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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院1年生
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025 重大発表

 その後は、伯爵家の者たちが騒いだりしたことがあったくらいで、無事に春を迎えるに至った。


 学院を離れて領地に戻る前に大きなイベントがある。下の者たちは試験も大きなイベントのようだが、それは私たちには面倒な手続き程度のことでしかない。


 座学では全科目どれをみてもハネシテゼより劣っているとは言われない。満点という上限があるのは実にありがたいことだ。


 そしてイベント本番だ。これは恒例行事ではなく、今年は特別に設けられたものだ。

 全ての土地持ち貴族全員が集められ、国王陛下より言葉を賜る。普通ならば、私たちには関係が無い。未成年である私たちにはそのようなイベントへの参加資格はないのだ。


 だが、ハネシテゼと私は壇上へと呼ばれる。何かあった時のために、ジョノミディスやザクスネロ、フィエルも横に待機しているが、基本的に彼らには出番はない予定だ。


 名前を呼ばれて、登壇して跪き一礼し、国王陛下の言葉があってから前に進んで、所定の位置で立ち止まり、体の向きを変える。


 たったそれだけのことを一週間も前から何度も練習してきた。陛下や上級貴族たちの前で失敗するわけにはいかない。失敗した時点で、私の人生は終わるだろう。


 私はハネシテゼと並んで、陛下の右手にほぼ横向きに立つ。私たちの立場では、陛下に背を向けて立つなど許されるはずもなく、だからといって、父を含む公爵家当主に尻を向けるのもありえない。


「国難とも言える昨今の不作続きの中、デォフナハが活路を見出した。数年前から取り組み実を結ぶことが確実であろうということを、我の要請により全貴族へ公開することになった。」


 国王陛下の言葉が終わって椅子に腰を下ろすと、ハネシテゼが半歩前に出る。


「デォフナハ男爵が長子、ハネシテゼでございます。陛下の御望みに従い、大地の実りの改善に向けて我が領で試みて実績のあった施策について諸卿にお伝えいたします。第一に魔物の退治をすることです。」


 ハネシテゼは実に堂々と話をしていくが、聞いている貴族当主たちの反応は悪い。当然といえば当然だろう。


 魔物を退治せよなんて言われたって、みんなちゃんとやっているつもりなのだ。だが、植物の魔物の話になると、場内は騒然とする。


「いくつかの領で、魔物を栽培、あるいは飼育していることが確認されました。そんなことをしている限り、絶対に豊かな実りは手に入りません。」


 そして、駆除すべき魔物として、いくつかの動植物の名前が挙げられていく。


「今挙げたものは、すぐにでも焼き払うべきです。」


 多くの貴族に動揺が走るが、先頭に立つブェレンザッハ公爵は厳しい顔のまま、揺るがずにハネシテゼを見ている。恐らくジョノミディスから事前に話は聞いているのだろう。


「そもそも、魔物とはそこにいるだけで土地を侵し、蝕む存在です。不作時でも多少の実りを手軽に得られるからと植えていたのでは、状況は悪くなる一方です。」


 ハネシテゼの言葉に心当たりがある者もいるのだろう、野次がどんどん増えていく。


「お静まりください。陛下の御前であることをお忘れですか?」


 私が声を張り上げると、場内はぴたりと静まるが視線は私に集中する。私の役割は、怒りを分散することだ。大人たちの怒りと不満がハネシテゼ一人に向いてしまっては、何も改善せず、争いが起きるだけだ。


「ティアリッテ・エーギノミーア嬢、其方はこの与太話を信じるのか?」

「はい、信じることで失うものは何もございませんので。エーギノミーアでは、私とフィエルナズサの責任範囲から始めていく予定です。」


 そもそもハネシテゼだって、その全部を一気にやったわけではないし、何年かかけて変えていくことを推奨している。


「とは言いましても、肝要なのは徹底的にやることです。中途半端な施策を領内全域で行うよりも、例えば一つの村から魔物を根絶させた方が効果は分かりやすいですし、無理もかかりません。」


 魔物ではないと分かりきっている作物だけを植え、その周辺の魔物を徹底的に狩り尽くせば収穫は確実に上がるとハネシテゼは繰り返す。


「次に、白狐や黄豹、あるいはそれに類する獣との敵対を止めることで、森の恵みが向上することが期待できます。」


 この話題は昨年末から何度も上がっているらしいが、国王陛下はここで終止符を打つつもりだ。今後、王宮騎士団を白狐退治に出さないことは既に決定したと聞く。


 だが、公爵はともかく、伯爵以下は想定外だったようで、先ほどよりも酷い野次や罵りの言葉が飛び出している。


「場合によっては」


 野次に負けんとハネシテゼは声を張り上げる。一瞬だけ静かになったタイミングで続きを口にした。


「少なくとも、黄豹は、人間の味方をすることがあります。」


 できるはずがない、という言葉が聞こえてくるが、それは本人も願望だと気づいているだろう。ハネシテゼがそれを知っていることが大問題なのだ。


 そして、その方法は公表するつもりがないというのはハネシテゼの口ぶりで分かる。態度を見れば分かる。そして……


「は、叛逆だ! 陛下、その小娘は叛逆を企てる危険分子でございますぞ!」


 唾を飛ばして叫んでいるのは、位置的に侯爵だろう。ウチの派閥ではないのだろう、知らない顔だ。それに同調して叫び始める者もいるが、そのお陰というべきか、動揺していた者たちが冷静さを取り戻しもしている。


 しかし、彼らは本当に何故ハネシテゼがここに立っているかが分からないのだろうか? それとも、私には想像がつかないだけで、ここで叫ぶことで利となることがあるのだろうか?


「その件に関しては、我々、公爵全員が同意していることだ。」


 よく通る低い声でブェレンザッハ公爵がキッパリと断言する。

 そんな話し合いがあったのは私も初耳だが、あの父があれだけ納得できないと言っていたのがひっくり返ることになっているのだから、何もなかったはずがないのは考えれば分かることだった。


 王族もその周辺を固める近衛兵たちも全く動じている様子はないのは誰の目にも明らかで、戸惑った様子で周囲の反応を窺っていた者たちは次第に鬱陶しそうに騒ぐ者たちを睨めつける。


「質問がございます。」

「何でしょうか?」

「白狐と黄豹が退治してはならない対象となったことは理解いたしました。しかし、類するもの、と言われましても我々には判断のしようがございません。」

「話を聞く限りでは、銀狼は類するものと思われます。確認できる道具を用意していますので、必要ならば後ほどお渡しいたします。」


 いくらハネシテゼでも話だけで判断することなどできない。自分で実際に見れば簡単に分かるというが、雪が解けきってもないのに、そんなに彼方此方にいくことはできない。


 そこで用意したのが、魔力をたっぷりと詰め込んだ芋だ。それを食べた獣は退治して構わないということだ。

 逆に、それを踏み潰すようならば攻撃するなということである。


「ただし、問題がひとつだけあります。魔力を多く含む食べ物には魔物が群がってきます。運搬時には気をつけるようにしてください。」


 その性質を利用して魔物を集めて一気に退治するということもできる。


 ハネシテゼの説明が終わると、壇の両翼が騒がしくなる。だが、国王陛下が立ち上がるとそれも静まり、小箱を持つ従者たちが進み出てくる。


「不作の原因を突き止め、収穫改善の法を編み出したハネシテゼ・デォフナハに小男爵の位を叙する。これよりツァールを名乗るが良い。」

「ご評価いただけたこと、大変嬉しく思います。」


 国王の前に進み出たハネシテゼが跪き、短剣を受け取る。

 六歳でありながら爵位を賜ったハネシテゼは堂々としたものだ。次に名を呼ばれる予定の私は、ガチガチに緊張しているというのに。

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