第105話:随分遠回りをしてしまった様です
グレイソン様の瞳を真っすぐ見つめる。
「グレイソン様は、1度目の生というものを信じたのですか?」
「ああ、信じたよ。今までずっと不思議だったことが、殿下の話を聞いて全て解決したからね。それに殿下は、嘘を付いている様には見えなかったし。僕は1度目の生で、大切な人を死に追いやったんだ。そんな僕が、この公爵家にずっといていい訳がない。だから僕は…」
「グレイソン様、それは違います。1度目の生の時、両親は“自分たちの愛情不足のせいで、グレイソン様を死なせてしまった”と、悔いておりました。それに私も…最初はグレイソン様を恨んでいた時もありました。でも、2度目の生で初めてグレイソン様を見た時、その…1度目の生の時に処刑される寸前、絶望の目をしていたグレイソン様と同じ目をしていたあなたが気になって仕方がなくて…」
あの時の事を思いだすと、胸が締め付けられそうになる。
「グレイソン様と過ごすうちに、私がもっとしっかりグレイソン様と関りを持っていれば、グレイソン様はあんな女に騙されることはなかったのに…と、グレイソン様に申し訳なく思ったのです。それにあなたは1度目の生の時、私たちに迷惑を掛けたくないと、必死にヴァイオレット様に訴えていたと聞いています。あなたは1度目の生で、ヴァイオレット様に騙されて殺された被害者なのですよ」
「いいや、被害者なんかじゃない。あんな女に騙された僕がいけないんだ。僕のせいで、君たちは…だから僕は…」
「グレイソン様、1度ならず2度までも、私の両親を悲しませるのですか?両親は1度目の生の時も今も、グレイソン様を大切に思っております。もしも1度目の生の時の事を殿下に聞き、後悔しているのなら、今度こそ両親を大切にしてあげてください。今あなたが出来る事は、今度こそ両親を悲しませない事なのではないのですか?」
1度目の生の時、グレイソン様を失った両親は、本当に辛そうだった。だからこそ、2度目の生では、グレイソン様には両親の傍にいてあげて欲しい。
「先ほども申し上げましたが、私はもうグレイソン様を恨んでおりません。確かにヴァイオレット様や殿下に関しては、未だに憎しみが消える事はありません。きっと2人の事は、一生許せないでしょう。あの人たちは、明らかに私に悪意を持っておりましたので…それに私は、今度こそ幸せになりたいと考えております。出来ればあなたと一緒に」
すっとグレイソン様の手を握った。また手を振り払われたらどうしよう、そんな気持ちもあったが、振り払われることはなかった。それどころか、ギュッと握り返してくれたのだ。
「グレイソン様、私はあなたが大好きです。あなたが笑顔でいてくれるだけで、私も嬉しくなります。グレイソン様が傍にいてくれるだけで、幸せな気持ちになります。グレイソン様に避けられた事で、改めてグレイソン様の大切さを実感しましたわ。もし叶うのなら、私もグレイソン様の傍にずっといたいです。そして一緒に、公爵家を支えて行けたらと…でも、もしグレイソン様が私の事が嫌いだとおっしゃるのでしたら、明日にでもパレッサ王国に向かいます」
「ルージュ…ありがとう。僕の勝手な思い込みのせいで、ルージュや義両親を傷つけてしまった事、本当に申し訳なく思っている。アルフレッドにも怒られたよ。自分の思い込みだけで、勝手に物事を進めるな!自分さえ我慢すればいいという考えが、大嫌いだ!てね。僕は弱くて情けなくて、どうしようもない男だけれど、ずっと傍にいてくれるかい?」
「グレイソン様は、弱くもないし情けなくもないですわ。優しくて強くて、素敵な方です。私には勿体ないくらい」
「何を言っているのだい?ルージュほど素敵な令嬢はいないよ。ルージュ、僕の事を捨てないでくれ。もしまたルージュがこの国を出て行ったら僕はもう…ルージュ、パレッサ王国に行くのなら、どうか僕も連れて行ってくれ。もう二度と、あんな思いはしたくないんだ」
「グレイソン様ったら。あなたの気持ちが分かった今、グレイソン様を置いてパレッサ王国にはいきませんわ。ずっとあなたの傍にいます。ですから、どうか安心してください」
「本当かい?ルージュ、僕は君の事を誰よりも愛している。こんな僕だけれど、ずっと傍にいてくれるかい?」
「ええ、もちろんですわ。私もこの3ヶ月、グレイソン様の事を考えておりましたの。まさかグレイソン様と、心が通じ合うなんて思いませんでした。私もグレイソン様を愛しております」
真っすぐグレイソン様を見つめて気持ちを伝えた。
「僕のせいで、随分と遠回りをしてしまって、本当にすまなかった。ルージュにも随分辛い思いをさせてしまって。でも、これからはルージュに辛く悲しい思いをさせた分、ルージュを必ず幸せにする。だから、どうか僕と婚約してくれますか?」
「ええ、もちろんですわ。よろしくお願いします」
笑顔でグレイソン様に伝えた。すると、恥ずかしそうに微笑むグレイソン様。ずっと見たかったグレイソン様の笑顔。その顔が見られただけでも、幸せでたまらない。
ゆっくりグレイソン様の顔が近づいて来たと思ったら、唇が重なった。その感触が、なんだか心地いい。
私達、随分と遠回りをしてしまったけれど、やっと結ばれたのね。
グレイソン様に避けられ、大嫌いだ、顔も見たくないと言われたときは、本当に辛かった。でも、そんな辛さも、今の幸せで一気に吹き飛んだ気がした。
大丈夫だ、これからはきっと、幸せな日々が待っているはずだ。




