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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院3年生
185/593

185 なんだか懐かしい王宮

 王都に着くとまずは私邸へと向かう。これまでの道中は着替える服も無いのでそのまま領主城へと向かっていたが、王都邸には服くらい置いてある。着替えもせずにそのまま王宮へと向かうのは、いくらなんでもありえないだろう。


 騎士に先触れとして明日登城すると王宮に伝えに行ってもらいはするが、今日のところはそこまでだ。


 明日という話も急だが、問題があるならば逆に日時を指定されるだろう。


「ただいま戻りました。」

「ティアリッテ様、フィエルナズサ様。よくぞご無事に戻られました。」


 門衛に顔を見せると、涙を流さんばかりに喜ばれる。随分と心配をかけてしまっているようだが、だからこそ早く使用人たちにも無事を知らせるべきだろう。


 だが、その前にすることもある。


「この馬は陛下から預かっているものです。返す前によく労ってあげねばなりません。」


 厩舎の前まで馬を連れていき、桶一杯に飼葉を詰めて出してやり、使用人や騎士に手伝ってもらいながら荷物を下ろし、馬具を外す。

 ブラシもかけてやろうかと思ったのだが、食事の邪魔になるから後にした方が良いと言われて、あとは使用人に任せる。


 そうしていた間に(やしき)の中にも私たちの帰還が伝わっていたようで、玄関を入ると勢揃いした使用人たちに迎えられた。


「ごめんなさい、トールボズゥ。長旅で疲れているの。お茶と湯浴みの用意をしていただけますか? それと彼はウジメドゥア公爵よりお借りした騎士です。もう一人いるのですが、城に面会の予約に行ってもらっています。」


 執事以下、使用人たちに騎士を紹介する。彼らの本来の所属はウジメドゥア公爵であるが、客人としてもてなすのではなく、できるだけエーギノミーアの騎士と同列に扱うようにと言っておく。


 湯浴みを終えたら、お茶室で情報交換と今後についての話だ。


 城に行っていた騎士も戻ってきていて、面会は明日の午後でと言うことになったらしい。客室に案内して今日はゆっくり休んでもらうように伝える。


 使用人たちにする話は今までと同じ、そして、ここにきてようやく王都側の動きを聞くことができた。


 各地から集められた馬車がエーギノミーアやデォフナハと王都を何度も往復して食料を運び、そして数日前も何十台も連なって西へと旅立っていったらしい。


「数日前ですか? 私たちは馬車とすれ違っていませんよね?」

「別の道なのだろう。私たちだって行くときは南回りだったではないか。」


 私たちはジョノミディスがブェレンザッハに帰る都合上、北回りで王都に戻ってきたが、イグスエンに行くならばどちらを通っても大した時間の差はないはずだ。だが、ブェレンザッハに向かわなくても良いのだろうか。


「ブェレンザッハにもウンガスからの進軍があったことはこちらにも伝わっていますか?」

「申し訳ございません、私たちまでは詳しい情報が伝わっていません。デュハリオ様どころか領主一族の方が誰もいなくては中々情報収集も難しいのです。」


 それは仕方がないだろう。余程のことがなければ彼らだけで登城することはできない。馬車の到着やその内容は城門で書簡を渡して終わりのはずだ。




 エーギノミーアやデォフナハからの食料供出はかなりの量があり、特に先日からは新しく穫れた野菜が続々と送られてきているらしい。


 兄たちが頑張っているらしいことが聞けて少し安心するが、平民が酷使されていないか少し心配になる。



「注意してほしいことが一つだけございます。」


 エーギノミーアの話を聞けてほっとしていたところで、急に真面目な顔をしてトールボズゥが言う。


「ファーマリンキの動きには気を付けてください。」


 そう言われても、意味がよく分からない。ファーマリンキは同じ派閥だし敵対関係にないはずだ。一体何に気を付ければ良いのだろう。


 フィエルと目配せしてみるが、やはり彼も理解できていないようで困ったように首を傾げる。


「ティアリッテ様とフィエルナズサ様はブェレンザッハや王子殿下に近づきすぎでございます。さらに、出し抜くような形で王族に貢献を示せば、ファーマリンキとしては面白くないでしょう。」


 一体何のことかよく分からなかったが、私たちがイグスエンに行き、さらにエーギノミーアとデォフナハで大量の食糧供出を行えば、公爵の中でも際立った貢献を示していることになる。


 しかも、私たちが多くの敵を撃退したとなれば、その貢献度は計り知れないものになる。


 その一方で、ファーマリンキも馬車と騎士を出してはいるが、出遅れている上に他の公爵どころか侯爵ともほとんど差がないらしい。


 要するに、上位であるはずのファーマリンキの立場がないのだ。北方貴族はそもそも派閥が別で、初めから対立関係にあるので今更であるが、ファーマリンキとしては面白いはずがない。


「そんなことを言うなら今からでも騎士や食料を送れば良いじゃないですか。」


 隣国がバランキル王国を滅ぼすと息巻いて攻めてきているのに、実に情けないことである。


「今は、そんな下らないことを言っている場合だとは思えません。」

「そう気にすることでもないのではないか? ファーマリンキはしばらく様子見だろう。私たちが下手なことを言わなければそれで良い。」


 私が大きく息を吐くが、フィエルは楽観的なことを言う。エーギノミーアとデォフナハが本気で派閥を離れてブェレンザッハ側につくことになったら、一番困るのはファーマリンキのはずだというのがその根拠だが、確かにそれはそれで理屈である。



 その日は夕食後ゆっくり休み、翌日は昼から城へと向かう。案内されるいつもの会議室がなんだか懐かしい。最後に来てから季節一つしか経っていないのに、ひどく昔に感じられた。


「よく戻った。首尾はどうだ?」


 私たちが入室すると、挨拶もせずに王太子が質問してくる。どう対応して良いのか分からなくなるので、せめて最初の挨拶くらいは型どおりに行わせてほしい。すぐ隣には国王も同席しているし、下手な動きはできない。


 少なくとも、そのまま勝手にソファに座ってしまうのは良くないだろう。


「第一陣は撃滅しました。現在は第二王子殿下らが第二陣と交戦しているかと思います。」


 とりあえず、立ったままでハネシテゼが答える。さすがのハネシテゼも無断で着席するのは避けたようだ。


「ああ、座れ。」


 私たちが対応に苦慮しているのに気付き、王太子が手でソファを示す。


「その前に、お預かりしていたものをお返ししたいと思います。」


 小さな木箱をテーブルに置き、蓋を開けて内容物を示す。ここで出すのはジョノミディスの分を含めて、徽章(きしょう)が四つである。短剣は私たちが直接持ち込むわけにはいかないので近衛に預けてある。四人が進み出て、四本の短剣を半ばまで抜いて見せる。


「うむ。間違いないな。」

「馬は騎士に預けてあります。」

「確かに四頭の返却があったと報告を受けています。」

「ご苦労である。」


 近衛の言葉に国王が頷き貸与物の返却が完了する。


「それで何を報告したら良いでしょう? 陛下や殿下はどこまでの話を聞いていらしゃるのでしょうか?」

「いや、その情報の信頼性の確認のためにも、全て聞きたい。重複しても構わぬ、其方(そなた)らは自分の見たこと、したことをそのまま報告してくれ。」


 既に受けている報告を繰り返してもしかたがないだろうと思ったのだが、そうでもないようで、私たちが見知ったことことを一つひとつ説明していくことになった。


「どの程度、細かい所まで報告すれば良いのか分かりませんので、何かありましたら都度ご指摘ください。」


 そう前置きを付けて、ハネシテゼはイグスエン領に着いてからのことを一つひとつ説明していく。


 最初に質問が挙がったのは国王からだった。


「その滅ぼされた町とは一体どのような状態なのだ?」

「民も小領主(バェル)も全て殺され、町が破壊されていました。わたしも思い出したくもないほどの惨状でございます。」

「町を破壊だと? そんなことをして一体どうするのだ?」


 王太子も全く理解できぬとばかりに質問してくるが、そんなことは私たちも聞きたいくらいだ。


「捕らえたウンガス貴族が何と言っていたかお話ししてもよろしいでしょうか? 恐ろしく無礼で不愉快な言葉を並べていたのですが……」


 そのまま報告することをハネシテゼが躊躇うようなことだ。王太子も少し躊躇った様子を見せ、決意したように「話せ」と絞り出すように言った。


 そして、その結果は予想通りだった。


「ふざけるな! ウンガスの王族はどれほど思い上がっているのだ!」


 王太子は怒りを剥き出しに声を荒らげ、国王もその表情は非常に険しい。私たちにその怒りを向けるのだけは止めてほしい。


 周囲に目を向けてみると、近衛や文官たちも呆れたり怒りの色を見せたりと色々だ。誰一人として平常を保っている者はいなかった。

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