふとグレイソン様を見ると、確かに既に制服に着替えている。私も急いで着替えを済ませ、部屋から出るとグレイソン様が待っていた。
2人で仲良く朝食を頂く。こんな風にグレイソン様と一緒に食事をするのは、いつぶりかしら?そう思うと、嬉しくてたまらない。ただ、喜びに浸っている暇はない。寝坊をしたせいで、ゆっくりご飯を食べている暇はないのだ。急いで食べると、再び部屋に戻り、準備を整えて馬車に乗り込んだ。
「ルージュ、グレイソンも気を付けて行ってらっしゃい」
お母様が笑顔で見送ってくれる。この何気ない生活が、幸せでたまならいのだ。そうか、当たり前に過ごしていた生活が、実はとても貴重で幸せな時間だったのね。
「ルージュ、昨日僕が無理やり話をしたせいで、寝るのが遅くなってしまってごめんね。もっとルージュの体の事を、考えるべきだったよ」
「グレイソン様が謝る必要はありませんわ。私もずっとモヤモヤしておりましたので、昨日のうちに話しが出来た事は良かったですし」
昨日話が出来なかったらきっと今も、モヤモヤした気持ちで学院に行かないといけなかっただろう。そう考えるとやはり、昨日話をしておいて本当によかった。
「ルージュ、改めて僕を許してくれて、そして受け入れてくれてありがとう。これからは絶対君を傷つけないように、全力で守るから。それから今日、義両親に僕たちの事を話そうと思って。婚約の件もあるし…」
「そうですわね。婚約は早い方がいいですわ。きっと両親も喜びますわね」
お父様もお母様も、口では何も言わないが、きっとものすごく心配していただろう。それに私とグレイソン様がこの家を継いでくれたらと、心のどこかで考えていても不思議ではない。
両親にも心配をかけてしまった分、これからは心穏やかに生活をして欲しい。
それにしても、またこんな風にグレイソン様と一緒に学院に通えるだなんて。その上、グレイソン様と気持ちが通じ合ったのよね。
つい3ヶ月前は、もう二度とグレイソン様に会えないと思っていたのに…
そう考えると、今どれほど幸せか実感したのだった。




