大型レイドボス討伐イベント ②
本文:秋人君視点
あとがき:お爺ちゃん視点
お義父さんと別れを告げてからログイン。
娘やお義父さんは夕方までにログイン権使い切ってしまったようなので妻を従えてのログインだ。
クランリーダーは僕だけど、今回の件は僕の知らないところで起きている。
このご時世、リアルからゲーム内にコールできるとはいえ、出勤中にそんなことできるわけもなく、それを知ったのは夕食の席でのことだった。
情報社会では勤務中のコール内容が事細かく記載されてる。勤務中にゲームにうつつを抜かす人材は要らないとすぐに首を宣告されるのだ。
なので勤務時間が終わるまで、外部の情報は一切遮断している。
「今戻った。話はどこまで進んだ?」
「お帰りなさいマスター」
「お帰り」
「おかー」
クランホーム内ではそれぞれの位置から反応がある。
このクランは基本的に生産特化。午前中に採取班が獲得してきた素材を、それぞれの時間にやってきた生産プレイヤーがその日のノルマをこなし、あとはやりたい事をやるのが主流になっている。
なのでマスタールームでそれぞれの情報を聞くことになるが、当然午前組の声は入ってこない。
このゲームではログインに規制がかけられており、1日に入れる回数は3回までと決まっている。だから午前中に回数を使い切った人の声は夜組の僕には届かないのだ。
その為に妻のパープルに情報収集をして貰っていた。
彼女の仕事は掲示板閲覧から始まり、素材採取場所の確保。そして新素材の情報を情報屋から仕入れるというものだ。
パープルはお義父さんさえ絡まなければ非常に優秀な秘書なのだ。
「──なるほどね。それで向こうさんのクラマスからコールやメールが届いていたわけか」
コールは直通の電話。メールはプレイヤーネームを指定しての文章のやりとりになる。当然、コールは相手がログインしている必要があり、していなければ届かない。そして消去法でメールになった。こちらはログインしていようといなかろうと届く。
僕は外交的な立場にあるので基本的に特定プレイヤーの制限はしてないんだ。中にはクランが不利になる嘘の情報も混ざっているのでそういうものはスパムとして削除してしまってる。
だから情報系は妻に任せていた。最終決定権は僕にあるから、こう言ったありがたい話も僕を絡めなきゃ進めないようにしていた。
彼女は優秀だが、お義父さんの指摘通り周囲の思想に染まりやすい。
今回の話の発端はお義父さんにある。
そして武力特化の『漆黒の帝』クランとも協力的な姿勢を見せた仕掛け人もお義父さんだ。
なんだろうか、まるで全てができすぎている。
これは試練なのか?
お義父さんはこれぐらいの試練を乗り越えて見せろと僕に言っているのだろうか?
ともかくとして、生産クランであるウチとしては非常にありがたい申し出だ。うちのメリットは引きこもっての生産ラインの提供だ。
武力面は向こうに任せて、生産ラインはこちらで一手に担う。その方向性で向こうは求めてきていた。
そしてイベント期間中はこちらの指示に従うとも。
同時期に始めたが、圧倒的に格上の『漆黒の帝』がだ。
見えない力が裏で働いている気がした。
お義父さん、貴方は一体どこまで僕を試す気ですか?
結婚して15年経とうとも信用してもらえてない気がして、気持ちが引き締まる思いだった。
情報を統括し、収束させる。
今回のイベントの規模を考えれば、すべてのプレイヤーにチャンスがある方向で行くことで決定した。
全てのプレイヤー。それは戦闘ビルドではない我々にもチャンスがあり、新規プレイヤーにもあり、そして中堅、上級者プレイヤーも呼び込める仕掛けを施す。
それがモンスターの情報や攻撃パターン。イベントに関する情報を集めてくれた人物に対してのポイント贈呈。
そのポイントをウチのクランで製作したアイテムと交換する権利だ。
これは参加者になってくれたプレイヤーに配るカードによってこちらで管理する。
戦闘中に消費されると予測されるポーションやスタミナ回復系アイテムは低ポイントから交換してしまえるように配備し、中堅どころにイベントモンスターの特効武器、アイテム。
それでもポイントが余るような上級者であれば、ウチの秘蔵の品を購入する権利書をつける。基本的に予約制で二年先まで埋まってる。なにせ高級素材の高品質武器。これぐらいの目玉商品をつけなければ上級者プレイヤーは釣れないからね。
勿論それ相応のお値段は頂くが、だいたいは転売されてプレミアな価値がつくのでそれよりはマシという価格。買える権利だけでもありがたいと思って欲しいね。こちらもそれまでに費やしてきた素材を換算すればそれ以上の赤字を出しているんだ。強い武器ほど高いというのはどこのゲームでも常識だよ。
ウチのクランは中堅と言えど、武器や防具の質で言えばトップ層と並ぶ程。並ぶだけで一度もトップに輝けないのは、ウチ以上に生産特化のクランがあるからだ。どこにでも職人気質って人はいるよね。
ウチはどちらかと言えば子持ち世代が多いのでちょっとした家事仕事の合間とかのながらプレイヤーが多かったりする。
そういうゆるさがそれなりのプレイヤー確保の根底にあるのだ。
ガチのクラン程リアルを犠牲にしているからね。トップ層はそういう人で埋められてるよ。ログイン回数がどうとかじゃなく、思考がそこに特化してしまってる人達。考え方が違うから馴れ合えないんだ。
悲しいことにね。
「それとオクト、お父さんのブログの件だけど」
「今確認した」
オクトは僕のゲーム内ネーム。
秋人=秋=10月生まれ=October=オクトという単純な着想だ。
お義父さんが残してくれたのはイベントだけでなく、もっと大きなものだった。
[スキル:中位錬金を獲得しました]
[スキル:上位錬金を獲得しました]
[水銀のレシピを獲得しました]
[水銀錬成を獲得しました]
[スキル:中位合成を獲得しました]
[スキル:上位合成を獲得しました]
[錬金、中位錬金、上位錬金、合成、中位合成、上位合成は特定派生の元統合され『魔導錬金』になりました]
それは今まで取りこぼしていた情報群。
生産しただけではつかめなかった空白の歴史が、僕の中へと流れ込んできた。
思わず乾いた笑いが出てしまう。
お義父さん、貴方は一体どこまで僕を振り回すおつもりですか?
聞けばクランメンバー全員がこのブログからなんらかのスキル統合まで持っていってると聞いた。
もはや全員がお義父さんのブログの固定ファンだという。
それ以前に、読んでてしんみりするといった。
メンバーの中には早くに親御さんをなくしたプレイヤーもいる。
その世代の独特の語り。独特の感性を感じ取り、懐かしがっていた。
同時にそんな親を持てて大層羨ましがられたよ。
パープルも自慢げに話していた。
やはりお義父さんは僕の見込んだ通りの人だった。
本人は頑に自分は大したことをしてないというが、それをさらりとやってのけるから凄いんだと自覚していない。
でも、だからこそなのだろう。
僕も早くお義父さんに認めてもらえるように頑張らなくてはいけないな。思わず拳を力強く握り締めていた。
お読みいただきありがとうございます。
◆水中戦闘Ⅱ
案の定、水中での動きの遅いスワンプマンタイプは振り切れた。
しかし逃亡した先でまたもや戦闘演出が入り、私達は戦闘フィールドに囚われた。
今度はボールタイプ。
しかし紫色の結晶を身に纏ったタイプで、強化型。
「この相手ならダメージは通ります。しかし強化型、特効武器は銀だそうです」
「そういえばマリンさんからこういうのをもらってました」
スズキさんはその武器をアイテムバッグから取り出す。
それは先が三つの別れた矛だった。
槍と言うよりは漁の為の銛に近い。
アイテムデータをスズキさんから貰うと、そこには『銀の矛』と書かれている。しかし彼女のスタイルは近接格闘。棒術とは道理が違う。
「スズキさんは棒術の心得はお持ちですか?」
「護身術程度ですね」
「ならば挑戦だけしてみましょう。向こうは水中戦闘はお手の物らしいですし」
私達を囲うようにして、ボール状のモンスターはそれなりの速度で牽制してきていた。
「攻撃パターンは私が予測します。スズキさんは対処をお願いします」
「はい!」
先制攻撃をしてきたのはボール型。
強化型は一体だが、他の二匹を統率しているようで、牽制攻撃は通常個体が行うようだ。これも新しい情報だな。あとで娘に渡しておこう。
「突撃姿勢、二体来ます!」
「この距離なら任せてください『水鉄砲』!」
スズキさんに向かう二つのボール型は、中距離位置に展開された水鉄砲に巻き込まれる形で消失した。
話で聞いた限りでは威力が上がると言うことだったけど、まさかそれがここまでの広がりを見せるとは思わなかった。
そもそも水鉄砲とは周囲の水を吸収して、それを圧縮放出するスキルだ。
水の中で一点集中した威力のものは、引きずられるようにして周囲の水域を引き込むのだ。
その攻撃が目標に当たらずとも、拡がった余波が泥でできた彼らの体をバラバラに引き裂いたのだ。
そこから察するに、あまり水圧の高いところにとどまれないのじゃないかと考える。
「スズキさん、底に向かいましょう」
「何故です?」
「彼らはきっと、水中じゃ本来の能力を扱えないのだと思います。それとさっきの水鉄砲の余波、あれだけでモンスターが消滅しました。きっと向こうにとっても予想外のことかもしれません」
「一理あります」
私達は海底に向かって進んだ。




