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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院3年生
176/593

176 平民対貴族

 本隊の制圧は割と上手くいった。私たちが休憩しているときに追いついてきたウンガス兵を数名同行させたのがとても役に立ったのだ。


「騎士様の奮迅の活躍により救われました!」


 夕方にそう嘘の報告をさせて敵陣の中へと入り、全体の指揮を執る騎士へと近づく。その口実は私たちを捕らえたことにすれば良い。


「腕輪を取り上げてしまえば、ただの子どもです。」


 そう言えば割とすぐに信じてくれるものだ。実際、彼らがそう言って見せるのは本当に私たちの腕輪だ。下手にウンガス騎士から奪ったものを出して、特徴的な何かを見つけられたら大変である。


 もちろん、私たちは四人全員が杖を持っているので魔法の行使には何の問題もない。



 笑ってしまうのを(こら)えるために、(うつむ)いて必死に歯を食いしばっていたのも、恐怖に怯えているように見えたらしい。


「襲撃をかけてきたバランキル騎士は壊滅状態で敗走いたしました。騎士様は残党を追っています故、少々戻るのが遅くなるかもしれません。」


 兵の報告は真っ赤な嘘だが、その話を聞いた騎士は嬉しそうに顔を綻ばせる。


 しかし、機嫌よく笑っていられるのは僅かな時間でしかなかった。兵が揃って立ち上がり、弓に矢を番えて射れば、周囲にいる騎士は魔法で反撃する間もなく次々と倒れていく。


「貴様ら! 何のつもりだ!」

「分からないのですか? 彼らは既に我々バランキルに降っているのですよ。五百の騎士がたった四人の子どもに負けるようではウンガスの先は知れている。」


 ご丁寧にジョノミディスが説明し、挑発するのは、指揮官の意識をそちらに引きつけるためだ。その指揮官は顔を真っ赤にして杖を振り上げるが、その腕や肩には数本の矢が突き刺さる。


 悲鳴を上げて、杖を取り落としているようでは魔法の行使などできるはずもない。さらに槍で両足を貫かれ、指揮官は地に倒れ伏す。



「我々を脅かす貴族はほとんどが死んだ! 残り数人を倒せば俺たちは自由だ!」


 連れてきた兵が叫ぶ。脅されて連れられてきた者たちは少なくないらしい。

 すぐにウンガスに帰るならば寛容に見逃してもらえると言えば動揺は広がっていく。


「武器を取れ! 貴族といえども勝てないわけではない!」


 その言葉に説得力を持たせるために、私たちはあえて手を出さず、兵に騎士を倒させたのだ。


「平民風情が頭に乗るな!」


 激高した騎士が数人、杖を振り回して近づいてくるが、騒ぐ兵たちをすぐに粛清できなかったことが彼らの敗因だ。射かけられた矢を防ぐこともできずに、次々と倒れていく。


 これで完全にウンガスの兵たちの気持ちはウンガス騎士に向く。本当に目の前で騎士が兵の矢の前に倒れて行けば、勝てると思うのは当然だろう。


「この子どもも貴族なんだろう!」

「よせ! 彼らが四人で五百人の騎士に勝ったってのは本当だ! 俺たちが勝てる相手じゃない。そこの騎士とは格が違うんだ。」

「そこに倒れている者どもがどれほどの爵位かは知らぬが、バランキルの公爵家をみくびってもらっては困るな。」


 ジョノミディスとフィエルが胸を張って前に出れば、兵たちは後ずさる。いつもなら前にでるのはハネシテゼの役目だが、男爵家である彼女が公爵家を(かた)るわけにはいかないのだ。


 さらに、勝てるとしても犠牲者が出ないことを強調すれば、兵たちはとりあえず静かになる。



 その後、ウンガス兵たちに改めて帰るよう命じると、ぞろぞろとミュレキ街道を南下していく。それを見送って、私たちは指揮官の尋問だ。


 攻撃どころか、腕を上げることすらできないウンガスの指揮官は酷い顔色で、それでも私たちを睨んでいる。


「あなたたちは、どんな理由でバランキル王国に侵攻し、民を殺すのですか?」

「魔物を従えることもできぬ、低能なバランキルの貴族や王族など皆殺しで構わんだろう?」


 思っていた以上に下らない理由で攻め込んできたものである。自分たちの方が上位であると信じ、この土地も自分たちの物であるべきだと主張するのだからもう救いようがない。


 身動きもできないのに随分と居丈高な態度は不快ではあるが、ハネシテゼに一々相手にしてはいけないと言われ、対応は兵に任せることにした。


 敵の貴族を捕らえたときに聞くべきことの共有はしていないが、彼らだって聞きたいことはあるだろうし、言いたいこともあるだろう。立場が違っていても、それらの多くは一致していると思う。


 イグスエンの兵は、完全に被害者の側だ。滅ぼされた町に知人や親族がいても不思議ではない。領主一族として、土地や民に害を為す敵への思いとは違うだろうが、出てくる言葉は似たり寄ったりだ。


 もう二人、生存している騎士を見つけ、こちらも腕輪や杖を取り上げてさらに縄で身動き取れないように縛り上げる。

 彼ら三人の騎士は現場での処分はせずに、領都へ押送することにしたためだ。


 私たちとしても、どうしたらウンガスの侵攻を止められるのかは知りたいところではあるが、そこでイグスエン侯爵を蔑ろにするわけにはいかない。道中で息絶えてしまう可能性もあるが、それでも敵の指揮官の亡骸というものにはある程度の意味はあるはずだ。



 ハネシテゼとジョノミディスが兵とともに領都へと帰っていくが、私とフィエルは南へと向かう。敵はこれで全部とは限らないし、何もしなければ南側に回り込んで敵の背後を取るつもりだった騎士にウンガス兵が皆殺しにされてしまうだろう。


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