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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院2年生
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096 できることを、できるだけ

 延々と涌いて出てくる魔物も、実際には一時間もせずに勢いは完全に止まる。森の騒めきもすっかり静かになり、私たちの前には夥しい魔物の死体が転がる。


「魔物の死体は全て焼き払います。みんなで集めてください。」


 子どもたちのところまで戻って指示を出し、ぞろぞろと森の方へと向かう。フィエルの方も一段落したようで、子どもたちは二つの班に分けることになる。


「うげえー」

「メチャメチャ多くない? これ全部燃やすのかよ?」


 魔物の死体の数に子どもたちはとても嫌そうな顔をするが、あれを運ぶだけなのだから頑張ってほしい。


 爆炎の魔法で吹き飛ばしてある程度集めてはあるが、それでもそこら中に魔物の死体が転がっているのだ。


「一箇所でなくてもいいですよ。ある程度集まったところから焼いていきます。」


 私が蹴飛ばしたり、棒で突いたり、手で放り投げたりしながら魔物を集めていくと、子どもたちもすぐに動きだす。


「毒をもつ魔物もいますから、爪や棘には気を受けてくださいね。」

「分かってる。」


 成人が近いような年上の子たちは、退治した魔物を処分する手伝いをしたことがある者もいるようで、小さい子たちに声をかけながら作業を進めていく。


 私も騎士たちも魔物を集めていき、ある程度積み重なったところで火を放つ。


「これも、火をつけて良いんじゃないか?」


 子どもに言われてみると、結構な大きさの山ができあがっている。


「次はあちらの方をやりましょうか。」


 私は火を放って、まだ手付かずのところを指差す。一体、何百出てきたのか知らないが、魔物の死体はまだまだ残っているのだ。


 大型の魔物もいないので、子どもばかりでも作業は進む。次から次へと集めては火を放ち、煙を上げる魔物の山の数は十四にもなった。


「今日はこれで終わりです。明日からもよろしくお願いしますね。しばらくは魔物が寄り付きやすいので、この辺りには近づかないでください。」


 魔物の死体を集め終われば、子どもたちにやってもらうことはなくなる。全て灰になるまで私は火を出し続けるが、子どもたちに終わるのを待ってもらう必要もない。


 解散しても良いと言っても、ちらちらとこちらの様子を伺っているが、本当に今やってもらうことはないのだ。


「あなたたちが近くにいると、危なくて大きな魔法を使えないのです。早く終わらせたいので、もっと離れてください。」


 そう言って、煙を上げる死体の山の一つに火柱を放って、やっと解散していった。


 黒く焦げていた山が白く燃え尽きてきたら私も引き上げ時だ。水魔法で消火してフィエルの方へと向かう。


「こちらももうすぐ終わりですね。」

「ああ、あとはこの二つだけだ。」


 騎士たちが水を撒いて火を消して回っている中、フィエルは頑張って残り二つに炎の帯を叩きつけていた。


 私も炎の帯を撃ち、続けて火柱を放つ。一気に焼き払って灰にしたら、後片付けをして引き上げる。


「午後はどうする?」

「農業組合とやらに行ってみようと思うのですが、どうでしょう?」

「農民たちを取りまとめている組織だったか? 一体、何をしているのだ?」

「それが、文官たちもよくは知らないようなのです。色々確認したいと思いませんか?」


 農業組合の者を呼びつけるにしても、私たちは畑に出ていることの方が多い。今日なら時間があるし出向いて確認することもできる。


 昼食の席でそう言うと、父や兄たちに揃って大反対された。


「平民を相手にこちらから出向くなどあり得ぬ。」

「呼び出せば良かろう。書類の書き方なら教えてやる。」

「いくら未成年といっても、貴族としての品格をお持ちください。」


 後ろに控えている側仕えにまで窘められてしまう。農業組合というのがどんなところで何をしているのかを見たいというのは、そんなにダメなのだろうか。


 結局、昼食後に次兄(ウォルハルト)に教えられながら農業組合に対して呼び出しの書状を作る。聞きたいことは色々あるが、話の主題は畑や作物の管理についてだ。平民相手ならば日付は明日で良いということなのでお昼過ぎを指定しておく。


 書き終えた書状は封をして平民の使用人に届けさせる。誰にどのように言って渡せば良いのか一つひとつ教わりながら一仕事を終える。


「時間が空いてしまいましたね。どうしましょう?」

「畑に行くので良いのではないか? 南門や北門の周辺は完全に手付かずだからな。馬は騎士の誰か一人に番をさせて、歩いていけば良いだろう。」


 なるほど、名案だ。馬の餌を持っていけば私たちが魔力を撒いたり魔物を退治している間も馬を休ませることができる。


 騎士を呼び、説明すると何故かとても嫌な顔をされたが、反対はされなかったので馬に乗って北門へと向かう。




 北門を出てみると、雪が結構残っていた。特に防壁の近くはほぼ一日中日陰になるからか、解けるまでまだまだ時間がかかりそうだ。


 雪と泥濘(ぬかるみ)の混じる歩きづらい道を歩き、門から一つ北の区画から魔力を撒き虫を潰していく。道の状態が酷いのも最初の一区画だけのようで、その先は普通に歩いていける。


 徒歩でいくと時間はかかってしまうが、馬をあまり使えないのだから仕方がない。その分だけ多めに魔力を撒き、虫を徹底的に潰していく。


 焼く必要がありそうな大きさの魔物が出てこなければ、歩いてまわっても一時間に四十くらいは処理できそうであるが、魔物が出てこないなんてことにはならない。


 どこに巣食っているのか、小型のネズミやイタチのような獣は出てくるものだ。雷光で倒して火柱で焼いていたら、「火柱で焼き殺せば良いのではないか?」と初歩的な指摘をされてしまった。確かに、あんな小さな魔獣なら、火柱だけで倒すどころかそのまま黒焦げにしてしまえるような気がする。


 夕方までに百四十の区画に魔力を撒くことができた。フィエルは百六十というが、二人足しても今日の一人分にも満たない。


「先が思いやられるな」

「上手く人数を増やせると良いのですけれど……」

「返事に期待するしかあるまい。」


 だが、城に戻っても誰からも返事は来ていなかった。もっとも、私も今日中に返事があるとは思ってもいない。常識的に考えれば、昼ごろに手紙を受け取り、夜に親とも相談して、返事は明日出されることになるだろう。




「今日の調子はどうだ?」


 意外と、父や兄たちは私たちの進み具合を気にしてくれているようだ。食事の席で当たり前のように進捗や状況を聞いてくる。


「今日は午前中は魔物退治、午後からは歩いてまわってみました。」

「魔物退治とはどこで行ったのだ?」

「西の畑の西の外れです。森のすぐ近くまで畑が広がっているのはご存知でしょうか?」

「それくらいは知っている。あの辺りにはそんなに退治するほど魔物がいるのか?」

「小型ではありますが、数えきれぬほどの獣や虫がいました。」


 森から魔物が出てこなくなるまで徹底的に狩り尽くしたが、その分だけ魔力も撒いたので、遠くからも魔物が寄ってきてしまうかもしれない。明日の朝は様子を見にいかなければならないだろう。


「誘き出すのも良し悪しだな。魔物退治をしたせいで、より強い魔物がやってきて被害を出してしまったのでは本末転倒だ。」

「はい、ですから念のため農民には近づかぬよう言ってあります。」

「ならば良い。其方(そなた)らは少々考えが足りぬところがある。まだ十歳になったばかりと考えれば仕方がないのだが、仕事を担う以上は、それは言い訳にならぬ。」


 長兄(ラインザック)は真面目な顔でそう言う。


 私やフィエルがヘトヘトに疲れるだけで済む失敗ならば、反省すればそれで良い。だが、馬や農民を失えば取り返しがつかない。


 馬を失えば、兄たちの魔物退治の計画に支障が出かねないし、私たちのせいで農民が死ぬようなことがあれば、信頼を失ってしまう。


 誰も私たちに関わろうとしなくなれば、収穫の改善なんてできるはずもない。


「私は明日からしばらく留守にするから、何かがあっても助けてやれることは何もない。代わりの馬を出すことも、騎士を貸し出すこともない。しっかり肝に命じておくように。」

「分かりました。」


 兄に強く、強く念を押され、私たちは少し俯きながら返事をした。

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