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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院2年生
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098 面談

「では、私たちもこれで失礼いたします。とても有意義な時間でした。」

「なにも話さなかったですけれど、良かったのですか?」

「ええ。私たちが聞きたいことはティアリッテ様とフィエルナズサ様がお尋ねになっておりましたから。」


 そのときの受け答えでは脱税の疑いがあるらしい。その場では何も言わなかったのは、こちらが動く前に証拠隠滅されては困るからだ。


 口裏を合わせたり、証拠を隠したりする時間をわざわざ与えてやる必要はない。


 ただし、記憶違いの可能性もあるため、一度、資料を確認する必要はあるということで、急いで戻っていった。


 私たちも一度部屋に戻ろうかとしていると、使用人が進み出てきた。


「ティアリッテ様とフィエルナズサ様にお客様が来ております。」

「客ですか? 農業組合以外には来客の予定はなかったはずですが。」


 私が首を傾げると、使用人は少し困ったように「バッツァグーン様とワイトェピア様がいらしているのです」と言う。


 ますます分からない。ワイトェピアには手紙を出したが、その件だろうか。


「フィエルはバッツァグーンを呼び出していたのですか?」

「いや、手紙で返事がくるつもりだったのだが……。だが、今ならば時間も空いているし会っても良いのではないか?」


 手紙をやり取りするよりも、直接会って話した方が早いのは確かだ。使用人には会議室の方に案内するように指示をする。


 約束のない突然の訪問だし、平民用(ここ)でも良いかと思ったのだが、これから一緒に仕事をするのに溝を作るようなことはしない方が良いさろう。


 私たちも会議室へと向かう。

 応接室と違い、会議室はとても簡素なものだ。部屋の中央に大きな四角いテーブルが置かれ、椅子が七つ並ぶだけで他に家具らしきものはない。


 部屋に入り、椅子に着くとすぐにノックがある。


「バッツァグーン様、ならびにワイトェピア様がいらっしゃいました。」

「お通しください。」


 扉が開けられ、廊下に二人が跪いている。


「ティアリッテ様、フィエルナズサ様。突然の来訪、お許しください。」

「構いません。お入りください。」


 声をかけて二人が立ち上がると扉を入ったところでピタリと止まり、再び跪こうとする前に声をかける。


「堅苦しい挨拶は結構です。お掛けになってください。」


 このような応対の仕方は教わってはいないが、私はいつも王子にそのように対応されているし、多分、大丈夫だろう。


 挨拶を省略された二人は戸惑った様子を見せながらも、私たちの向かい合わせの席に座る。


「用件は畑の仕事のことについてでよろしいのでしょうか?」

「はい。お手紙をいただきまして大変驚いた次第でございます。」


 だからといって、突然やってきて驚かさなくてもいいと思う。


「それで、お二方は力添えをいただけるのでしょうか?」

「その前にいくつか確認したいことがございます。まず、お声がけをいただいたのは私たち二人だけなのでしょうか?」

「とりあえずは二人だけでございますが、可能であればもっと人数を増やしていきたいと思っています。」


 一気に人数を投入できれば良いのだが、序列や統率のことを考えるとそれは難しい。来年以降はともかく、今年の計画としては候補は伯爵家からのみで、まずは私とフィエルに一人ずつであると伝える。


 さらに一日の具体的な仕事内容や、一週間や一ヶ月単位での予定などを細かく尋ねられ、一つひとつ丁寧に答えていく。


「思うのですが、学生が主体となって進めるには規模が大きすぎるのではありませんか?」

「だが、中心となって動ける大人がいないのだ。」

「この時期は騎士も文官もとても忙しいのですよ。」

「ですが、生産力の向上は重大かつ喫緊の課題なのではありませんか? 子どもだけで対応するべき課題ではないように思います。」


 バッツァグーンがそう言うのも分からなくはない。だが、今年はもうそんなことを言っても今更遅すぎる。来年の計画についてはまた考えていかなければならないことは間違いない。


「処理すべき畑は多いが、やる仕事そのものは我々でもできることだ。」

「フィエルナズサ様、それは違います。今のところ、フィエルナズサ様とティアリッテ様にしかできません。私たちが一緒に行って足手纏いにならないか心配なほどなのですよ。」


 私たちの力は、ある意味で大人に匹敵、あるいは上回っているとバッツァグーンは指摘する。だからこそ仕事を任されもするのだろうが、私たちの力は一点突破であり、総合力ではやはり学生に過ぎないというのが彼らの評価だ。


「その通り、なのでしょうね。だからこそ、力を貸して欲しいのです。」


 そもそも、収穫の改善は今年だけ頑張れば良いという話ではない。来年は、さらに規模を拡大していくことだ。


「騎士にしても、文官にしても、畑に詳しい大人が欲しいのです。今すぐに詳しくなることは誰にもできません。二、三年頑張って、増やしていくしかありません。」


 人数が増えれば、一人の責任や負担も減るだろうし、何より人数とは力だ。子ども二人の意見では通らなくても、伯爵家が揃って四、五人で意見を出せば無視するわけにいかなくなる。


「分かりました。お話をお受けいたします。」

「可能な限りお役に立ちたいと存じます。」


 難しい顔をしていたし、断られるかとも思っていたが、二人とも引き受けてくれることになった。


「ありがとうございます。では、明日より早速お願いしてよろしいでしょうか?」

「はい。馬で畑に向かうのですよね? 服装は魔法の訓練のもので大丈夫でしょうか?」

「それで問題ございません。」


 昼食や持っていくべきものなど確認すると二人は退室していった。


 時刻は夕方に寄ってきている。今から着替えて畑に行くには遅すぎる。ほとんど何もしないまま帰る時間になってしまうだろう。


「ティア、徴税部に行かぬか? 昨年の税の細かい数字を把握しようと思うのだ。何をどれくらい植えるかを間違えると大変なことになる。」


 私たちは最終的な数字しか見ていないが、地域ごとに納められた作物の種類や数は記録されている。大人たちの仕事の邪魔にならないようにしながら資料を探し、部屋の隅の台で必要な数字を抜き出していく。


 数年間の税収の推移を見れば、かなり状況が悪いことが分かる。


 麦の税収は何とか微減で済んでいるが、根菜類は減少が続き、豆類は激減している。見ていると、人の食べ物はもちろん、馬に与える餌が不足してはいないのだろうか。


 騎士団の抱える馬だけでも二百を超えているし、芋や豆類は馬の餌にもかなりの量を使うはずだ。


「不作が続いているとはいいますが、少しずつ悪化していませんか?」

「作る作物の種類が変わっているとも言えるが、どうだろうな。これだけでは作物を植えた面積が分からぬからな。」


 だからこそ、今年の収穫量がどれほどになるのかは重要だ。少なくとも、領都周辺の畑は何を植えたのか全て管理把握する予定だ。


 効率の良い畑の運用のために、情報の蓄積は不可欠だろう。

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