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515 包囲

 雷光と炎を周囲に()き散らしながら中央部隊を北へと押し込んでいくと、ネゼキュイア軍も数に任せて押し返そうとしてくる。

 私たちが四人しかいないと分かれば、それなりに強気に出てくるものだ。


 それに合わせて魔力を撒いてから退いてやれば、面白いほど馬がばたばたと倒れていく。号令を出している者が気づいた時には四十近くの騎士が馬を失うことになっていた。


「東から回っていく。」


 敵の勢いが止まったところを見計らい、ネゼキュイア軍の背後へと出るように二足鹿(ヴェイツ)の向きを変える。

 しかし、そうしている間に炎と魔力を大きく迂回したネゼキュイアの二足鹿(ヴェイツ)部隊が南東側から迫ってくる。


 さらに時間を稼ぐために魔力を撒いても良いのだが、それは一方的に私たちが魔力を失っていくことでもある。何度も繰り返していると、最終的には正面からぶつかるための余力さえもなくなってしまう。


「中央部隊は火柱で抑え込め。」


 東へと抜けること自体に変更はない。ただし、中央部隊と正面から戦うことはせず、二足鹿(ヴェイツ)部隊の相手をすることに集中することになる。火柱を並べた上で灼熱の飛礫でその向こうへと攻撃を加えれば、中央部隊も容易にこちらに近づいてくることはできないだろう。


 二足鹿(ヴェイツ)を駆り一気に戦場を東へと抜けると、南から迫る二足鹿(ヴェイツ)部隊が炎の奔流を放ってくる。いい加減見慣れた攻撃に、ソルニウォレらも慌てることなく爆炎で対処する。


 そのまま戦域を離脱するように東に走ってしまうと、二足鹿(ヴェイツ)部隊は私たちを無視する可能性が高い。どちらにとっても、今、目の前の戦闘に参加しない者など放っておいて構わないのだ。


 私たちが援軍を呼びに行くという可能性は無い。そんな予備戦力を残しておく意味が無いことは、冷静に考えればすぐに分かる。


 そう考えると、ネゼキュイア軍からあまり離れることもできない。追ってこないならば隙だらけの背後から攻撃を仕掛けると見せなければ、二足鹿(ヴェイツ)部隊も前線に行くことを選択するだろう。


 左側にネゼキュイア軍を見ながら、追ってくる二足鹿(ヴェイツ)部隊から距離を取るように北へと移動していく。もちろん、左や後方へと灼熱の飛礫を放ち続けるのは当然だ。


 ネゼキュイア軍の方は、多少厚みがあるとはいえ正面の部隊を押し込んでいる最中であるために私たちへの対処はどうしても遅れる。騎士がそれぞれ個人で自分勝手に考えて動いていたのでは、正面の敵に大きな隙を見せることになってしまう。


 背後から攻撃があると分かっていても、指示もなく勝手に隊列を乱すわけにもいかず、牽制の爆炎や火球を飛ばしてくるのが精いっぱいだ。


 防御や意識の向け方がそれくらいならば、灼熱の飛礫を放っていけば外側からネゼキュイアの戦力を削っていける。そんなことはさせまいと炎の奔流を放ってくるため、それの対処のために戦力減少の役には立っていないのだが、集中力を乱すくらいの効果はあるだろうと思う。



 そうしながら北に進んでいくと、ネゼキュイアの隊列は大きく西に向きを変えていく。私たちの進路もそれに沿って左へと変えていき、北の部隊のさらに北へと回り込む。


「このまままわって、北の部隊に突っ込むぞ。」

「ここに、ですか?」


 ソルニウォレが疑問の声を上げるのも当然だろう。一度大混乱に陥った北側だが、既に態勢を立て直してオードニアムの部隊とぶつかっている。傍目に見る限りは、戦局は膠着し安定状態に入ってしまっていると言える。


 隊列に厚みもあり、背後から二足鹿(ヴェイツ)部隊が迫っているのにそう簡単に崩せるように見えないのだろう。


 だが、私が気合を入れて背後と前方に火炎旋風を放ってやると戦場の様相が変わる。


 直接被害を受けたわけでもない南側でも動揺があったのに、火炎竜巻で被害を受けた北側の部隊が平気でいられるはずがないのだ。即座に火炎旋風を吹き散らそうと大量の爆炎が集中する。


「突っ込め!」


 左右の火炎旋風に騎士の意識が集中するなか、その中間に向けて灼熱の飛礫を飛ばしていく。追ってきた二足鹿(ヴェイツ)部隊も火炎旋風越しに炎の奔流を撃ってくるが、当たる心配のない狙いならば対処の必要すらない。


 唯一心配していたのが友軍を何十人も巻き込む可能性のある攻撃だが、それをしてくるつもりもないようだ。


 ネゼキュイアの部隊に突っ込んでいけば、そこに戦力的な大きな穴が生じる。オードニアムの部隊との間の牽制の爆炎が明らかに少なくなり、途切れがちにすらなっていく。


 その隙を逃すほどオードニアムの騎士は甘くない。数人の騎士が突破してくると、それを切り口に一気に攻勢に出る。


「このまま敵を分断して追い込むぞ!」

「承知しました!」


 薄くなったとはいえ、まだ残っている敵の攻撃を突破してきた騎士の士気は高い。指示を出すと雄叫びを上げながらネゼキュイアの騎士を西へと押し込んでいく。そうなると、正面と横からの攻撃を受けた部分から崩れていき、ネゼキュイア軍は怒号と悲鳴が錯綜する混乱状態に陥っていく。


 そこに二足鹿(ヴェイツ)部隊が追い付いてくるが、私たちは背後をオードニアム騎士に任せて正面の敵を抑え込めば良いだけである。敵陣の只中にいた先ほどまでと全く状況が違う。


 これ以上、敵に有利を取らせてなるものかと思う。


 二足鹿(ヴェイツ)部隊と正面に対峙しつつも、東側からやってくる騎士には灼熱の飛礫を放って牽制し続けることは必要だ。オードニアムの騎士も何人かはそちらの対処に当たっているが、手数として足りているようには見えない。


「さて、次はどうする?」


 二足鹿(ヴェイツ)部隊は何度か炎の奔流を撃ってはいるが、それは全て私たちの爆炎で吹き散らされて終わる。その膠着(こうちゃく)状態を維持できていれば、あとはオードニアムの騎士が敵を撃滅してくれるのだから、私たちの仕事としてはこれで十分だ。


 逆に言うと、ネゼキュイアの二足鹿(ヴェイツ)隊としては現状打破の策を今すぐに打たなければならない事態だ。


「総崩れになる前に西から援護に向かうのでは?」

「そんな余裕があると思うか?」


 この場は無視して、大きく西に回り込んで逆にオードニアムの部隊を横から叩くという作戦はすぐに思いつく。問題は、彼らにここで私を無視する度胸があるのかだ。


 互いに部隊の端を崩されて、どちらが耐えきれるかという消耗戦に持ち込まれれば数が少ないオードニアム側の方が不利である。しかし、今目の前で倒れていく友軍を無視するのは、耐えがたいほど恐ろしく非情な判断であるのも間違いないだろう。


 私たちが追ってきた場合、どう対処するのかというのも重大な問題だ。魔力を撒いて罠にするようなことができるならば、とっくにやっているだろう。

 その一方で、今までやって見せたことのない火炎旋風に関しては、できると考えておいた方が良い。単に届く距離の問題で使う場面がなかったとするのが自然だ。


 彼らが三秒、四秒と迷っている間にネゼキュイアの騎士はばたばたと倒れていく。


「もう一班くらい、東の敵を食い止める側にまわってくれ。」


 二足鹿(ヴェイツ)部隊が動かないならば、こちらが先に動くまでだ。この十数秒で何十人も失っているネゼキュイアに対して、オードニアムの損失はわずかだ。一班十四人ほどを抑えに回したところで攻勢が緩むこともないだろう。


 むしろ、私たちが押し込む側に加わってしまえば戦力が減ったとも感じないだろう。そうすると二足鹿(ヴェイツ)部隊も押し込まれている北の部隊に合流して抵抗を始めるが、それは明らかに悪手だ。


「あれは私とソルニウォレで抑え込む。ミアリファンとザマエレオはオードニアムの者と協力して敵の騎士を撃滅することに力を注げ。」


 そもそも私たちがあの敵を厄介と感じていたことの一つに、固まらずに広がって攻撃してくるため、少人数での対処が困難だということにあった。それが、一か所に集まって牽制攻撃を繰り返しているのでは恐るるに足らないというものだ。


 どんなに必死に炎の奔流を撃とうとも、私とソルニウォレの爆炎で迎撃できる。


 そんなことを十数秒も繰り返していると、ネゼキュイアの部隊に異変が起きた。

 半分以下に減ったなかで誰か一人が逃げ出していくと、堰を切ったように他の者も背を向けて西へ北へと走っていく。


其方(そなた)らは追わずとも良い。半数は中央へ、残り半数はそこの二足鹿(ヴェイツ)部隊を囲め。」


 二足鹿(ヴェイツ)部隊は次々と走り去っていく仲間を呆然と見つめるが、それをそのままにしておくつもりなど毛頭ない。炎の奔流は驚異的ではあるが、対処不能なわけでもない。馬の部隊でも取り囲んでしまえばいくらでも対処のしようがある。


 私たちが前面に立って牽制の攻撃を続けていれば、数十秒で包囲を完了する。そのあとはオードニアムの騎士に任せて、私たちは逃げていった者たちへの追撃にかかる。

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