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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院1年生
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024 秘密でございます

 城での話が終わり私が寮に帰った時には、既に午後の演習が終わって夕食の準備が整っていた。


「随分と長かったな。一体、何の話だったのだ?」

「王子殿下の用件が済んだ後、お父様たちとのお話が長くなってしまいましたから。夕食後にあなたにも説明しますので、私の部屋に来てください。」


 明日には父や母から手紙はあるだろうが、フィエルに早めに話をしておいた方が良い。ただし、王子の用件も含めて、他の者たちがいる食堂で話す内容じゃない。


 ハネシテゼも王子とのことは口外するなと厳しく言われていたので「秘密なのです」と思わせぶりなことしか答えていない。


 それでも翌日の午後にはジョノミディスにはいくつかの情報が伝わっていた。流石にブェレンザッハの情報収集力は高い。


「ハネシテゼ、王宮の訓練場を焼き尽くそうとしたんだって? 一体、どうしてそんなことになったのだ?」

「それは秘密でございます。」


 そこで何の釈明もしないのがハネシテゼ流だ。何か良からぬことを企てているようにしか見えないのだが、そんなことはお構いなしだ。


 しかし、それにも意味があるのだと分かったのは数日経ってからだった。

 ジョノミディスやザクスネロとの関係は、思っていた以上に悪くならなかった。下手に誤魔化そうとするよりも、秘密だと言い切ってしまった方が彼らにとってもやり易かったようだ。


 五人で張り切って勉強に、訓練に臨めるのは良いことだ。

 春までに、父や母に仕事を任せてもらえるだけの力をつける。それが私とフィエルの共通の目標だ。


 ジョノミディスたちは親とどのような話をしているのかは分からないが、私たちに劣らず、真剣に取り組んでいる。



 そんな折、今度はミャオジーク先生に呼び出された。


「あなたたちは一体何を焦っているのですか? 公爵家ということを考慮しても、一年生に求められているレベルは超えていますよ。」


 私たち五人が部屋に通され、椅子に腰を下ろすと先生は早速本題を切り出してくる。

 だが、私たちは、いや私は学院の進度は全く関係がない。可能な限り先へと進み、より力を高めたいのだ。


「ハネシテゼ様に負けっぱなしのまま、努力もしないでいれば当主候補として失格です。父に認めてもらうためにも、全力で邁進する以外の道はありません。」

「ジョノミディス様の言うとおりです。ハネシテゼ様は例外だなどと私たちが言っていれば親に見限られます。」


 内心、ハッとしたが私も真剣な表情を崩しはしない。父が直接ハネシテゼやデォフナハ男爵と話をし、直接的にその力を見たことで、私とフィエルはハネシテゼよりも成績が低いことに関してはなにも言われなくなった。


 だが、ジョノミディスやザクスネロがどのように言われているのかは分からない。ただ、ハッキリしているのは、外向けの説明はそれで十分だということだ。


 ミャオジーク先生も「家の誇りにかけてこのまま引き下がるわけにいかない」と言われたら、それ以上どうこう言えるものでもない。


「あなたたち四人は分かりました。ですが、ハネシテゼ様はそれほど頑張らなくても良いのではありませんか?」

「私はいつも通り、普通にしているつもりなのですが……」


 全力で頑張るのが普通で当たり前だと言われたら、もはや返す言葉もない。


「学院ではお仕事も何もないですから暇なのです。勉強や訓練以外に何かすることがあれば良いのですけれど……」


 勉強や訓練以外に、お茶会を開いたり芸術を嗜んだりするものだと思う。ハネシテゼは聞いていないのだろうか?


 そういえば、私のお茶会にも来なかったし、他のお茶会でもハネシテゼを見かけたことはなかったが、まさか、どこにも参加していないのだろうか?


 恐る恐る聞いてみると、何のことかサッパリ分からない様子で首を傾げるだけだった。


「ハネシテゼ様、普通はお茶会くらい開催するものです。」

「そうなのですか? それはティアリッテが公爵家だからではありませんか? そのような話は聞いたことがないのですけれど……」


 ハネシテゼはそう言うが、男爵はお茶会に参加しないなんことはない。私が呼ばれたことはないが、私から呼べば男爵や子爵の子も来る。それに、下級同士でのお茶会はあるはずだ。


「お茶会はした方が良いのですか? どんなことが話題になるのでしょう?」


 そこで初めて気付いた。ハネシテゼにお茶会の主催者(ホスト)をこなすことは無理だ。恐らく、提供できる話題が一つもない。


 黄豹のことも、収穫改善のことも、第三王子とのことも、何もかもが口外を禁じられている。それでも私にはそれ以外の話題がいくつかあるが、ハネシテゼの出す話題はそこに行き着くだろう。


「……、難しいな。」


 ジョノミディスもハネシテゼの大凡の状況を理解している。少なくとも迂闊な発言をしないようにと固く命じられていることが分からないはずがない。


 先生も察したようで話題をお茶会から芸術へと切り替える。


「詩や楽器は貴族の嗜みですよ。学院の科目にはございませんが、曲の一つも演じられないようでは恥をかくことになります。日々の研鑽は大切ですよ。」

「竪琴なら弾けますが、それで足りますか?」


 ハネシテゼが当たり前のような顔をして言うのはいつものことだが、竪琴を弾けるというのは心の底から意外だった。どうみてもハネシテゼはお転婆令嬢だ。いや、黄豹と一緒に野山を駆けまわって魔物を狩ったりしていたとかいうし、お転婆とかいうレベルじゃないだろう。


 そんな彼女が城の中でおとなしく楽器の練習をしている姿など、全く想像できない。先生もそう思ったのか、席を立つと棚を開けて中から小さな竪琴を出してきた。


「一曲、演奏してみていただけますか?」


 言葉は質問の形式をしているが、これは命令だ。ハネシテゼは素直に渡された竪琴を受け取る。


 私もハネシテゼの演奏は聞いてみたい。興味津々の眼差しを向けていると、ハネシテゼは竪琴を構え、ぽろん、ぽろん、と音を確かめる。


 ハネシテゼが弾き始めた曲は聞いたことのないものだった。

 拍子は比較的早く、楽しげなメロディーがかき鳴らされる。曲はそれほど長いものではなく、聞き入っているとすぐに終わってしまった。


「これは何という曲なのですか?」

「それはですね、お、えっと、秘密でございます。」


 またそれか。曲名を何故秘密にしなければならないのか全く理解できない。


「他に弾ける曲はあるのですか?」

「ええ、もちろんです!」

「ハネシテゼ様、名前を秘密にしなくて良い曲はございますか?」


 笑顔で頷いたハネシテゼだったのだが、そのまま固まってしまった。


「フィエル、そのような意地悪を言うものではありません。」

「意地悪のつもりで言ったわけではない。」


 ダメだ。このままでは泥沼である。ハネシテゼは何をやっても、人と関わると禁止事項に触れてしまうらしい。


 部屋でおとなしく勉強に勤しんでいるというのは間違っていないのかもしれない。来年には情報もある程度は解禁されているだろうが今年は無理だ。


 父も春までには結論を出すと言っていたし、今頃、あちこちの説得や調整に第三王子が奔走しているはずだ。


 ハネシテゼとの差が一向に縮まらないが、それは仕方がない。私たちが勝手なことをすれば、最悪の場合には殺し合いが始まってしまう。


 そう簡単に割り切れるものではないが、私やジョノミディスの立場が二の次になってしまうのは仕方がないだろう。

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