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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院1年生
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037 はじめての収穫

 種播きが終わっても、魔力撒きは終わらないし、魔物潰しも終わらない。


 畑に魔力を撒くと周辺から魔物が寄ってきてしまうので、まず、畑の間の畦道に大量に撒いて、そいつらを徹底的に潰していかねばならない。


 道を通行禁止にして、農民が通れないほどの魔力の濃さにしてやれば魔物はウジャウジャとやってくる。これを退治するのに農民は使えないため、連れてくる騎士を増員して対処した。


 小型のネズミやヘビのような魔獣も、いったい幾つ潰したのか分からない。騎士も「畑が魔物の巣窟になっているではないか」と驚き呆れていたくらいだ。


 こうしてみれば、ハネシテゼが怒るのも分かる。こんな状態では作物が育つはずがないし、豊かな実りが得られるはずなんてない。


 農民たちも頑張っているのだろうが、魔力を持たない者たちでは魔物退治をするにも限度がある。



「いつまで、これを続ければ良いのだ?」

「作物が実って、成果が誰の目にも明らかになるまでは続ける必要があると思います。」


 毎日同じことの繰り返しでウンザリとしていたフィエルとそんなことを言っていたが、意外と、誰の目にも明らかになるのは早かった。種を播いてから二週間ほどで既に明らかに私たちの畑の作物は大きく育っている。


 背丈を大きく伸ばし、葉も大きく張りと(つや)があり、とても元気そうな印象だ。朝夕の城への往復の際に他の畑を見てみるとその差ははっきりと分かる。


 種播きが終わてから一ヶ月ほどすると、私たちの畑は緑が覆い尽くさんばかりに作物が巨大化していた。


「この緑豆(ピジオ)とはどれほどまで育つのです?」

「こんな大きく育ったのを見たのは何十年ぶりか分かりません。もう十分すぎます。」

「そろそろ、魔力撒きはやめても良いんでないかと思う。水でも肥料でも、やり過ぎれば毒になる。」


 あれもこれも大きく育って喜んでいたのだが、生育過剰も良くないということで、魔力は周辺の畑に撒いていくことにした。


 農民たちとも色々話をして、私たちの畑は様子を見ながらたまに魔力を撒くことで方針が決まる。ただし、一区画だけは実験ということで魔力を撒き続ける。その結果がどうなるのかは誰も知らないのだ。もしかしたら、何の問題もなく実りが増えるかも知れないし、逆に魔力に耐え切れずに枯れてしまうかもしれない。


 そして、私たちが畑にいる時間も短くなる。朝一番に畑に出て、昼前には城に戻る。当然、分かっていたことなのだが、座学が山積みになっているのだ。一ヶ月以上も机で勉強していなければ、父や母の小言が増えたりもする。


 さらに二週間後からは、畑に行く頻度はさらに減らしてフィエルと交代でということになった。


 ただし、大菜の収穫の際には馬車を出してもらって二人で出かけていく。初めての収穫なのだから、私もフィエルもそこは譲れない。


 元気に育った大菜は、巨大な緑の塊となって畑に並んでいる。一つがずっしりと重く、私には一つしか持てないくらいだが、これは農民曰く例年の数倍の大きさだという。


「なあ、これ、どうするんだ?」

「みんなで食べるのではないのですか?」

「ヤだよ! 俺、こんな大菜ばっかり食べたくないよ!」


 農民の子どもが我儘を言うのは今に始まったことではない。昨年は食べる物が足りなくて困っていたと言うのだから、お腹いっぱい食べれば良いではないか。


「ええと、七十人で割ると、一人あたり三十三個くらいか?」


 大菜は畑一区画にびっしりと並んでいる。確か、一つの畝に五十六個あるはずで、それが四十二並んでいるから、全部で二千三百五十二という計算だ。


「そんなに要らねえよ! 腐っちまう!」

「そうですわ。フィエル。家族の数も考慮しないとなりません。百四十くらいで割れば良いのかしら?」


 畑には出てこれなくても、大事な仕事をしている者たちはいるはずだ。きちんと、農民が生活に困らないように分けなければならないだろう。


「お二人とも計算の順序を間違っています。まず、税として二十八分の三、つまり二百五十二個がお二人の取り分となります。」


 騎士たちに指摘されて私とフィエルは顔を見合わせる。そんなに大量に馬車に入りきらないではないか。それに、そんなにいっぱいあっても食べきれない。


「いや、お嬢さんがた。ワシらもこれを全部自分たちで食べはしません。半分以上は街で売ってお金に換えます。」


 そして、そのお金で肉や他の食べ物を買うらしい。私は食べ物は食べることしか思いつかなかったが、農民たちは食べ物は売るのが当たり前のようだ。


 だが、私たちには街で野菜を売る伝手など無い。護衛で来ている騎士も、税で取り立てた作物をどのように売却しているのかは知らないようで、一旦、城に持って帰ることにした。


 とはいっても、まとめて一気に全量は無理である。一度に馬車に乗せられるのは、せいぜい四十九個ほど、つまり、五回運ぶ必要がある。



「お父様、お母様、大菜の収穫ができました! とても大きくて、農民もとても喜んでおりました。」

「喜んでいたと言うよりは、困っていなかったか?」


 私の報告に、フィエルが横からケチをつける。困っていたのは子どもばかりで、大人は喜んでいたはずだ。


「それで、収穫は増えているのか?」

「他の畑で穫れた大菜の二、三倍の大きさはありますよ。収穫前の畑を見ればどれほどなのか一目瞭然です。」

「だが、もう、収穫は始まっているのだろう?」

「収穫が終わるまで、あと数日はかかる見込みです。明日の朝くらいに見に行けば、ハッキリと差が分かるかと思います。」


 私とフィエルで父や母も一度畑を見に来るよう言うが、どうしても忙しいらしく、兄か姉を視察に出すということで落ち着いた。父や母に見てもらえないのは残念だが、兄からも報告があれば、私たちの実績として認めて貰えるだろう。


「ところで、税として取り立てた野菜の売却は、どのように手続きを進めれば良いのでしょう?」

「ミネユレィエ、教えてやってくれますか?」


 母に指名され、文官の一人が立ち上がる。

 馬車は東の倉庫側の入口にまわしてあるので、まずそちらへ一緒に行くことになった。


「これが私たちが穫ってきた大菜でございます。」

「近年珍しい、随分と立派な大菜ですね。これが幾つなのですか?」

「馬車の都合上、一度に運ぶことができなかったので、今日、持ってきたのは五十です。残り二百二が税として取り立てる分です。」


 大きさや品質に、そう大きな差はないはずだと説明すると、馬車の中で山となっていた大菜を下ろしていくつかに分けていく。


「まず、こちらの七個は領主一族の食卓に上る分でございます。騎士寮、文官寮の食堂用も必要ですので、こちらに分けます。」


 今日運んできた分は全て城の中で消費するということで、明日以降に運び込まれるのが売却用となる。


「明日も本日と同じ頃に運び込まれますか? それに合わせて商人を呼び出しいたします。」

「畑に呼んで、直接運ばせた方が楽じゃないのか?」


 一度、城に運んでから、また馬車で街に運んで行くのは不合理だろうとフィエルは首を傾げるが、形式や格式というものは、どれも一見不合理だが、それでも意味があるのだと諭されて今回は従来通りということで話は落ち着いた。


「そういえば、何でもかんでも、一気に変えると反発が大きいとハネシテゼ様も言っていたな。」

「私たちも少しずつ大人のやり方に慣れていかなければならないということですね。」


 そして、馬車と人の確保について教わり、明日は四台の馬車を引き連れて畑に向かうことになった。

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