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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院2年生
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091 もふもふのお話

 しばらくは座学に打ち込む日々が続く。

 午前中は他の子らとともに講義を受け、午後の演習の時間は図書室に籠る。


 十日に一度は魔物退治に行くことにはなったが、それでも長くても一泊二日で終わるような場所ばかりだ。初回が長引きすぎたと言うこともあり、それでも少し考慮してくれているらしい。


 お茶会のお誘いはすべて断り、休日も勉強の予定としていたら、側仕え筆頭に「お茶会にでもしないのは公爵家の娘として、ありえない行いです」としつこく苦言を呈されて、仕方なしに呼ばれていくことになった。


 主催者は四年生、第三公爵家デュオナールの傍系の女性だ。派閥も違うし、私としては気が進まなかったのだが、母からの手紙にも出席するようにとあり仕方なくのことである。


「まあ、ティアリッテ様、本日は参加なのですね。」


 主催者に挨拶を済ませて、着くべき席を探していたら横から声を掛けられた。声の主は第四侯爵であるスズノエリアの孫娘クィレルチェだ。先週、私がお断りしたお茶会の主催者で彼女も四年生だ。


「お陰様で、体調も回復しましたので。」


 お茶会参加のお断りの理由は、体調が優れないということにしてある。遠征に何度も行っていれば疲れもするし、体調を崩すことがあっても不思議ではないはずだ。


「お茶会にも顔を見せられないほどなのに、魔物退治ばかりには何度も行っているのでしょう?」

「ええ、王太子殿下からの指示でございますから断るわけにもいきませんし、本当に大変でした。」


 大変なのは否定しない。というか、大変なのは事実だ。体調を崩したというのは大袈裟だが、全然平気というわけでもない。

 私はそれで話を終わらせたいのに、クィレルチェは殊更大袈裟に聞き返してくる。


「王太子殿下からのご指示ですって⁉」

「ええ、ですから私の立場ではお断りできないのです。」


 王太子は成人して何年か経っており、王を補佐し国を支える役を担っている。会議室では私の意見や反論を聞いてくれているが、立場を考えると私の意見は完全に無視されて一方的に命令されてもおかしくはない。


 私はそう立場の違いを強調しているのに、クィレルチェは何故か「どのようにして繋がりを得たのです?」「(わたくし)にも紹介していただく機会はないかしら?」とうるさい。


「日復祭のパーティーがきっかけですわ。クィレルチェ様も畑の管理や魔物退治を頑張って成果をお話すると良いのではありませんか? 収穫の改善や向上は国全体の問題ですもの。王太子殿下も強く興味を持っていらっしゃいますわ。」


 王太子に脈絡なく誰かを紹介することなどできない。私はそこまで気安い仲ではない。これでも不興を買わぬよう頑張っているつもりだ。

 それでも、スズノエリアのクィレルチェが収穫の改善を頑張っているらしい、ということならば話題することもできるだろう。


 だが、クィレルチェは「大人の仕事をしろと言われても困りますわ」と不服げな表情で首を横に振る。私の回答はお気に召さなかったようだが、私やハネシテゼがやっているのに大人の仕事もないだろう。


「収穫の改善は子どもの仕事として考えた方が良いです。王太子殿下にもそう説明していますから。学生ならば春から秋は暇でしょう? 畑や森に行って仕事をした方が良いですよ。」


 基本的に、その方向で広めていく予定なのだ。大人たちは既に仕事を色々と抱えている。若干ばかり割り振りを変えることはできても、今までの仕事を放棄して畑や森に出るわけにはいかない。


 一番、時間を作りやすいのは学生だ。座学は冬の間に済ませれば良いし、魔道や体術は仕事を頑張っていれば勝手にできるようになる。


 私が説明していると、周囲に人が集まってくる。主催者を差し置いて、私が場の中心として振る舞うわけにはいかない。


「みなさんも頑張ると良いですよ。」


 笑顔でそう締めくくり、近くの空いている席に座る。

 みんなが立ったままでは給仕の者たちがお茶やお菓子を配れない。それぞれテーブルに着き、雑談に興じる。


 お茶会の話題は様々だ。参加者の顔ぶれによっても色々違い、服や装身具の話であったり、食べ物についてだったり、あるいは学院での出来事のこともある。


 特産品を作るにはどうしたらいいか、と話を出したところ、いつの間にかどのような特産品がいいかという夢物語の話題にすり替わってしまった。


 話題としては無難なのかもしれないが、私としてはとてもつまらない。早く終わってくれないかなとばかり考えてしまう。



 なんとか、にこにこと笑顔を振りまいてやり過ごすものの、部屋に戻った時にはぐったりと疲れていた。


「ハネシテゼ様がお茶会から逃げ回る理由が分かったような気がします。」

「お嬢様、お茶会をそのように嫌がるものではありません。」

「そうは言いますが、あれは時間の無駄です。現実を見ない夢物語を繰り返しても何にもならないではありませんか。」


 何時間もお喋りをして、有益な情報の一つも得られていない。一方的に私から色々教えるだけで情報交換にもなっていない。


「他領の方々と交流を図るのも大切なことです。」


 側仕えたちはそう言うが、もう数年は私が積極的に頑張らなくても、向こうからやってくるのではないかと思う。


 母にもそう手紙を書いてみたのだが、認めてくれたのはお茶会を主催しなくても良いということと、公爵家主催以外は断って良いということだった。




 勉強を頑張らねばならないのに、大変面倒である。本当に面倒である。


 そう思ったりもしたが、よく考えてみれば、私も、もっと他の話題を出せばいいのだ。

 黄豹や白狐の素晴らしさを語って、印象を良くしていくのも大切なのではないかと思う。


 その作戦は割と上手くいった。


「白狐とは恐ろしい魔獣なのでしょう?」


 白狐の話題を出すと、一様にそう聞かれる。みな、そう言うようにと親から教えられているのではないかと思う程だ。だから、私も同じように返す。


「そう言われていましたが、実はそうでもないのです。仲良くなると撫でさせてくれるのですが、艶のある毛並みが素晴らしいのです。」


 とても滑らかで柔らかく、ふわふわもふもふしていて、一緒に寝るととても温かで気持ちが良い。

 首のあたりを撫でると、甘えるように頬を寄せてきてとても可愛らしい。


 そう言ってやれば、大概の場合は「自分も撫でてみたい」と頬を緩ませる。


 白狐や黄豹に興味を持つ者が増えれば、必然的に魔力の操作についても興味を持つ者は増える。何しろ、彼らと仲良くなるためには、魔力を交わして挨拶をしなければならないのだ。


「ハネシテゼ様の話によると、魔力を撒いていれば、黄豹や白狐が興味を持って向こうから近づいてくるらしいですよ。」


 そう付け加えてやれば、全く畑や収穫の話を聞こうともしなかった子たちも目を輝かせて聞くようになった。

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