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453 ノエヴィス一掃作戦

 翌朝ザッガルドの領都を発ち、北に向かって馬を急がせる。とはいっても、あまり急がせすぎると馬が倒れてしまうため、速度の見極めはとても大事だ。

 途中、ノエヴィスに入った辺りで大半の騎士たちと別れ、私は二人騎士とともに北のミュウジュウへと向かう。連れてきた騎士全員でミュウジュウまでいく意味はない。私が行って戻るまでの数日間も、ノエヴィスの魔物退治を進めていってもらう。


 まず優先すべきは町や村の周辺の魔物退治だ。畑の外側に魔力を撒いて放置しておけば、周囲から魔物が大量に集まってくる。それを十数人の騎士で取り囲んで一気に駆除していく作戦である。ザッガルド公爵にもとりあえず十四人の騎士を出してもらったので、二つの班で進めていってもらうことになる。


 ノエヴィスから道なりに北東に行くとパックプッツ男爵領へと入り、さらに北東に進んでいけばミュウジュウの領都に至る。


 馬でいけはザッガルドから八日の道のりである。急ぎたいところではあるが、これ以上時間の短縮は難しい。


「お久しゅうございます、ティアリッテ様。今回は如何な用件でございますか?」


 笑顔で出迎えに出てきたミュウジュウ侯爵は、春にバランキル王国に向けて遣いを出したことの印象がとても強いようで、私の来訪も単なる地方視察だと思っているのだろう。


 しかし私は悪い報告をしなければならない。


「久しいな、ミュウジュウ侯。今回は緊急の件だ。バッチェベック南方にて大規模な噴火があり、その避難先としてノエヴィスを使いたい。其方(そなた)も協力してくれぬか?」


 端的に来訪の理由を説明すると途端に表情を変え、応接室へと案内された。そこで説明する内容はザッガルド公爵のときと同じだ。


 求める内容もほとんど同じで、通り道になることのない避難民の誘導がないだけの違いしかない。


「三つの領地が壊滅的被害を受けたとなれば、ノエヴィスだけでは足りますまい。」

「ですから最悪の事態を考えて、南側の公爵に受けいれのお願いを出しています。」


 被害地域の全領民を避難あるいは移住させるとなると、八万人程度が動くことになる。元々五万人規模であったノエヴィスだけでは受け入れきれないだろう。


「ところで、この辺りには二足鹿(ヴェイツ)はいるのか? 王宮では詳しい者もなく、生息地は北の方としか知られていなくてな。」


 もしミュウジュウに生息しているなら、いくつか捕まえていきたい。そう思って聞いてみたが、ミュウジュウ侯爵は首を横に振る。


「我が領地では滅多に見ることがありません。モッシュワ侯爵領の料理に二足鹿(ヴェイツ)の肉を使ったものかあったように記憶しています。」


 なんと、現地では騎乗に使うのではなく食べてしまうらしい。となると、生きたまま元気な状態で捕まえるのは難しいかもしれない。残念だが、今回は新たに捕まえるのは諦めた方がいいだろう。


 ミュウジュウ侯爵への依頼には二足鹿(ヴェイツ)の捕獲は含めないことにして、騎士の貸し出しを頼む。


「数日の期間をいただけますか? 明日すぐに出せるのは十四が限度でございます。」

「あまり時間をかけてもいられないが、調整が二、三日で済むならば構わぬ。」


 ミュウジュウ侯爵領は、魔物の巣窟である国境の山脈に接している。騎士を何十もの騎士を出せるなどと思ってはいない。


 無理に騎士を出して畑が被害に遭い食料不足になってしまうのでは、見当外れにも程があるというものだ。


「周辺の中小領地からも無理のない範囲で募ってくれると助かる。先日、街道周辺は魔物退治をしておいたのだが、それ以外はほとんど手付かずなのでな。」


 そこまで放置していた私たちにも責任はあるのだが、今そんなことを言っていても事態は何も変わらない。とにかく協力して魔物を一掃してしまうしかない。


 その日は一晩休ませてもらい、翌朝、選ばれた十四人の騎士と共にノエヴィスへと向かう。


 途中にあるパックプッツでは男爵に会って、騎士の補給に協力してもらうよう話をしておく。馬の餌となる草はそこらに生えているが、人の食料をどこまで現地調達できるかは不明だ。何かあったときのためにも、騎士の受け入れは頼んでおいた方がいい。



 ノエヴィスに入ると、私たちも張り切って魔物を狩っていく。ミュウジュウの騎士たちも魔力を撒いて誘き寄せるやり方に慣れているようで、大量に集まってくる魔物に一々驚きはしない。

 南側はザッガルドの騎士に任せ、私たちは北端あたりから始めて南東に回り込むように進めていく予定だ。


「焼却は後回しにして、次々いきますよ。」

「良いのですか?」


 誘き寄せた魔物を死骸の山と化すと、通常ならば火を放って灰にする。しかし、今回は通常の手順を取らず、退治する効率を優先する。騎士たちは不安そうな顔をするが、問題はない。


「確かに町のすぐ近くですけれど、人は住んでいませんので住民の安全を考える必要はありません。数日放置しておけば周辺から魔物がさらに集まってきますから、後でそれをまとめて(たた)けば良いのです。」


 ノエヴィスの全域の魔物を徹底駆除するのだから、一か所にあまり時間をかけてなどいられない。町や村を巡って死骸の山を作り、魔物の絶対数を減らしていく。


 それとともに、町や橋などの守りの石に魔力を充填(じゅうてん)していく。これは騎士に任せることができないため、非常に大変な作業だ。


 一番大変なのは領地の守りの石全てを動かすことではないかと思うくらい大変だ。橋や河港ならばそれほど大きくないので一日に十数は魔力を充填していけるが、町の守りの石は魔力の半分以上を必要とする。



 ノエヴィス北東部の町三つをまわると、最初の町へと戻る。

 魔物を集めるためにと放置した死骸の山も、あまりにも放置しすぎると腐り周囲に毒を及ぼすようになる。秋分も過ぎて日中の気温も落ちてきているが、三日も経つと悪臭を放つようになっていた。

 それに群がる魔物の神経がよくわからないが、それを口にすると騎士は真面目な顔で「相容れない生き物なのだから当然だ」と言う。


 集まっている魔物は小型から中型がほとんどだが、大型の魔物がやってこないというわけでもない。腐肉を貪っている小型の魔物を襲って食べているものもある。

 それらを取り囲んで一か所に追い込み、灼熱の飛礫で殲滅(せんめつ)するのが今回の魔物退治のやり方の大枠だ。。


 灼熱の飛礫は、一匹ずつ敵を狙う必要もなく狭い範囲の敵を見境なく叩き潰すのに便利だ。敵でなくても範囲内のすべてを叩き潰してしまうため、通常は畑の中で使うことはないが、今はただの荒れ地と化しているので気にすることもないだろうという判断だ。



 毎日、朝から晩まで魔物退治をすすめ、五日目に村の端で小型の魔物を取り囲んで追い込んでいるとそれは現れた。


 一見して、黒い巨体。

 村の家の屋根越しに東側から近づいてくるのが見えている時点で大きさは知れるというものだ。

 正面から見ると黒の塊だが、横を向くと胴の中央から後ろにかけては縦長の白い斑がある。

 そんな獣が二頭並んで村をまわり込んで近づいてきたら、騎士たちにも緊張が走る。


黒剣虎(クリューリン)ではありませんか。」


 気配は〝守り手〟のものだし、以前に見たこともある。心配することはないと馬を下りて二頭の獣に近づく。そして、いつも通りに魔力の塊りを放ってやれば、黒剣虎(クリューリン)も投げ返してくる。


 短期間で魔物の数を大きく減らしていると、〝守り手〟が様子を見に来ることがある。

 どうやっているのかは知らないが、相当に離れていても〝守り手〟には魔物の動きが読めるようで、数が減っている場合でも何が起きているのかの確認をしようとするのだと私は理解している。


 今回もその例に沿った動きなのだろう。挨拶を済ませてしまえば、黒剣虎(クリューリン)の方も警戒の色がなくなる。しゃがんだ獣に近づいて顎のあたりを()でてやることもできる。


「この辺りの魔物を一掃したいのです。あなたたちにも手伝っていただけると、とても助かります。」


 そう言うと黒剣虎(クリューリン)は立ち上がって周囲をぐるりと見回し、南西方面へと走っていった。本当に伝わっているのかは分からないが、未着手の方面に向かっていったので、魔物の数が減る結果にはなるだろうと思う。


 それを見送ると、私たちはノエヴィスの東側の魔物退治を進めていくことにした。

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