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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院3年生
184/593

184 増える道連れ

 一日の船旅の後は、街道を少し行けば伯爵領の領都である。街門でも城門でも名乗ると驚かれはしたが、特に追及もなく通してくれた。


 ここは王宮騎士団が通ってきていることもあるのだろう。ブェレンザッハから王都へ向かう途中だと伝えると、すぐに席が設けられることになった。


「状況はどうなっているのですか?」


 ビアジア伯爵はイグスエンで会っているため、伯爵側で出てきたのは次期当主のゼスアイチネだ。当主が騎士を連れて出ていっているのだから、気にならないはずもないだろう。


「ブェレンザッハの方はわたしたちにもあまり情報が入ってきていません。逆に言えば、前線から領都への連絡や相談が必要になることは起きていない、つまり、想定の範囲内でことが進んでいるのだと思われます。」

「なるほど。それでイグスエンの方はどうなのだ? 当初の予定では父上はそちらに向かっているはずなのですが。」

「はい、ビアジア伯爵閣下には先日お会いいたしました。」


 イグスエンに攻め込んできたウンガス軍は、総計で数万にもなるが、その半数は既に撃滅している。残り半数、つまり今回の第二陣はイグスエンの南方で砦を築こうとしていて、バランキル側はこれを崩す戦いとなるはずだ。


 搔い摘んで説明すると、ゼスアイチネは物憂げな表情で小さく嘆息する。


 あまり楽観的に考えられても問題だが、悲観的になりすぎないように気を付けて話しているつもりだ。それでも、戦地に身内を送り出している者としてはこのような反応になるのだろうか。


「王宮からの騎士団は、ウンガスの半分にもならないのではありませんか? それで心配するなと言う方が無理でございます。」

「そのようなことでしたら心配いりませんよ。勝つために必要なことは伝えてあります。少々時間はかかるかも知れませんが、いずれ朗報がやってきます。」


 ハネシテゼは私たち四人と平民だけでも数百の敵騎士を撃滅できたのだと言えば作戦の重要さが分かるだろう。やり方次第では平民でも敵の騎士団を倒せるのだ。


「数の差が明確に戦力差に直結するのは百人以下の場合でしょうね。何百人いても、それだけでは隙間なく火柱を並べたら突破することはできません。」


 そして、数がそれほど問題とならない具体例を挙げてやればゼスアイチネも「なるほど」と納得する。膠着状態に陥ったら、敵の側面や背面に回り込む部隊が必要になる。いかに迅速に、そして的確に部隊を動かせるかは作戦指揮能力の問題だ。


 私たちは第二王子やイグスエン侯爵、ブェレンザッハ公爵を信じて待っているしかない。


「いえ、ただ待ってるだけではダメですよ。騎士だって食料が尽きたら戦えませんから、頑張って生産し戦線へ送る必要があります。」


 ハネシテゼの指摘にゼスアイチネは目を丸くするが、翌朝にでも魔力の撒き方を騎士たちに教えると言えばさらに困ったように首を横に振る。


「そこまでしていただいて、お礼は何もできません。」

「それなんですが、騎士を一人か二人でも貸していただけませんか? 子ども三人だけというのはどうにも外聞がよくなくて……」


 領主城や小領主(バェル)邸に泊まる前提ならば外聞が気になるし、野営をするならば三人という人数は少なすぎる。長々と夜番をするのは相当に辛いだろう。


 そう言うと「何故、三人で出ようと思ったのか」と叱られてしまうが、私たちだって早く領地に帰りたいのだ。


「できれば、若い方が良いですね。爵位や家柄は気にしません。秋までデォフナハでお預かりして、冬に王都であるいは春に王都から引き上げる際にお返しいたします。」

「それではデォフナハの負担が大きいのではありませんか?」

「実は、デォフナハはずっと騎士不足に悩んでいるのです。」


 魔物退治に参加してくれるだけでもありがたいのだと言えば、ゼスアイチネは短く嘆息し、騎士を一人出すことに了承してくれた。



 翌日は伯爵家の者たち五名を含め、三十人を超える貴族がぞろぞろと畑へ向かう。魔力を撒くのは騎士だけではなく、文官も動員する方針のようだ。家族や知人が前線に向かっている者も多く、そこに食料を届けるのが大事であることは言われなくても分かっているようである。


「このように慣れないあいだは桶に水を注いでから魔力を詰め込んだ方がやりやすいですが、慣れれば宙に浮かべた状態で魔力を詰め込めるようになります。」


 手本として魔力を水に詰め込み、甘菜(ティレス)の収穫が終わった畑に魔力を撒く。私たちは盛大に広範囲に赤く輝く水を撒き散らすことができるが、最初はそれほどの範囲に撒くことはできない。


 ほんの数歩だけ飛ばしたところで水が弾けてしまうのは、誰もが通る道だ。それができれば、あとは頑張って繰り返せば良い。


 そして問題は雷光の魔法だ。誰か一人でも習得できれば良いのだが、やはりこちらは数分内に火花を飛ばせる段階に至る者はでてこない。


 しかし、諦めて出発するか、もう一日滞在するかを話し始めた頃に、騎士の一人が火花を飛ばすことに成功した。


 何度も何度も手本を見せて、もう一時間だけ頑張ることにする。何とか数歩先まで雷光を飛ばせるようになれば、あとは訓練を繰り返すだけだ。


 同時に、伯爵家の者たちに水の玉を複数飛ばす訓練をさせる。これは魔力量が多い方がやりやすいため、どうしても上からになる。


 それぞれがなんとかできるようになり、私たちは騎士一人を伴って出発する。彼らはまだまだ習得したとは言い難いが、それでも頑張って訓練を続ければ数週間で実戦で使えるようになるだろう。



 四人で街道を歩き、次の町へと向かう。船で行った方が楽なのだが、魔法の訓練をしていたために出発が遅れたため、船は既に出てしまっている。


 山ばかりのイグスエンとは違い、ビアジア領は丘陵地帯である。森は街道を行くしかないが、馬で歩く私たちは野原は一直線に進んだ方が早い。


 数日かけて町を幾つも過ぎて、ウジメドゥアの領都に着く。領都は無視して東に進んだ方が早いのだが、公爵領を素通りするのは色々と問題が起きやすい。


 二日ほど余計にかかる計算だが、私たちには立ち寄らないという選択肢もなく、その大きな門を潜ることになった。



 ウジメドゥア公爵もイグスエンで会っているので、城は不在にしていることは最初から知っている。迎えてくれたのは公爵の弟という人物だ。


 私たちは今までと同じ話を繰り返し、そして同行する騎士が二人増えることになった。


 そして、彼らは言われずとも食料生産に全力で取り組んでおり、「何か気付いたことがあれば助言がほしい」ということで畑での活動を見ることになる。


「魔力を撒くのも大切ですが、魔物を退治するのはもっと大切なことです。」


 畑に魔力を撒くと、もぞもぞと魔虫が地中から姿を現す。雷光の使い手が少ないならば、平民たち総出でも徹底的に虫を叩き潰すべきだと言うと、難しい顔で首を横に振る。


「これでもかなり潰したのですが、潰しても潰してもきりがないのです。」

「その気持ちは分かりますが、根気よく潰していくしかありません。見たところ、畑に出ている子どもがいませんね。魔物を踏み潰すための靴を与えて働かせることを考えてはいかがでしょう?」


 これは今年、エーギノミーアでやる予定だったことだ。領都は雷光の使い手が増えているが、小領主(バェル)の騎士にまでは広がっていない。


 とはいえ、農民の子どもの中には素足が露出している者も多く、魔虫退治の効率が決して良いとは言えない。靴を与えるだけで仕事が捗るならば、与えてしまえば良いだろう。


「エーギノミーアでは子どもも働かせているのか?」

「四の五の言っていられる状況ではないと思いますし、子どもは働く必要がないというのは()()承服いたしかねます。」


 私の主張にウジメドゥア貴族たちは苦笑いで返してくる。子どもがとか言うならば、私たちのイグスエン行きに反対してほしいものである。


 それに、子どもでもできることに、大人の時間を取られるのはどう考えても効率が悪いだろう。大人は、大人にしかできない仕事を頑張るべきだ。


 生活に必要な仕事もあるので、子ども全員を畑での仕事をさせるわけにはいかないが、子どもを集めるだけでもかなり作業は捗るだろう。



 一通りの助言が終わると、私たちは六人で一路王都を目指す。ウジメドゥア領は王族直轄地と隣接しているため、これ以上他の領は通らずに直接直轄領を目指す。


 侯爵領を通過しても日数的には変わらないはずだが、そちらの方がより面倒なのは確かだ。私たちエーギノミーアやデォフナハと連れている騎士たちでは派閥が違うのだが、さらに別の派閥の領地に行くこともないだろう。

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