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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院4年生
188/593

188 新学期が始まる前から大忙し

第四章、開始です。

ここまで読んでブクマもしてないとかないですよね? よね? よねーーーーーー!!?

 冷たい風が落ち葉を吹き散らす中、私の乗った馬車は王都にある(やしき)の門を潜る。領地にある城とは違い、王都の邸には庭らしき庭はない。門を入ればそこはもう玄関前である。


 停められた馬車を下りると、冷たい風が体温を奪い去ろうとばかりに外套の襟や裾から入り込んでくるが、玄関はすぐそこだ。白い息を吐きながら急いで中に入ると、エントランスは十分に温められていた。


「お待ちしておりました、デュハリオ様。」


 使用人たちが並んで出迎えるのは、基本的にエーギノミーア家当主である父だ。父と一緒にいる場合に母や兄ですら同列に呼ばれることはないし、未成年である私は尚更である。


 もちろん、それは父に対する礼儀としてのものであり、決して私たちが使用人たちに(ないがし)ろにされているわけではない。私の部屋も予め暖炉に火が入れられて温められているし、お茶室にはお茶とお菓子が私の分も用意されている。


 私室で旅装を解き軽く湯浴みをして汚れを落としたら、お茶室で一息つきながら、使用人たちに今後の説明をする手はずだ。


 側仕えに手伝ってもらいながら着替えを済ませ、お茶室に行くとまだ父も母も来ていなかった。先に来て座っていたのは、双子の弟、フィエルナズサ一人だけだ。


「お父様やお母様はまだなのですか?」

「まだお見えでないな。じきに来るだろう。」


 そう言いながらフィエルは茶菓子に手を伸ばす。私が席に着くと給仕がカップに茶を注ぎテーブルの上に置く。湯気の上がるカップを口に運び、一口含むと、いつもと味が違った。


「おや、お茶の種類を変えたのですか?」

「申し訳ございません、今年は色々なものが入手しづらくなっておりまして……」


 そう言って給仕は頭を下げるが、別に謝る必要はない。単に今までと変わったのが気になっただけだ。


 国の西側が隣国と交戦状態にある社会情勢を考えれば、今までと同じように手に入れられなくても仕方がないだろう。物流が滞っているどころか、下手をしたら、生産そのものが止まっている可能性だってあるのだ。


 バランキル王国の東側に位置するエーギノミーア領は、戦争の直接的な影響は少なく、領地での生活は忙しくなったという程度で、内容そのものは大きく変わっていなかった。やはり王都に来れば、影響は大きくなるのだろうか。急に学院の生活が心配になってくる。



「お待たせしました、ティアリッテ、フィエルナズサ。」


 私たちがお茶菓子を摘まみながら待っていると、(キャデリウーシェ)がやってくる。


「お父様は何かあったのですか?」

「思っていた以上に手紙が溜まっているそうです。急ぐものがないか確認してからになりますので、先に始めましょう。」


 別に父がいなくても、大まかな予定は家族全員、頭に入っている。使用人たちに説明する分には私にでもできることだ。


「今年は予定が詰まっています。まず直近では、明日、午前中にデォフナハが来ますので昼食の用意をお願いします。明後日は私たち四人とも登城しますので準備をしておいてください。」


 本来なら未成年である私やフィエルナズサが王宮に行くものではない。だが、今回の戦争は私たちにとっても、人ごとではないのだ。確認したいことが山のようにある。


 さらに学院の試験は明々後日に設定し、それから一週間後の新学期開始までのどこか、といっても三日しかないが、ウジメドゥア公爵に面会の予約をお願いする。借りていた騎士の返却の話をしなければならないし、場合によってはその場で返すことになる。つまり、それまでに騎士二人を、私たち付きから客人へと扱いを変更しなければならない。


 私ほど急ぐわけではないが、母も早めに会食を開きたい相手をいくつか挙げ、予定を伺うようにと伝える。


「本当に予定が立て込んでいらっしゃいますね。」

「ええ、大変でしょうけれど、どれも大切な案件ですのでよろしくお願いしますね。」


 母は笑顔でそう言うが、父に来ている手紙次第ではさらに増えることになるだろう。学院の新学期が迫っている私やフィエルは予定が大幅に変えられることはないが、父や母はまだどうなるか分からない。


 そんな話をしていると、父もお茶室へとやってくる。


「遅れて済まない。やはり急ぎの話はいくつか来ているな。」

「登城の予定は変わりませんよね?」

「ああ。明日と明後日の予定は変わらぬ。王宮からも早めに来てくれと来ているのだからこれは優先だ。だが、その前の明日のデォフナハとの話は絶対に必要だ。」


 まずはデォフナハと話を合わせておかなければ、王宮の話が非常に面倒なことになりかねないということだ。ファーマリンキ公爵やデュオナール公爵からも早急な面会を求めてきているらしいが、これは王族からの求めより優先されることはない。


「デュオナールとは珍しいですね。同じ公爵とはいえ、うち(エーギノミーア)とはほとんど関わりがないでしょう。王宮でお会いした時に話すのではいけないのかしら?」


 母が首を傾げるが、父は眉を寄せて「どうせ面倒な言い掛かりを付けてくるに決まっている」と投げやりに言う。


「それよりも、二人にはこちらの方が重要だ。学院から新学期開始を遅らせると来ている。」


 父は書簡の一つをテーブルに広げて見せる。それには、諸般の事情により新学期開始が一四月の三日になったと書かれている。そして、その後ろにはエーギノミーアのティアリッテとフィエルナズサは一日から来るようにと書かれていた。


「一日から行く必要があるならば、例年と変わらないではありませんか。」

「こんなものが来るということは、私たちだけが特別だと思った方がよさそうだな。」


 学院に行ってからの行事予定が違うならば、寮に入ってから説明したので構わないはずだ。後半の文章が付いているのは私たちだけで、他の者は十四月二日までに寮に入れば良いということだろう。


 今度は一体何を要求されるのだろうか。私たちの予定は変わらないためにこれを断ることができないのが非常に面倒なところだ。新学期が始まる前からトラブルの予感しかしない。


 他にも派閥の内外の貴族から面会の希望がやってきているが、取り敢えず急ぎの案件は登城したときに予定を決めるということで、まず明後日に向けての準備をしていく。ただし、全てを王宮で済ませることができるわけでもないだろうと、来客がしばらく続く前提で使用人たちは準備を進めることになる。



 今季最初ということで正装を纏う予定であるし、私たちも王宮での礼儀作法について復習しておいた方が良いだろう。まだ未成年とはいえ、学年が上がれば今までより厳しくみられるようになっていくはずだ。


 父の承認と決定を受けて、使用人たちは慌ただしく動き始める。

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