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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院2年生
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058 王都に着いて

 魔物は全て退治したものの、橋のしたはかなり酷い状態だった。

 ここで戦っていた十三人は大小の怪我を負い、立って歩ける状態の馬は一頭だけだ。


 彼らの手当は五年生と先生に任せて、私たちは黒魔狼の死体を集めていく。


 この魔物はかなり大きく、重い。とてもじゃないけれど、一人で一匹を持ちあげて運ぶことはできない。四人掛りで四肢を持ち、引き摺りながら一か所に積み上げる。


 橋の右側と左側それぞれ集めて燃やすが、それなりに時間がかかってしまう。


 ようやく集め終わった死体の山に火を放って一息ついていると、先生によって集合が掛けられた。


「思っていた以上に魔物が多い。常に周囲を警戒し、勝手な行動は慎むように。」


 先生の話によると、橋の下で魔物と戦っていたのは、昨日、王都に帰ると息巻いていた五年生の一部らしい。


 四十人ほどがまとまって動いていれば、少々の魔物が出てもどうにでもできるだろうと思っていた、そこからさらに少人数に分かれているのは想定外だそうだ。


「ハネシテゼ・ツァール・デォフナハ、および以下四名。貴方(あなた)たちは、ある意味で悪い見本だ。」


 名指しで釘を刺されてしまった。二年生に許されるならと、五年生たちが同じように振る舞った結果だろうと言われたら返す言葉もない。


「ですが、この魔物を焼かずに放置するわけにいきませんし、その間、怪我人を待たせるのもどうかと思います。」


 つまり、ハネシテゼは自分たちで魔物を焼いているから、先に行っていて良いと言いたいのだろう。

 先生たちの中でもそこに関しては意見が一致していないようで、集まって話を始めた。


 だが、延々と話し込むようなことはしない。すぐに結論を出して再び私たちに向かって指示を出す。


「二年生は第一班を除いて怪我人と一緒に王都に向かう。特に怪我のない五年生は二年生第一班と魔物の焼却を済ませてから出発するように。」


 私たち五人だけを残すという選択はないようで、五年生たちとともに行動するように言われた。先生たちは一人を残して二年生とともに王都へと向かう。



「さて、こちらは焼き終わるまで橋の上で待機です。」


 死体の山は盛大に煙を噴き上げているが、燃え尽きるまで数分は掛かるだろう。ハネシテゼの指示でぞろぞろと橋へと移動する。


「何故橋の上なのですか?」

「一番安全だからです。この橋には王族の守りが置かれていますから、魔物は通れません。」


 ハネシテゼは当たり前のように言うが、一体どこにそのようなものがあるのだろう?


 守りの石の話は聞いたことがある。兄たちも魔物退治の折に守りの石に魔力を籠めてくると言っていたはずだ。きょろきょろと辺りを見回して探していると、ハネシテゼが「これです」と指して教えてくれた。


 橋の入口両脇に小さな石の塔がある。それが『王族の守り』らしい。


「各地にこのような守りの石が置かれているのです。これに魔力を籠めて土地を守るのは王族や領主一族の務めです。絶対に手を触れないでください。」


 万が一、壊しでもしたら、反逆者として一族まとめて打首になるだろうと恐ろしいことを言う。


「心配しなくても、そんな簡単に壊れるものではない。」


 先生が苦笑いしながら説明してくれるが、無闇に触らない方が良いということには変わりがないらしい。



 何度か炎を足して、魔物の死体がやっと灰と炭になった時には、既に夜は明けて、空は明るくなっていた。


 とはいっても雲は分厚く、雪は変わらず降り続いている。橋の上にはうっすらと雪が積もってきている。


 ここから王都まで、まだ一時間以上もある。お腹は空いたし、眠たいし、疲れのためか手足は痺れるように重い。だが、こんなところで弱音を吐くわけにはいかない。


 馬を並べる五年生たちは、そのほとんどが下級貴族だ。学院内の立場としては家格よりも学年の方が優先されることになっているが、公爵家の意地として、彼らに弱みを見せるわけにはいかないのだ。


 歯を食いしばり、背筋を伸ばして表情を取り繕う。

 幼い頃から何度も教えられてきたことだ。あと一、二時間頑張れば良いのだ。


 途中で一度休憩をとり、ようやく王都の街の外門に到着すると、そこで先生と騎士たちに出迎えられた。


 すぐに点呼を取り、全員がいることを確認して先生に報告すると隊長と思しき騎士が前に出てくる。


「帰着早々で済まないが、これから我々は魔物退治に出る。同行できる者はいるか?」


 私には騎士の言っている意味が分からなかった。未成年である学生の同行を求めてどうするのだろう? 足手まといになるだけではないだろうか。第一、どのような魔物なのか、どこにいるのかも分からなければ、答えようがない。


 私たちが返答に窮しているのを見てか、先生が事情について説明を始めた。


「先行した五年生は、大きく三つの班に分かれて行動したらしい。そしてその何れもが魔物に襲われて負傷している。」


 そのうちの一つが私たちの退治した狼の群れで、他にクマとトカゲの魔物に襲われたということだ。


 その際に、彼らは魔物を退けることはできたが、どちらも倒すには至っていないという。その魔物の足取りを探し退治しなければ、近隣の村に被害を及ぼしかねない。


 疲れているとはいえ、五年生が十人以上もいて倒せなかったほどの相手ならば、平民では全く歯が立たない可能性があると言われれば、それ自体は理解も納得もできる。


 しかし、それでは私たちを同行させる理由にはなっていないはずだが、そんなことは気にしていないのか、ハネシテゼはまっすぐ隊長騎士に向いて口を開いた。


「条件がいくつかあります。」


 騎士たちにこちらから条件を出せるような立場ではないのだが、それでもハネシテゼは同行する条件を挙げていく。


「わたしたちの食事の用意はございますか? 食事も摂らずにこのまま出発せよというのは無理難題でございます。」


 私としては、食事は準備してあるから出発せよというのでも無理難題だと思う。だが、ハネシテゼは食事さえ摂れれば、まだ魔物退治に行けるというのか。私は驚きに目を見張るが、ハネシテゼはさらに続ける。


「次に、馬は換えさせてください。かなり無理をさせてしまいました。これ以上の負担をかけると潰れてしまいかねません。」


 それはそうだ。私たちだけではなく馬にも食事は必要だ。今日は起きてからほとんど食べ物を与えられていない。このままでは馬の限界も近いだろう。少々無理をしても、王都(ここ)まで帰ってくれば休ませてやれるはずだったのだ。


 騎士たちも馬の様子を見れば、それはすぐに理解できたようだ。


「最後に、五年生からも何名か指名してよろしいでしょうか?」


 理解できない条件が飛び出してきた。何故、それがハネシテゼの出す条件になるのだろう?


 わけが分からない、と私が首を傾げているとフィエルが小声でささやいてきた。


「同行してほしいのはハネシテゼ様だけなのではないか? 普通に考えれば私たちが行っても足手まといにしかならぬだろう?」


 なるほど。だが、私はハネシテゼが「五年生からも」と言っていたのがとても気になる。まるで、私たちが当たり前のようにその数に入っているような言い方ではないか。


 そんな私の不安を余所に、ハネシテゼの出した条件はあっさりと認められてしまった。


「ふむ、食事と馬は何人分を用意すれば良い?」

「モルックオール様、ネゼンヴェン様、行けますか?」


 ハネシテゼが振り向き声をかけ、呼ばれた二人が了承したことからハネシテゼは「七人分です」と答えた。


 やはり、私たちはしっかりと数に含まれているようだった。


「ジョノミディス、ザクスネロ、フィエルナズサ、ティアリッテ。四人とも大丈夫なのか?」


 先生は念のためにと声をかけてくるが、この状況で断れはしないだろう。

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