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420 巨大な獣

「魔物、だけではなさそうですね。」

「これは守り手に追われているのか。」


 走っていると数十の魔物の気配を捉えるが、その中には魔物とは違う気配もいくつもある。


 さらに近づいてみると、大型の魔物と〝守り手〟と思しき巨大獣が入り乱れての混戦状態となっていた。


「何だこれは⁉ 一体、どうなっているのだ?」

「分かりませんけれど、明らかに魔物と分かるところから退治していきましょう。」


 見たこともない魔物や獣もあるが、知っている魔物や〝守り手〟もある。まずは、知っている魔物を倒してしまえば、〝守り手〟の戦いも楽になるだろう。


「不用意に近づくな! 巻き込まれて押し潰されては敵わぬ。」


 フィエルナズサが叫ぶと、騎士も敢えて近づこうとはしない。魔物と守り手の区別がつかずとも、こちらを無視して争っている獣の間に割って入る意義は見出せないのだろう。


「よく知らぬ魔物が多いが、あれは兜熊(ヒギア)だな。」

「フィエルは、まずあれをお願いします。私は鬼象(ジーグォム)から倒していきます。」


 フィエルナズサと分担して、手近な魔物から狙っていく。馬をゆっくり進め、左手に掲げた杖を真っ直ぐに振り下ろすと、(ほとばし)る一条の雷条は、狙い違わず二百歩ほど先にいる鬼象(ジーグォム)を撃つ。


 ゆっくりと倒れる魔物は、もうそれ以上することはない。次の標的に向けて馬を進める。狙いは、後ろ足を引き摺り混戦の場から逃げ出そうとしている双頭の魚獣だ。


 横から魔力の塊を投げてみると、二つの頭は同時にこちらを向く。そして、魔力の塊に喰らい付くと、その直後に悲鳴を上げることもできずに倒れる。

 態勢を整えるまで攻撃を待ってやるつもりなど全くない、魔物であると確定した瞬間に雷光で撃つだけだ。


 フィエルナズサの方も確実に兜熊(ヒギア)を仕留め、逃げようとする魔物を討っている。


 さらに数匹を仕留めると、一度騎士のところに戻る。混戦の中央にいる魔物を見つけてしまったためだ。


「ティアリッテ、気付いたか?」

「ええ。岩の魔物ですね。」

「周囲の魔物は、あれが従えているのか?」

「どうなのでしょうね。いずれにせよ、全て倒すだけです。」


 岩の魔物は、エーギノミーアの山奥で見たものよりも大きそうだが、ここには守り手も複数いる。周辺の魔物さえ倒してしまえば、どうとでもなるはずだ。


「で、どうする?」

「できることを試していきましょう。」


 取り敢えず、いつものように魔力を撒いてみる。一瞬、魔物の目が一斉にこちらを向くが、それだけだった。目の前の敵を忘れるような間抜けではないらしい。


「ならば、これでどうだ?」


 フィエルナズサは二つの魔力の塊を左右に放り投げる。これに反応したのは〝守り手〟の方だった。手前の方にいる五の獣が、()()()()()()()()一斉に動く。


 一呼吸おいて残りの守り手もそれに続き、私たちも一度後ろへ退がる。魔物と〝守り手〟に距離を取った方が、私としてはやりやすい。

 目まぐるしく入り乱れた混戦状態だと、狙いを定めるのも容易ではないためだ。


「奥の魔物に突撃するぞ! こちらに来た獣には手を出すな!」


 叫び、フィエルナズサは馬を反転させる。騎士には〝守り手〟が一緒に来てしまわないように左右に火柱を並べさせ、私とフィエルナズサで魔力の塊を前方にいくつも放り投げる。


 次の瞬間、魔物の目の色が変わった。

 大きく強力な〝敵〟が退き、代わりに明らかに小さくて弱そうな〝獲物〟が近づけば、当然のように意識が変わる。


 牙を()き、食い殺さんとばかりに向かってくるが、その爪牙が私たちに届くことはない。フィエルナズサと二人でばら撒いた雷光が、近づく魔物を悉く撃ち尽くす。


 雷光の一撃をなんとか持ち堪える魔物もあるが、騎士の集中砲火を浴びて絶叫を上げる。


 あっという間に魔物はその数を減らし、残り十数程度となったところに三十ほどの〝守り手〟が飛びかかった。数の上で劣っていた〝守り手〟だが、それも逆転すればもはや魔物に勝ち目はない。一分も経たずに、岩の魔物を残すのみとなった。


 その岩の魔物は、〝守り手〟が取り囲む中、周囲を威嚇するように()えながら足を踏み鳴らす。勢いよく振り回す尾は、雪どころかその下の地面を(えぐ)り、大量の土砂を周囲に弾き飛ばす。


「なんだあの化け物は⁉」


 騎士が悲鳴に似た声を上げるのも無理はない。馬の三倍はあろうかという〝守り手〟のさらに倍近い巨体が地響きを上げながら暴れているのだ。とてもではないが、近寄ることなどできはしないか。


「あの岩の魔物には、常識的に知られる攻撃が全くというほどに通用しません。」

「うむ。出会いたくない魔物の筆頭格だな。騎士団では勝ち目がない。」

「そんなものを、一体どうやって退治するのですか?」

「こうするんですよ!」


 そう言って馬を降りて前に進み、頭上に魔力の塊を浮かべる。フィエルナズサと並んで渾身の魔力を込めていくと、〝守り手〟も一斉に(うな)り声を上げて魔力の塊を周囲に浮かべる。


「行くぞ!」


 フィエルナズサの掛け声に合わせて魔力の塊を岩の魔物に向かって投げつけると、〝守り手〟からも凄まじい魔力が次から次へと叩きつけられていく。


 これだけの数の〝守り手〟からの魔力飽和攻撃を受ければ、さしもの岩の魔物といえども許容限界を超える。苦しそうに咆哮(ほうこう)し、地に倒れ伏した。


「少し距離を取った方が良いですね。魔力が濃すぎます。」


 騎士は大丈夫だろうが、魔力に当てられて馬が倒れてしまいかねない。少し離れて二分ほど見守っていると、(うめ)き声を上げていた岩の魔物は絶叫を上げた後に沈黙する。


「今度は何だ?」

「離れろ! とんでもない魔力だ。」


 全身のあちこちから赤く光る魔力を噴出させる岩の魔物に、私たちは慌てて更に退避する。あんなものを浴びたら、私でも無事では済まない可能性がある。


 〝守り手〟も岩の魔物に近寄ろうとはせず、いくつかは私たちの方に向かってくる。それを見て騎士たちは顔を強張らせて身構えるが、わざわざ彼らと敵対する意味はない。


「あれは山や森を守る獣たちです。こちらから攻撃しない限り襲いかかってくることもありません。」


 そう言って先頭に立つ獣に向けて魔力の塊を放り投げると、鼻先で受け止めて投げ返してくる。


 私が赤い(たてがみ)を持つ獣と挨拶を交わしている間、フィエルナズサは巨大な牙を持つ黒い獣と挨拶をする。どちらもこの中では最大級で、白狐や銀狼よりも一回り大きい。首を真っ直ぐにもたげると頭頂はフィエルナズサの三倍ほどの高さになるだろう。


 他にも小型の黄豹を縞模様にしたような獣や、以前に見た巨大な馬もいる。いずれにしても、最も小さくても青鬣狼(グラール)を上回る大型の種類のもので、それが二十九も集まれば、ある意味恐ろしい光景だ。


 それが揃って私たちの前に寝そべるのだから、騎士たちが戸惑うのも無理もない。


「この通り、襲ってはきませんので大丈夫ですよ。」

「大丈夫ではありません! 馬王はともかく赤獅子に黒剣虎は危険すぎます!」

「今のうちに城に戻り、戦いの準備を整えるべきです!」


 半ばパニックになりながら騎士が口々に言うが、複数の大型の〝守り手〟に正面から戦いを挑んでも勝てるわけがないだろう。今、王宮にある全戦力をもってしても、まるで話にならないほどの力の差があるのだ。


「落ち着け、其方(そなた)ら。魔物を手懐ける技術を見出したのはウンガスの王族だろう。」


 魔物と〝守り手〟を同列視しているならば、恐れることはないはずだとフィエルナズサが諭すが、騎士たちは必死に首を横に振る。


「大型の魔物を従えることは叶いませぬ!」

「我々バランキルの貴族は、大小関係なくこの手の獣と友好関係を結ぶことができる。心配するな。」


 そう言ってフィエルナズサは黒剣虎に近づき首のあたりを()でる。とはいっても、腕はふかふかの毛に潜り全く見えないのだが。


 私も赤獅子の(たてがみ)を撫でてやる。遠目に見ると風になびいて柔らかそうだったのだが、触れてみると毛が固いうえに密度が高く、思ったよりも手応えがある。


 その横に伸びている前足は、足先にいくほど毛がつんつんと固く、刺さってしまいそうな程だ。肩に近くなると〝守り手〟特有の艶のある柔らかな毛になる。


 いつまでも撫でまわしていたいところだが、そんなわけにもいかない。岩の魔物を退治したことはジョノミディスらにも報告せねばならない重大事項だ。


 魔力が濃すぎる地域に近づかないように周知しておく必要もあるし、〝守り手〟に別れを告げて城に戻ることにした。

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