表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/22

11捜査開始3

「今からお前は俺の助手だ。お勤めはしばらくお休みだ」


「ああ、それは残念」


「エリシオ、本当に残念だと思ってる?」


「もちろん本当だよ」


 全く残念だと思っていない俺の顔をクーデンドが疑うような目で見ている。

 もちろん残念だなんて思っていない。


「俺はどうっすか? 情報通ですよ?」


 お勤めをサボれるとあって、マルチェラがゲルディットに自分をアピールする。


「こいつが使えなきゃ君に声をかけよう」


「俺はマルチェラです。お声がけ、熱烈に待ってます!」


 ゲルディットのリップサービスにマルチェラは笑顔を浮かべる。

 多分一生待ったって声はかからない。


「行こうか。紹介したい人がいる」


「頑張ってね、エリシオ」


「ああ、じゃあまた後で」


 俺はゲルディットの後について聖堂を出る。

 マルチェラの羨ましそうな視線が背中に突き刺さる。


「ユニークな友達だな」


「良い奴らですよ。それよりも……これ、何なんですか?」


 俺は手に持った剣に視線を移す。

 軽く抜いてみる。


 ちゃんと金属の刃がスラッと出てくる。


「念のためだ。悪魔が関わってるかもしれない。だとしたら……戦いになるかもしれないからな」


「普通、見習い聖職者に剣渡しますか?」


「お前は普通じゃないからな」


 ゲルディットは軽く笑みを浮かべる。

 どこをどう見たって普通の見習い聖職者だろうと俺は肩をすくめる。


「それで、紹介したい人とは?」


 剣をもらえるのは悪いことじゃない。

 お遊びじゃないと分かったのだから、剣をもらったことは納得できた。


「今俺が面倒を見ている奴がいる。魔物の討伐があったから合流が遅れてな。まだ悪魔祓いに来たばかりの新人だが、これからお前の先輩にもなる」


 ゲルディットがドアを開ける。


「おおっと……」


 部屋の中にはゲルディットがいう紹介したい人がいた。

 窓際に立って外を見ている。


 俺たちが入ってきた音に気づいて、その人が振り返る。


「デカいな……」


 全身フルアーマーの男か女かも分からないようなのが紹介したい相手らしい。

 鎧を着ているからデカい。


 だがそれだけではなく、背も高い。

 俺も決して背が低い方ではない。


 むしろ背は高めだろう。

 なのに俺よりも頭ひとつぐらい大きいのだ。


 性別が分からなくなるような鎧も含めて威圧感がすごい。


「パシェだ。配置は魔。二人にはまとまって動いてもらうから、もし悪魔と戦うことがあればお前が聖を担当しろ」


「分かりました。俺はエリシオです。聖騎士の希望だから……先輩になりますね。よろしくお願いします」


 一応丁寧な言葉遣いで挨拶しておく。

 多分何にしても聖騎士の部署には行く。


 わざわざ先輩になるかもしれない人の不況を買う必要はない。


「……よろしく」


 パシェが小さく頭を下げる。

 動くと鎧が擦れるガシャガシャとした音が響く。


 声から性別が分かるかなと思ったけれど、声は小さくヘルムでこもった状態ではどちらか分からない。

 俺はヘルムの奥に見える目を覗き込もうとするが、目を逸らされてしまう。


「許してやってくれ。人見知りがちで寡黙な奴なんだ」


 ゲルディットは困ったように笑っている。

 性別がどちらでも変わることはない。


 ヘルムをとって挨拶しないからと俺は別に怒りもしない。


「さて、早速取り掛かるぞ。まずは遺体の確認からだ」


 時間は有限。

 挨拶が済んだら仕事に取り掛かる。


 ソコリアンダの遺体を確認しに行く。


「大変そうだな」


 部屋から出る時にパシェは軽く体を屈めている。

 背が高いので、そのままでは頭がドアの上にぶつかってしまうのだ。


 前に行けばいいのにと思うのだけど、パシェは一番後ろを歩く。

 後ろから鎧が歩く音がするのはなかなか気になってしまう。


 幽霊に付き纏われる時よりも違和感を感じる。

 だが文句も言えなくて俺はバレないようにため息を漏らしてしまった。


「連絡が間に合ってよかった。本当なら聖堂の方も残しておいてほしかったものだがな」


 誰もいないことを確認してゲルディットが舌打ちした。

 この世界で事件捜査の手順なんてあってないようなものだ。


 現場を保全して遺体も調べる、なんてことはしない。

 特に聖堂は一般の人も使うのでさっさと片付けられてしまった。


 ソコリアンダの遺体も下手すると処理をして葬儀に取り掛かるところだったのだ。

 犯人を見つけろという割には、そういうところの常識はまだまだ劣っているところがある。


「血まみれの聖堂だろうが、祈りは変わらないのにな」


「血の横で祈りたい人なんかいませんよ」


「そりゃ贅沢ってもんさ。祈りはどこでも祈りのはずだ」


 ゲルディットも前までは遺体なんか悪魔に悪用される前に片付けろという人だったが、ちょっとしたことがあってからその考えが変わったのだ。

 ギリギリで連絡が間に合ってソコリアンダの遺体は保管されていた。


「遺体を神聖力で保護して守れだなんて、前代未聞の指示だ……」


「今は中央の方ではこうした処理も広まりつつありますよ」


 当然ながら遺体を長時間安置しておくための場所などない。

 遺体は不浄であり、悪魔が寄ってくる原因にもなりかねないと教会の中には置いておけなかった。


 そこで教会近くにある墓地の、一時的に死体を置いておく場所に大司教の遺体も置いてあった。

 大司教相手にも非情なものだ。


「死んで、こんなところに置かれるのか……」


 教会の一等地に置けとは言わないが、多少の融通を利かせたっていいだろうに。

 遺体保管所は軽く遺体の様子を整えるぐらいの場所で、正直粗末な場所だった。

 

 そして遺体保管所のおじさんは長くソコリアンダの遺体が置かれていることに渋い顔をしていた。

 定期的に聖職者が来て神聖力を込めて遺体を保全していたが、気分は良くなさそうだ。


「早くしてくれ。魔物になる前にな」


 人望があっても死ねば終わり。

 そんな悲しさを覚えてしまう。


「幽霊とは違うもんだな」


 遺体はすっかり血の気のない顔色をしている。

 幽霊のソコリアンダの方が元気に見えるぐらいだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ