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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院2年生
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068 日復祭のパーティー

「陛下、殿下、ご機嫌麗しゅうございます。天候厳しい旧年を乗り越え、本年の繁栄をお祈りするとともに、私もお力となれるべく精進していく所存でございます。」


 一月一日、つまり一年最初の日は日復祭であり王宮で盛大にパーティーが催される。

 会場に入った私たちは最初に国王へ挨拶に向かう。


 基本的には公爵家当主である父が口上を述べるので、私は跪いたまま最初と最後にごく短い挨拶をすれば良いだけだ。この辺りの手順は去年もやったので特に問題はない。


 はずだった。


「ティアリッテ。其方(そなた)らの学院での活躍は聞いている。なんでも、珍しい魔法を使えるそうだな? 教えてはもらえぬか?」


 挨拶が終わって一歩下がろうとしたところで、第三王子に直接声をかけられた。この状況は完全に想定外だ。


「申し訳ございませんが、私は未熟ですので魔法を王子殿下にお教えすることは適いません。」


 このような断り方で大丈夫なのか冷や汗ものだが、実際問題、私には雷光の魔法を教えることはできないだろう。とてもではないが、あの複雑で緻密な魔法制御を王子の腕を通して行うなんて無理だ。


「昨年は十分できていたと思うのだが?」

「仰っている魔法は、昨年のものとは難易度が格段に違います。私にはまだ教えられるほどの力量がございません。」


 昨年、第三王子に教えた炎雷の魔法は、一目見て真似することができたものだ。それに対し、雷光の魔法は何度も見て何度も挑戦してやっと扱えるようになった。


 もし仮に私が上手くできても、第三王子には再現できない可能性がある。どうしてもと言うならばハネシテゼ式で教えるしか方法がないし、それならハネシテゼに直接教わった方が良いだろう。


「殿下。ティアリッテは九歳の子どもでございます。昨年はやむを得ない事情でございましたが、本来、そのようなご依頼を受ける年齢ではございません。」


 尚も食い下がってこようとする第三王子に、父が横から諫言をあげてくれる。


「その通りだ。ピエナティゼよ、学生相手にあまり無理を言ってやるな。」


 王太子もそう取り成してくれて、その話は終わりとなった。今度こそ、一礼して下がり、第七公爵家に国王への挨拶の場を譲る。


「疲れました。帰りたいです。」

「莫迦を申すな。」


 私がお腹を抑えながらぐったりと言うと、父は呆れたように肩を叩く。パーティーはまだ始まったばかりだ。気を取り直してブェレンザッハ公爵へと挨拶に向かわなければならない。


「ご機嫌麗しゅうございます。ブェレンザッハ閣下。新しき年の始まりに再び(まみ)えられ、嬉しゅうございます。」


 第一公爵家当主への挨拶は、やはり父の長い口上から始まる。最後に私も簡単に挨拶を済ませてから、ジョノミディスに軽く会釈する。


 さらに第二公爵のファーマリンキ家に挨拶に行けば、当然のように、モベアリエラを紹介された。やはり、出席を見送ってくれはしなかったようだ。

 モベアリエラはかなり緊張しているようだが、公爵家らしい挨拶を済ませて姿勢を正す。


「ご機嫌麗しゅう、モベアリエラ。私はティアリッテ。仲良く致しましょうね。」


 私がモベアリエラを呼び捨てて挨拶したことにフィエルが一瞬ぎょっとしたような表情をするが、そのフィエルも同じように呼び捨てて挨拶をする。


 すぐ隣でファーマリンキ公爵が不愉快そうに睨んでくるが、モベアリエラはまだ学院に入学していないのだから、公的にも私たちの方が下ということはない。


 大人たちの反応は色々あるが、当のモベアリエラの方はそれほど気にしていないのか、「仲良くしてくださると嬉しいですわ」と微笑む。


 あまり一か所で長々と話をしているわけにはいかない。第三公爵家、第四公爵家へと挨拶を済ませていき、私たちも自分たちのテーブル前に立つ。ここからは、挨拶を受ける側へとなる。


 上位への挨拶と違って無茶なことを言われることはないが、人数が多いこともあってかなり大変だ。


 伯爵くらいならともかく、子爵ともなればほとんど交流もないし、一年ぶりに挨拶を交わすような人も少なくない。


 少々飽きてきたころに、その人たちはやってきた。

 とても男爵とは思えない風格を纏い、やたらと堂々とした親子、つまり、デォフナハだ。


「相変わらずだな。」


 挨拶の前に悪態をつくのはやめてほしい。私たちはどのような顔をしていれば良いのか全く分からない。


「ご機嫌麗しゅうございます、エーギノミーア閣下。」

「そちらこそいつもご機嫌麗しいようだな、デォフナハ卿よ。」


 一々絡まないで早く挨拶を終わらせてほしい。どうにも父はデォフナハ男爵相手だと感情的になってしまうらしい。


「ご機嫌麗しゅうございます、ハネシテゼ様。」

「ご機嫌麗しゅうございます、ティアリッテ様、フィエルナズサ様。」


 私たちが軽く挨拶を済ませると、父は話をしようともせずに、あっちへ行けとばかりに手を振る。だが、そんな父に対しても特に不快な様子を見せず、軽く笑って去っていったデォフナハは本当に男爵なのだろうか?



 すべての挨拶を終えると、父も母も動きだす。私もモベアリエラについてやらねばならない。美味しそうな匂いのするテーブルの並ぶ広間を見回す。


 中央のテーブルは王族の用意したものだろう。一際豪華に飾られている。食事の量が圧倒的に多いテーブルがあるが、あれは絶対にデォフナハだ。あそこ以外にあれほどの食料を供出できる領はないだろう。


 だが、今年はデォフナハの位置が昨年とは違う。公爵の続きに位置しており、もはや本当に男爵の扱いではない。


 そして、侯爵のテーブルが並ぶところにモベアリエラを見つけた。彼女の親も祖父母も側におらず、一人でテーブルの間をうろうろしているようだ。


 私はテーブルの間を縫って進み、ファーマリンキ公爵の方へと向かう。モベアリエラはまだ食事に手を付けていないようだし、私の姿を見たらこちらへ来るだろう。彼女にも分かるように動き、ファーマリンキ公爵の後ろのテーブルの料理に目を向ける。


「あら、これは何でしょうか? とても良い香りがしますわ。」

「ザグオーという魚を香草焼きにしたものです。ぜひお召し上がりになってください。」


 側仕えに給仕をしてもらい、私は切り身の魚を口へと運ぶ。

 パリパリに焼けた表面は丁度良い塩梅で、一口嚙むと身がほぐれて旨味が口の中に溢れだす。


 想像していたよりも美味しい。

 添えられたキノコは程よい甘みにコリコリとした触感が特徴的だ。


「とても美味しゅうございます。このキノコは他の料理にも使われているのですね。」

「はい、エルムはムゼラフォウの特産でございます。」


 このような特産品は地理の座学ではでてこない。できるだけ覚えておくべきなのだが、ムゼラフォウは伯爵だ。すこし優先順位が低い。


 他にも何か食べてみようとテーブルを見ていたら別の魚のチーズ焼きを勧められた。


 側仕えに言って取ってもらっていると、モベアリエラに話しかけられた。


「ティアリッテ様、こちらの料理は美味しいですか?」

「ええ、モベアリエラはお魚はお好みですか?」


 話をしながら、モベアリエラも魚のチーズ焼きを取ってもらい、口へと運ぶ。


「これは本当に魚なのですか?」


 魚にありがちな臭みが全くなく、チーズに合う風味が飲み込んだあとに心地いい。モベアリエラも気に入ったようで、ぱくぱくと食べていく。


「モベアリエラ様はどのような料理がお好きなのですか? 普段、どのようなものを好んでお召し上がりになっているのでしょう?」


 この調子ならば問題なさそうだ。目の前のテーブルの話から離れて、領の食事への話を振ってみる。

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