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3異世界の霊能者3

「ちぇっ……異世界もこんなんばっかり……」


 俺は大きなため息をついた。

 転生前の最後、俺はこの霊視能力のせいでトラブルに巻き込まれて、刺されて死んだのだ。


 その後、気づいたら異世界にいた。

 転生したのだと喜んだのも束の間、俺は現実を知ることとなる。


 なぜなのか転生しても俺の霊視能力は消えなかったのだ。

 その結果に知った。


 異世界には幽霊がたくさんいるのだということを。

 霊視能力のせいで困った目に遭ってきた。


 霊視能力、あるいは幽霊のどちらかがいないだけでも少しは気が楽に暮らせたものを。


「服、シワになるよ?」


「構いやしないさ」


 服のまま寝転がる俺にクーデンドはチラリと視線を向けた。

 いつの間にかクーデンドは司祭の服ではなく、就寝用のゆるい服装になっている。


 俺と違って行動が早いものだ。


「あーあ……聖騎士にはなりたいけど……ここじゃないところがいいな」


 天井を見つめ、愚痴をこぼす。


「まあ、合わないと思うならしょうがないけど、どこに行きたいの?」


 多少怠惰にしててもクーデンドが怒ることもない。

 変に信仰心をこじらせた奴なら俺の姿を怒り出しそうなものだけど、クーデンドのこうした寛容さは美徳だ。


「うーん、そうだな……海辺がいい。塩だ、塩」


「塩? 料理の味付け薄かった?」


 なんで急に塩なのかとクーデンドは不思議そうな顔をする。

 塩が必要な理由なんて、料理ぐらいしか思いつかない。


「ん? ああ、まあもう慣れたよ」


「慣れたって……」


 この世界の料理の味付けは割と薄めである。

 世界全体というのは言葉が広すぎるが、塩コショウを始めとして調味料はバカスカ使えるほど気軽なものではない。


 そのために調味料が入りにくい地域や裕福ではないところの料理は、自然な味付けのことが多い。

 もうこの世界に転生して十八年になる。


 子供の頃から自然の味付けに親しんできた。

 昔は醤油でも欲しいと思ったもので、今でも思いに変わりない。


 けれども調味料少なめな味付けにもすっかり慣れてしまったことも事実だった。


「別の理由で塩が欲しいんだよ」


 塩が欲しいのは料理のためじゃない。

 俺は軽く笑う。


 クーデンドに言われて、確かに味付けのためにも塩があるといいなと感じた。


「ばら撒くんだよ。パッとな」


 俺は塩を投げるジェスチャーを天井に向かって披露する。


「塩を?」


「塩を」


「なんで?」


「それを嫌がる奴らがいるんだ」


「僕も塩撒かれたら嫌だよ?」


「俺も」


 奇妙な会話。

 だけど俺は細かく説明するつもりもなく、冗談のように返す。


 食事なんかよりも、もっと物騒な理由で欲しいのだ。


「また変なこと考えてる?」


「変ってなんだよ?」


 クーデンドは寝転ぶ俺の顔を覗き込む。

 男に見つめられても嬉しくないぞ。


「いや、エリシオ、時々変なことするから」


「そーか? そんなつもりないんだけどな……」


「ふふ、自覚ないんだもんね」


 クーデンドはくすくすと笑う。

 俺の行動が時々変だと言われていることは自覚している。


 変に顔がいいものだから変な行動と相まって奇公子なんて呼ばれることもある。

 貴公子にかけてそう言われるのだ。


 回帰前の記憶があると常識と違うことをしてしまうこともあるのだ。


「早く寝よう。明日も朝早いから」


「そうするか……」


 気づけば外は暗くなってきている。

 暗くなると見習い聖職者にはロウソクぐらいしか明かりがない。


 着替えるのも大変になってしまう。

 俺もさっさと神官の服を着替えて、再びベッドに横になる。

 

 寝る前に神に感謝のお祈りをする敬虔な人もいるけれど、俺はそんな気分になれなかった。

 安いベッドは寝返りを打つと小さく軋む。


 今日はなんだか、軋みが大きく聞こえた気がしたけれど、もうこの世界の生活も長い。

 たかが軋みなどに睡眠を邪魔されることなく、俺は眠りに落ちていく。

 

 そして次の日の朝早く、ソコリアンダ大司教の遺体が教会で発見されたことで寝覚めも悪くなることは、まだこの時は知らないのだった。

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