表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
455/593

455 避難民がやってきた

 二日滞在して領都の守りの石に魔力を注ぐと、その後は南へ向かう。

 噴火の報告を受けて既に一か月が経過している。メイキヒューセはとっくに南方の領地をまわり終わっているだろうし、領主や小領主(バェル)の判断が早ければ避難民が到着している可能性もある。


 街道沿いに南へ向かうと、最初に着いた町は魔物がきれいに片付けられていた。少なくとも町の中には魔物の気配がないし、畑のあちこちには焼却したあとがいくつも見受けられる。ザッガルドと王宮の騎士が対応を完了しているのだろう。


「主要街道沿いは既に魔物退治が終わっているようですね。他の道を行った方が効率的ではありませんか?」

「どこまで終わっているのか分からない以上、無闇に進路を変更しても効率が上がるとは思えません。少なくとも守りの石は私が対応しなくてはなりませんから、街道をまっすぐ行くつもりです。」


 とは言ったものの、周辺の魔物が退治されているならば騎士を大勢連れていくのは不効率かもしれない。騎士を四、五人の班に分けて周辺の村の対応や、森に魔力を撒くようにした方が良いかもしれない。

 そう思って、私の護衛は一人いれば十分として班を作ろうとしたら一斉に反対されてしまった。


「いけません、ティアリッテ様。守りの石への魔力充填(じゅうてん)は、相当な疲労を伴うように見受けられます。」

「文箱を持って単に移動するだけならばともかく、守りの石を見てまわるならば最低で三人は騎士をつけてください。」


 私にはあまり自覚がなかったが、少なくとも騎士たちが不安を覚えるほどに疲労して見えるらしい。守りの石に魔力を注ぐのは確かに大変だが、心配されるほどのものとは自分では思っていない。


 しかし、騎士のほぼ全員が強く言うのだから、おそらく私の認識のほうが間違っているのだろう。


「分かりました。それではウジメドゥアの騎士は私と一緒にきてください。もう一人は誰にいたしましょう。いえ二人の方がよろしいでしょうか。」


 最低三人と言われたが、ウジメドゥアの騎士はこの場には二人しかいない。ミュウジュウの騎士を一人だけ入れるのも調和がとりづらいし、二人にした方が良いだろう。

 二人を選んで決めると、残りの騎士は六人ずつ二班に分けて西側と東側から南に向かってもらうことにする。


「王宮の騎士以外にも、ザッガルド公爵や他の領地からも応援の騎士がきているはずです。見つけた場合は状況確認の上こちらに集合してください。」


 ザッガルド公爵が出してくれた騎士はもちろん、周辺領地からも騎士は来ていると思う。全体的な魔物退治の進捗状況は把握しておきたいところだ。

 私の方も進んでいく経路を伝えておく。こちらは町を巡っていくため、ザッガルドの騎士と出会っても変更することはない。



 三つの町を過ぎて、二日目の夕方に到着した町には、遠目にも多くの人が行き来しているのが見えた。


「ここはまだノエヴィスですよね?」

「はい、ヴァイテズゥ子爵領はまだ先のはずです。この先もうひとつの町まではノエヴィスです。」


 地図は確認して進んできているが、このあたりの地理には詳しくはない。どこかで道を間違えて南に進みすぎてしまったのではないかと一瞬不安になったが、ミュウジュウの騎士は間違いなくノエヴィスから出ていないと断言した。


「これほどの人数が到着しているとは思いませんでした。小領主(バェル)(やしき)に急ぎましょう。」


 近づいてみると町の中には貴族の気配もいくつかある。混乱が起きないよう、大きな荷物を背負った者たちを誘導しているようだった。


「私はティアリッテ・シュレイ。貴方(あなた)はどこの貴族であるか?」

「ベルニュム領は小領主(バェル)モルノモーズにお仕えしております、ニードエルヤ・ボノボジットと申します。」

「ベルニュム子爵領から? もう家に入ってしまっているのですね。」


 呟くようにいうと、文官と思しき貴族はうろたえた様子を見せる。言いたいことは色々あるが、小領主(バェル)に仕えているという末端の貴族に言ったところであまり意味はない。


「ベルニュム子爵や小領主(バェル)は来ていますか?」

「領主様が今どこにいるかは存じません。小領主(バェル)モルノモーズは既にこの町に入っているころかと思います。」


 ベルニュム子爵の詳しい動きまでは知らされていないようだが、小領主(バェル)は一緒に来ているらしい。ならば私は急いで小領主(バェル)に会った方がいいだろう。どれくらいの人数が避難してくるのか把握できなければ、どの町に誘導すれば良いのかも決められない。


「ベルニュムから避難してきた者は、この街道の先に進ませないでくれ。この町からは東へ行く街道があるので、そちら誘導してくれ。」

「承知しました。」


 ベルニュムの者たちで立地の良い町を占有されてしまっても困る。彼らはバッチェベックやファナックよりも距離的に近いから先に到着できるだけであって、彼らを優遇する理由はない。


 町に立つ他の文官や騎士にも、他の町からの避難者は東へ向かわせるようにと指示を出しつつ町の中心部へと向かう。

 道を行く者たちは多いが、その様子は通常の町とは異なる。南側から大きな荷物を担いだり荷車を押している者たちが続々とやってきて、大声で誘導する者に従って小路へと入っていく。


 途中で広場を過ぎるが、まだ店を出している者は見当たらない。おそらく、自分の住む家を決めるのが最優先なのだろう。



 小領主(バェル)の邸に着くと、門の前には数人の騎士が既に立っていた。


「私はティアリッテ・シュレイ、王宮の者だ。小領主(バェル)は着いているか?」

「先ほど到着したばかりでございます。来客を受けられる準備はまだできないかと思います。」

「ここを小領主(バェル)モルノモーズに与えると決めた覚えはないぞ?」


 騎士の言い方は少々図々しいのではないだろうか。このノエヴィスの地は王宮管轄となっているし、避難してきた者を受け入れることにしたが、具体的に誰がどこに入るかは未決定だ。その決定権はベルニュム子爵領や小領主(バェル)モルノモーズにはない。


 そして、未決定である以上は、客人を受け入れる立場であるのは私であって小領主(バェル)モルノモーズではない。


「た、大変失礼いたしました。どうぞお通りください。」


 冷静に考えれば、ベルニュムに用意したのは別の町だと言われる可能性があることに気づいたのだろう。騎士たちは顔を引き()らせながら門を開けた。


 門を入ると、前庭では馬車から荷を下ろして運ぶ使用人たちが右へ左へと走り回っていた。

 正面扉も開け放したままなのでそのまま中に入ろうとしたのだが、使用人に小領主(バェル)の居場所を聞くと、まだ馬車で待機しているという。


「長い間使われていなかったようで、部屋のお掃除が必要なのです。」

小領主(バェル)はまだ中に入っていないのか?」

「はい。暗くなる前に片付けば良いのですけれど……。」


 それならば、私にとっては好都合というものだ。中に入ろうとすると「お待ちください」と止められたが、王宮の者として渡す前に確認すべきことがあると言うと使用人はおとなしく引き下がる。


「守りの石を優先するのですか?」


 小領主(バェル)に会う前に守りの石へ魔力を注ぐことに対して、騎士は渋面を作る。昼に一つの町の守りの石を満杯になるまで魔力を注いできているし、残りの魔力や体力を考えると魔力充填に反対せざるをえないということらしい。


小領主(バェル)が来たのならば、完全に充填(じゅうてん)する必要もないでしょうけれど、空のまま渡すのも外聞がよくないでしょう。」


 あとは食事をとって寝るだけ、という状況でなければこの町の石を完全に満たすつもりはないというと、騎士たちも安堵の息を吐く。いくらなんでも疲労困憊(こんぱい)の様子を見せるわけにもいかない。


 それほど大きくもない小領主(バェル)の邸ならば、守りの石を置いている部屋もすぐに見つかる。入口のホールから伸びる階段を上って、廊下の奥の部屋がそれだ。


 くすんだ黄色となっている石に手を当てて大きく息を吸い込むと、気合をこめて一気に魔力を注ぎ込む。石が鮮やかに輝けばそれで終わりだ。さらに魔力を籠めれば輝きはさらに増すが、そこまではしない。


「これで良いでしょう。それでは小領主(バェル)に会いに行きましょうか。」


 騎士は心配そうな顔を向けてくるが、余力は残している。別に努めて取り繕わずとも平常でいられる範囲内だ。


「お疲れのように見えます。」

「これまで毎日魔物退治をしていたのですから、少しくらい疲労していても当然ではありませんか。」


 平然と元気な顔を見せるほうがどうかと思う。こういう時は、王宮側も力を尽くしているのだと示しておくべきなのだ。何もせずただ怠けていたなどと思われては困る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ