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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院3年生
187/593

187 久しぶりの故郷

 王宮への報告が終わっても、エーギノミーアに帰るのはまだもう少し先だ。

 数日後に出るはずのエーギノミーアやデォフナハに向かう隊商と一緒に行くことになる。一緒でなければ船に乗れないし、陸路で行けば無駄に時間がかかる。


 貴族用の馬車ではなく荷馬車で行くことになるが、そこはもう我慢するしかない。私たちのために、船に乗せる馬車の数を減らす方が問題だ。それはつまり、次の王都へ食料を運ぶ馬車が一つ減るということである。


 それまでは、エーギノミーアから提供された食料の一覧の書類に目を通し、何がどれだけ出されたのかを確認したり、久しぶりに舞踊の稽古をしたり、馬車の荷卸しの確認をしたりして過ごす。


 そして、王都に着いてから五日目に出発してエーギノミーアへと向かう。ほとんど空の馬車に、私とフィエルの少しばかりの旅の荷物を積み、馬車は出発した。


 この隊商はデォフナハ行きと合同のため、自動的にハネシテゼも一緒に行くことになる。荷馬車の中で揺られていても、只々暇なため、私たちは馬車の屋根によじ登ってのんびりと日向ぼっこしながら進んでいく。



 馬車と船に揺られて六日でエーギノミーアの領都に着く。

 両側に畑を見ながら街道を進むだけでも懐かしいものがこみ上げてくる。


 町に入ると、馬車は揃って城へと向かう。収穫した作物は城に集められているということで、町に停めていても何もできない。


 開けっ放しの城門を入ると、城の前庭は昨年と同様に野菜で溢れていた。フィエルと二人で思わず笑ってしまうが、兄たちにとっては笑いごとではないだろう。


「本当に野菜が溢れているのですね……」


 あちらこちらに山になっている野菜を見て、ハネシテゼも苦笑いである。その一方で、信じられないとばかりに目と口が塞がらないのが三人の騎士たちである。


「ティアリッテ、フィエルナズサ! 帰ってきたのか!」


 停まった馬車から私たちの荷物を下ろしていると、次兄(ウォルハルト)が声を上げてやってくる。


「事前に連絡もできずに申し訳ありません。」

「大変遅くなりましたが、ただいま戻りました。それで彼らなのですが……」


 ハネシテゼは見れば分かるだろうし、帰り道の途中で立ち寄ったということも想像が付くだろう。問題は三人の騎士だ。


「兄上、こちらの二人はウジメドゥア公爵からお預かりした騎士にございます。」

「ウジメドゥア……? 待て、フィエルナズサ。経緯がさっぱり見えぬぞ。」

「今、この場を離れることは可能ですか? 父上にも報告と相談が必要なのですが。」


 フィエルの質問に、ウォルハルトは周囲を見回して「無理だ」と呟くように言う。前庭で作業する者たちは忙しなく動き回っているのに、作業監督を離れるわけにはいかないだろう。


 案内の使用人をつける余裕もないその状況に騎士たちは目を白黒させているが、もし彼らがここに残ることになるなら早めに慣れてもらわなければならない。


 城のエントランスに入り、扉が閉められると外の喧騒が急に遠ざかる。


「ティアリッテとフィエルナズサが戻りましたことを、各部屋へお伝え頂けますか?」


 エントランスのすぐ横にある使用人の待機室に声を掛けると、「お帰りなさいませ!」と全員揃って出てくる。


「ティアリッテ様とフィエルナズ様のお部屋、それに領主(デュハリオ)様、厨房にも伝えなければなりませんね。」

「それに客室四つを頼む。私たちはすぐにデュハリオ様に挨拶に向かう。執務室においでか?」


 やたらと張り切って動きだす使用人たちだが、私たちはまず父に報告にいくのが最優先だ。担いでいた荷物を使用人に渡し、父の執務室へ向かう。



「デュハリオ様、ただいま戻りました。」


 開けられた扉の前で跪き、簡単な挨拶を述べる。


「よくぞ無事で戻った、ティアリッテ、フィエルナズサ。随分と遅かったではないか。心配したぞ。」

「色々と事情がありまして、なかなか想定通りにいかないものです。連絡も取れないなか心配おかけいたしましたこと申し訳ございません。」

「まあ良い、入れ。」


 そう言われても私たちだけで入室するわけにはいかない。横に避けると、ハネシテゼが半歩ほど前に進み、挨拶の口上を述べる。


「お久しゅうございます、エーギノミーア公爵閣下。」

「デォフナハか、挨拶は良い。その後ろの三人は何だ?」

「ウジメドゥア公爵およびビアジア伯爵からお借りした騎士にございます。」


 簡単に説明するが、父は困惑に首を傾げる。たったそれだけの言葉で父が納得するとは私も思っていない。


 とりあえず全員で執務室に入り、大ざっぱな報告をする。




「……想定外にも程があるぞ。もう少し何とかならなかったのか?」

「無理を言わないでくださいませ。これでも最大限頑張ったのでございます。」


 何とかと言われても、何をどうすれば良かったのか、今になって振り返ってみても分からない。情報が足りないなかで判断を繰り返せば、どこかで無理が出てくるのは諦めざるを得ないと思う。


「いくら人手が足りないからといって、ウジメドゥアとは……。随分と思い切った手段を取ってくれたな。私が断ったらどうするつもりなのだ?」

「デォフナハでお預かりいたしますのでご憂慮には及びません。」

「憂いしかないわ! デォフナハにできることがエーギノミーアにできなくてどうする!」


 ここで一番問題になるのは体面の話らしい。派閥の異なるウジメドゥア公爵配下の騎士を受け入れるのは面倒なことも多いのだが、デォフナハに任せると面倒が増えるのだという。


 どうしてそういうことになるのかはよく分からないが、ウジメドゥアの騎士二人は秋までエーギノミーアに滞在するという方向で決まった。尚、ビアジアの騎士は、デォフナハに行くことになっている。隣領とはいえ、一人で帰るというのは、それはそれで問題しかない。



 翌日、私たちは東へと出発する。ハネシテゼは当然デォフナハへの帰り道だが、私とフィエルも境界付近まで送っていくことになったのだ。当然、それだけのために私たち二人に騎士までつけたりはしない。ついでに東方の魔物を一掃してくることを命じられている。


 とはいえども、道のりは比較的穏やかだ。魔物退治は兄姉だけではなく領主一族の総力を挙げて頑張っているらしく、街道沿いで魔物を見かけることはほぼなくなっている。


「本当に近くに魔物の気配が無いですね。」


 ハネシテゼも感心したように言うほどだ。魔物が減った代わりに、野の獣が増えているようで、野原には草を食む獣があちらこちらに見える。


 夜は小領主(バェル)邸に泊まりながら東へ向かい、数日後にはハネシテゼとも別れる。商人の馬車と一緒に山を越える道に向かうハネシテゼを見送ったら、私たちも仕事の本番だ。


 報告のあった魔物を退治し、ついでに道を歩いていて気配を見つけたら退治していくが、東側はとくに大きな魔物も出ないようだ。数日、魔物退治を繰り返して街道の東端に達しようかというころ、私は驚くべき光景を目にした。


 陸地が途切れ、その向こうずっとどこまでも見渡す限りに水面が続いているのだ。


 話には聞いている。だから、私はこれが何なのかを知っている。


「……あれが、海か。」


 フィエルも驚きに目を見張り、そう呟く。それ以上に驚きの表情を見せているのがウジメドゥアから来た騎士二人だ。はるか西のウジメドゥア領には海なんてものはないし、話に聞くこともほとんどないらしい。海という単語は知って、国の東にあるということは知っていたものの、それがここにあることに結びついていなかったようだ。


「そういえば、冬になると海から魔物が押し寄せてくるとハネシテゼ様が言っていたな。エーギノミーアでも来るものなのか?」

「はい、お二人が王都にいらっしゃる間に退治が行われています。」


 冬の魔物退治がどのように行われているのか、全く知識がない。エーギノミーア領の中でも、まだまだ知らないことは多くあるということだろう。


 まだ三年生なのだからとはいっても、学生生活も半分を過ぎようとしている。入学したての頃から考えると成長しているという実感はあるものの、まだまだ不足しているという気持ちの方が強い。こうして領内を巡って魔物を退治したり、小領主(バェル)の話をきくというのも大事なことなのだろうと思う。


 父が指示をしたのだろう、地方の町の畑も実りが明らかに良くなっているし、町の中はあちこち野菜が山となっているのが見かけられる。小領主(バェル)の騎士たちも必死に乾燥処理をしていて、どの町も活気に溢れている。



こちら(エーギノミーア)にいると、イグスエンの半分が廃墟になっているのは、まるで嘘のように思えます……」


 領都に帰り、父や兄に報告する際にフィエルがぽつりと呟いた。あちらは決着がついたのだろうか。父に確認してみるが、まだ何も連絡は来ていないということだ。


「そもそも、其方(そなた)らの予想でも長引く可能性が高いのではなかったか?」

「それはそうなのですが、やはり少ない犠牲で終わってほしいではありませんか。」


 戦いのことを考え、どうしても不安になることがある。あの惨状がエーギノミーアまでやってきたらと思うと恐ろしくて仕方がない。


「ティアリッテ、フィエルナズサ。引き上げてきた以上、戦いは殿下やブェレンザッハ公に任せるしかないだろう。我々は彼らが最善を尽くせるよう、後方からの支援を務めれば良い。」


 長兄(ラインザック)が諭すように言うが、そんな簡単に割り切れないから自分でも困っているのだ。


「其方らは仕事を十分に果たした。いや、想定していた数倍の功績を上げている。正直、やり過ぎなくらいだ。ファーマリンキの対応を考えると頭が痛いわ。だが、いや、だからこそ、殿下やブェレンザッハ公がそれに劣る仕事をするはずがない。」


 第二王子やブェレンザッハ公爵が嫌でも奮起せざるをえない成果を上げたのだから、まずそこを誇れと父は言う。確かに私は自分のことしか考えていなかった。


 私が心配したから勝てるなどということはない。仕事と勉強に邁進していこうと気持ちを新たにした。

第三章はこれで終わりです。

次回より、第四章 四年生開始!!


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― 新着の感想 ―
[一言] 取り敢えず王城に侵入もしくはその近くで城吹き飛ばせば簡単に戦争は終わるけどね
2021/03/08 23:32 退会済み
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