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Atlantis World Online -定年から始めるVRMMO-  作者: 双葉鳴
一章 お爺ちゃんとVR
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大型レイドボス討伐イベント ④

本文:秋人視点

あとがき:お爺ちゃん視点

 種は撒かれた。あとは成り行きを見守るのみだ。

 僕は掲示板で加速化された情報群をみやりながら手元の作業に意識を向け始める。


 既に噂は大きく広まりつつある。

 お義父さんのブログだ。あの後もただ見るだけでなんらかのスキルが生えるという人物が後を絶たない。

 生産特化の自分でさえそうだった。じゃあ戦闘特化ならばと協力者に確認を取ってみたところ、案の定派生スキルがバンバン生えたと笑って話してくれた。


 『漆黒の帝』

 プレイ時期を同じくした戦闘特化のクラン。

 開始時期が同じで、プレイ時間も似通った事から多くの狩場で顔を突き合わせた。

 戦闘には戦闘の、生産には生産の言い分がある。

 それでもそれらに与しなければ見えてこないものもあった。

 そう言った意味でも名前を見るたびに互いに嫌悪感を募らせていた。


 あんなにもいがみ合っていたのに、今となってはそれが演技であったかのように協力的だ。

 余りにも潔い掌の返しように困惑は否めないが、向こうも好き勝手に動く新入りに苦労したと語ってくれる。

 最初の方こそ家族や兄弟を中心としたクランだったそうだ。

 男兄弟が多く、動き回るのが得意な戦闘向きな性格がクラン立ち上げのきっかけになったと言っていた。


 話してみればウチも似たような苦労をしてきた。

 最初こそ物作りが好きな集まりだった。戦闘特化と生産特化はいつの時代でもいがみ合う定めにあるのだろう。

 自分に力があると思い上がったプレイヤーは戦闘能力のない生産職を軽視する傾向にある。

 そういったプレイヤーから身を守るクランを作れないかと立ち上げたのが『精錬の騎士』だった。

 騎士と名乗っているが、戦う術を持たぬ者ばかり。

 だから僕は情報を武器として掲げてみんなを守った。弱者を守る騎士のように振る舞った。


 それを彼に聞かせたらリアルであって話がしたいと声をかけられたよ。


 リアルと言ってもVR空間だ。今の時代はどこに行くのもこれになってきた。リアルモジュールのアバターを着せ替えてやるので楽といえば楽だが、指定場所を予約して貸切にする必要があったりと面倒なことは付き纏う。

 その苦労話を糧にして自分でも何かを変えたいといっていた。

 この出会いに感謝をしつつ、そこで今度のイベントの方針を伝えた。


「俺たちに遊撃部隊をまかせたい?」


 『漆黒の帝』のクランマスターである金狼氏の声に僕はただ頷いた。

 アバターに対して本名を設定する必要はなく、予約では金狼とオクトになっているのでなんら問題はない。


「うん。一応イベントの指揮はこちらにあるけど、それはそれとして君たちのクランが誰かの命令を受けて素直に受け取るとは思えなくてね」


 金狼氏の眉根がピクリと上がる。おー怖い。

 でも僕もクランをまとめるマスターだ。怖いからと引き下がれない。


「勘違いして欲しくないんだけど別にこっちの命令を聞けって意味じゃなくてね、現場には現場の監督が必要だって考えたんだ。碌に戦闘スキルを持ってない僕に言われるのと、向かう所敵なしの君に言われるのとではどちらが君達クランの士気が上がる?」


「そういうことか。確かに生産しかしてないやつに命令されるのはこっちの苦労も知らないでとカチンとくる。俺はそれなりに社会に出て辛酸を舐めてきたから耐えられるが、息子を筆頭に若い奴らが素直に聞くとは思えない。了解した。戦闘指揮はこちらで執る」


「了解してもらえて助かるよ。代わりにこちらからは情報を渡そう。それと消耗品の補給も期待してくれ。いつもは相場と相談するが、今回は大盤振る舞いだ」


「ありがたいが懐は平気か? 生産と言っても元手はタダじゃないだろう?」


 金狼氏はその見た目の怖さとは別に思慮深さを醸し出す。なかなか機微に聡い御仁のようだ。


「問題ない……と言いたいところだが、どちらにせよイベントを失敗すれば僕たちの名前は地に落ちる。なにせ規模が規模だ。今までは大手クランがその手綱を引いてくれていたが、中堅の僕たちがそれを上手く握れるのか心配してもし足りない」


「ああ。俺たちは別に名前が落ちてもやることは変わらんが、そっちは大問題だろう? なんせ信用商売だ」


「なに、上手くやるさ。リアルでは商社マンでね。こういった案件は慣れている。その為日中は参加できないが、その為にクランはあると思っている。うちの妻を通していくつか話がそちらに行くと思う。その時は頼むよ」


「おう。こっちも俺がいない時は弟が相手する。俺も日中は対応できないんだ。一応こう見えて社長でな」


「お互いにリアルでは大変だろうがこのイベントを上手く乗り越えよう」


「ああ、頼りにしてるぜ?」


 差し出した手をガッチリ掴んで握手した。

 そのあとは雑談を交えて名刺交換。

 名刺にはコールアドレスとメールアドレスが添えてあるので個人的に連絡を取りたい場合に有用だ。

 それと同時に太いパイプができてしまった。



「まさか大手グループの社長さんとはな」


 いまだに緊張の方が上回る。乾いた喉に唾を流し込み、大きくため息をついた。

 見た目からはそうとは思えないが、話してみればやはり特有のオーラを纏っていたように思う。

 またお義父さんに助けられてしまったな。ますます頭が上がらなくなる。

 本当にあの人は、どれだけ僕の前を歩いているんだろう。




 ◇




 そんな密談を交えてゲームにログインすると事態は急変していた。

 クランメンバーからのコールを受け取り、妻へと食事が遅くなると伝えた。


 数日間沈黙を守っていた森の様子がおかしくなっていると。

 ブログの画像を見ることでようやく認識できる巨大な卵の表面に亀裂が入っていたのだと情報を受けた。


 僕はクランに入ると緊急会議を開いた。


「済まない遅れた。事態はどこまで進んだ?」


 投げかけた言葉に常駐メンバーが情報を差し出してくる。


「罅が入っただけで本格的に活動はしていない、か」


「はい。ですが動き出すのも時間の問題かと」


 過去のサードウィルの惨劇と比べてみても、気がついたら町が攻撃されていたパターンを思い出し、参謀のシャーレンが楽観視すべきではないと物申す。


「分かった。現場は向こうの領分だ。こちらは生産に集中し、出来るだけ戦闘組を労う方向で動こう。ポーションの在庫は如何程だ?」


「参加プレイヤーが不透明ですので各10万づつ」


「最低1000人でも100個づつか、少ないな。今回はボール型が相手とは言え、強化個体がどれほどの難敵か分からない。それに序盤の街ということもあって初心者の参加も多い。初級ポーションの数を多く回し、中級者向けにスタミナポーションを多めに作るよう指示しろ。僕も生産に回る」


「了解しました」


 シャーレンが伝達して回るのを確認してからログアウト。

 僕は気疲れしながら食卓へと足を向けた。

お読みいただきありがとうございます。

以下お爺ちゃんのターン



 ◆スズキさんの覚悟


 対峙した強化個体は明らかに様子がおかしかった。

 強度が通常個体より高いことを除けばそれ以外の行動は同じようなものだと行動パターンと弱点が物語っている。

 だからスクリーンショットで確認したら、違う情報が出てきたのだ。


[ボール・強化型の情報を獲得しました]

 耐久:250/500

 戦闘行動:突撃、加速、統率

 弱点:水、真水、聖水、水銀、銀

 状態:衰弱(蓄積ダメージ)



 それは弱点の追加? いいや、変化だった。


「どうも敵の情報が変更されたようです。水中にいることでストレスが溜まって、勝手に弱ってます」


「つまり?」


 スズキさんは理解していながらも聞いてくる。

 銀の矛を構えながら、いつでも攻撃できる姿勢を保っていた。


「チャンス、と言いたいところですが相手は手負い。なにをしてくるかわかりません。それとこちらは戦闘に関しちゃ初心者もいいところですから慎重にいきましょう」


「はい!」


 スズキさんはその言葉が聞きたかったと言わんばかりに水を蹴って強化個体と距離を取った。

 弱ってる相手に近接戦闘を挑むのは、戦い慣れた相手だから出来ることである。対してスズキさんの得意な攻撃はすれ違いざまの引っ掻き攻撃。武器を使っての攻撃は例え特効武器と言えど初めてのことだった。

 だから手段は距離を取っての水鉄砲。

 私の前を取り、発射の姿勢を取ったあたりで強化個体の動きが急変した。

 今まで停滞していたのは何かの機会を窺っていたのだ。

 それは先ほどの水鉄砲だったならば?

 いけない!


「スズキさん!!」


 瞬間的な硬直姿勢をついて強化個体はスズキさんとぶつかり、交差した!


 しかし、泥を撒き散らしながら散って行ったのは強化個体の方だった。


 スズキさんの手には銀の矛。

 水鉄砲は最初からブラフで、相手の攻撃を誘う目的だったのだ。

 そして動き出したら止まらないボール型の前にスズキさんは銀の矛を置いたのだ。

 狙いが直線的であるならば、当てることは容易いと言わんばかりにやってのけたのである。


「ヒヤヒヤしましたよ」


「ごめんなさい。でも、ハヤテさんが味方だったからこそできた対処です。もしここで突っ込めと言われていたら、こうも上手くはいかなかったでしょう」


「それでも事前に言って欲しいです」


「ごめんなさい。僕は自分がちゃんと考えて戦えるってことをハヤテさんに教えたかったんです」


「はい。普段のスズキさんらしからぬ凄さを体感できました。それと今のシャッターチャンスを逃してしまったのは痛恨のミスです」


 そういうとスズキさんは照れた。

 流石にその姿世に出回るのまでは許可してないと言いたげに少し不機嫌そうにした。


「冗談ですよ。さあ、次のフィールドに向かいましょうか」


「はい」


 少しだけオドオドした彼女の手が、私の差し出した手に触れた。

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