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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院4年生
197/593

197 まずは一勝

手早く作戦の打ち合わせを済ませ、私たちは三方向に分かれる。吹雪は相も変わらず辺りを白い闇で覆い尽くしている。


私たちが動き始めても、敵に変わった様子はない。どうやらこの吹雪は私たちに味方しているようだ。私たちには気配で敵の位置や動きは分かるが、向こうにはそれができない。視覚も聴覚も役に立たない真っ白の世界ではこれは大きな差だ。


だがその一方で、深く積もった雪の中を進むのはとても大変だ。風の魔法である程度は雪を吹き飛ばしながら進むが、派手にやり過ぎれば当然見つかってしまうだろう。


なんとか予定していた位置まで進むと、軽くパンを囓り、馬にも豆を与えてやる。体力の回復はこまめに心掛けなければ、肝心なときに動けなくなってしまう。


「そろそろ良いでしょう。騒ぎも起きていないですし、他の班も見つかっていないはずです。」


指示を出すと、騎士たちは休憩を終えて戦闘の準備へと入っていく。餌の桶を片付け、雪を払って全員が騎乗したら突撃の号令をかける。


ただし、私たちの突撃は大声で叫びながら向かう。


「いたぞ! ウンガス軍だ!」

「バランキル王宮の騎士の力を示せ!」


騒ぎながら近づいていけば、相手は大慌てで魔法を撃ってくる。


畑の隅に陣取っているバランキルの騎士などいるはずがないが、それでも念のための確認だ。バランキルの者であれば、慌てはしても攻撃はしてこないはずだ。


こちらの数も位置も分からずに敵は牽制の攻撃を続けるが、私たちはそこに飛び込んでいくつもりなど毛頭ない。爆炎を放ちながら少しずつ進んでいくだけだ。


そうして敵の意識を引きつけている間に、敵の背後に回り込んだ二隊が攻撃を開始する。


こちら側からは爆炎と吹雪に隠れて全く見えないが、敵が慌ただしい動きをしているのは分かる。並ぶ爆炎もみるみるうちに少なくなっていく。


魔力の気配も反撃もなくなったら、攻撃開始前にザクスネロが予め魔力を撒いておいた場所に集合する。誰か一人待っていてもらうという案もあったのだが、さすがに一人で集合場所の目印になるのは危険すぎる。



全員が揃ったら、北へと向かっていく。方位器がなければどちらが北なのか全く分からないが、この器具はどういうわけか吹雪の中でも常に北を示してくれる。


雪を吹き飛ばしながら進んでいれば、川に行き当たる。領都周辺の地形は知っているのでそんなことは想定通りなのだが、問題は橋が見当たらないことだ。


「橋がなくなってしまっていることはないと思うのですが……」

「あちらに何か見えます。橋ではないでしょうか。」


左右のどちらが正解かと首を傾げていると、騎士が右側を指して言う。言われるとそんなような気がしなくもないが、はっきりとは見えない。


考えていても仕方がないので行ってみると、本当に橋が見えてきた。橋の上は凍りつき滑りやすく、一列になって中央を進んでいく。


私は安易に火の魔法で解かして進めばと思ったが、橋を壊してしまう危険性があると言われて厳に禁止されてしまった。


橋を越えれば領都の南門に着くまでそう時間はかからない。吹雪の中の誰何はやり取りが大変だが、やっと門が開けられて私たちは領都の中に入ることができた。


「お手数おかけして申し訳ございません。」

「謝る必要はありませんよ。敵を通してしまっては一大事ですからね、しっかりと確認するのはとても大切なことです。」


吹雪のなかで平民に待たされたことに憤慨する者もいるが、門を守る兵たちは必要な仕事をしただけだ。予め敵が来るかもしれぬと伝えているのに簡単に門を開けるはずがない。


「ティアリッテ様? ウンガス軍はどうしたのですか? こちらに向かうかもしれぬと報告があったが。」


敵襲に備え、待機していたのだろう。イグスエンの騎士は驚いた表情で質問を並べる。


「先程、畑の南端でいくつかは倒してきましたけれど、まだ残っているかは分かりません。」

「この吹雪ですから、探しても見つからないでしょう。」


ここの騎士もやはりこの雪では敵も動けないと言うが、それでもやはり警戒はするべきだ。吹雪で見通しが効かないからこそ、それに乗じて近づいてくることは考えられる。


気を張って外を見張っていてもどうせ何も見えないというのは理解できるが、とにかく油断してはいけない。それだけ騎士に伝えると私たちは領主城へと向かう。


城門でやはり長々とやり取りがあり、城の中に通されたときにはすっかり体が冷えて疲れてしまっていた。



「一体、どうしたというのだ? 其方(そなた)が突然来るなど……、ブェレンザッハで何かあったか?」


そう言いながら会議室に入ってきたのは第二王子だった。その顔を目にして、私は血の気が引いていく。


第二王子(ストリニウス)殿下? いけません! すぐに出なければ!」

「落ち着け、エーギノミーアの。もう日が暮れる、今から出るなど自殺行為だ。一体何があった? モレミア侯が一緒というのはどういうことだ? 状況が分からぬ、説明せよ。」


私が慌てて立ち上がるが、第二王子に押し留められる。


「端的に申し上げますと、敵はこの冬に攻撃してくる可能性が高いです。」

「先日もそのような報告があったな。この雪の中、どうするつもりだと言うのだ? 何か根拠でもあるのか?」

「実際、この領都のすぐ側まで敵の一団が来ていました。見つけたものは倒してきましたが、こちらに向かった数と合いません。領都周辺に少なくとも百以上のウンガスの騎士がいます。」


この吹雪では身動きが取れなくても、雪や風が落ち着けば再び動きだすだろう。そしてそれは西のミュレキ街道でも同じだ。


「ウンガスは、雪の山を越えてきているのです。雪が深ければ動かないなんて考えは捨てるべきです。」

「しかし、そうは言うが、この雪の中は本当に辛いぞ。」

「ええ、ここに来るまでに私も身をもって知りました。」


食糧を奪うために町を襲う可能性や、国王も危険だと判断したことを伝えると、第二王子も表情を変える。


「ブェレンザッハの方はどうなっている?」

「戦況は詳しくは存じませんが、ハネシテゼ様と第四王子(セプクギオ)殿下が向かいました。」

「セプクギオを引っ張り出しただと⁉︎」


その可能性は考えたこともなかったのか、第二王子は頭を抱えて声を大きくする。

しかし、今考えるべきは第四王子やブェレンザッハのことではない。イグスエンをどう守り、ウンガスの騎士をどう撃退するかが問題なのだ。


王子やイグスエン侯爵の持つ限りの情報を出してもらい、私もここまでに得た情報を全て隠さずに出す。その上で敵を排除する作戦を立てるのだ。


「領都周辺に来ている敵は残り四、五百か。面倒だな。」


私の説明に、王子が難しい顔で呟く。大雑把ではあるが、確認した敵の数はそのくらいになる。


「殿下は構わずに西に向かってください。領都周辺の敵は私たちでなんとかします。」

「できるのか?」

「北へ抜けられなければ良いのです。明日にはさらに三百の騎士が東から戻ってきますから。」


そちらと挟撃できればかなり有利に戦えるはずだ。私たちだけで撃破できればそれに越したことはないが、侯爵たちの隊が戻れば敵の虚を突ける可能性が高い。


「それよりも、ミュレキ街道を北西部にまで進まれてしまう方が大問題です。後から追いかけても手遅れになってしまう可能性が高いですから。」

「たしかにそうだな。町を見捨てるわけにはいかぬ。こちらは任せるぞ。」


第二王子が出撃に納得したら、すぐに出発の準備をするようにと指示が出る。おそらく彼らも領都に戻って間もないのだろう。再び出撃することに戸惑いがあるようだが、第二王子の命令に真っ向から反対する者はない。



私たちも、一晩休んだら翌朝は薄暗い時間から動き始める。といっても、かなり日が短くなっているので、寝る時間は十分にあった。


日の出とともに北門を開けてもらい、町の外に出る。


雪は止んではいないが、かなり小降りになっているし、風もほとんどない。遠くの山は雪に霞んでほとんど見えないが、防風林までは見通すことができる。


西側は第二王子たちが行くので、私たちは北から東側にかけて敵を探していくことになる。

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