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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院3年生
159/593

159 形振り構わない戦い

 瓦礫の陰に隠れて一休みしていると、騎士が数人で迎えに来る。フィエルとも合流して、道を歩いて行けば小領主(バェル)邸の跡と思われる庭に到着する。


 馬車がいくつもならび、周囲には篝火が焚かれて結構あかるい。ウンガス騎士の死体が集められているが、状態を見るにそのほとんどがジョノミディスの雷光に撃たれたようだ。


「みなさん、出られますか?」

「もちろんだ。あちらは終わっていないようですしね。」


 多くの騎士たちは、ここを攻め落としてすぐに休憩に入っている。一生懸命に片づけをしているのは、町の中ではあまり役に立たない弓兵たちだ。


 まだ戦いが終わっていないのに休むのは気が引けるが、少々時間をかけても回復してから加勢すると事前に決めている。疲弊した状態であっても少しでも早く駆けつけるのと、本当にどちらの方が良いのかは分からない。


 だが、こうして休んでいる間にも、ハネシテゼたちも、敵も消耗していっているはずだ。時間が経てば経つほど、彼我の体力の差は大きくなっていく。



 軽い休憩を終えて、私たちは五十の騎士と弓兵を残して南へと向かう。戦いの音は激しく、続いていたが、私たちが近づくにしたがい、どんどん音が引いていく。


「どうなってる⁉ 勝っているのか?」

「急ぎましょう!」


 まさかとは思うが、ハネシテゼやブェレンザッハ公爵が負けないとも限らない。慌てて馬を急がせて町の外に出ると、そこには人や馬が折り重なるように倒れていた。


「これは、見たところウンガスの騎士だな。」

「戦いはあちらです!」


 どちらが優勢なのかもわからないが、爆炎がいくつも炸裂しているのが夜闇の中に浮かんでいる。


 火の魔法を並べて行く道を照らし進んでいくが、飛び交う爆炎はあちらへこちらへと畑の中を走り回っている。


 立て続けに一面を覆い尽くすような爆炎を放っているのはハネシテゼだ。他の者にあんなことができるとは思えない。そうして敵の視界を埋め尽くし、馬を走らせて敵の魔法から逃げるのだ。


 ハネシテゼが射程距離で負けると言っていたのがどういうことか初めて分かった気がした。信じられないところで爆炎が炸裂し、火柱が上がる。爆炎を並べて敵の動きを制限し、それでやっと直撃を避けているのだ。


 こちらの騎士もよく動いているが、ウンガス騎士もなかなかのものだ。今まで戦ってきたどの騎士よりも強いのではないだろうか。



「敵は上級騎士ばかりのようですね。」

「あれは厄介にも程があるだろう。どうしてハネシテゼ様はあんなのと渡り合えるのだ?」

「もたもたしていられません。こちらも行きますよ!」

「中級騎士以下は引き返して、先ほどの死体から武器を回収してください。」


 騎士に出す指示としてはひどく侮辱的ではあるが、あの化け物に突っ込めという指示は私には出せない。そうすれば勝てると分かっていても、そんなやり方は嫌だ。


 歯噛みをしながらも、騎士たちは引き返していく。とにかく、敵の戦力を削っていくには誇りや品格などとも言っていられない。そんなものは死んでしまったら何にもならないのだ。


 ある程度近づいたところで、上空に向けて雷光を放つ。この魔法を見ればどちらの援軍が来たのかは一目瞭然のはずだ。


 そうしてから敵に向かうように火の道を作り、真っ直ぐに敵の側面に向けて馬を進める。当然、敵の目はこちらに向くが、それが狙いだ。意識がこちらに向かうだけで、敵の攻撃や守りは薄くなるだろう。



 爆炎を放ちながら距離を詰めて行くが、それでも意外と敵は冷静だ。こちらの進路を塞ぐように魔法で牽制してくるし、不利な位置取りをされないようにどんどん移動していく。


 それを追いかけながら魔法を次々と放っても、敵も負けじと撃ち返してくる。そればかりか、私たちが敵の司令官の射程内に収まるように立ち回るのだ。常に周囲を確認しながら動かないと、私たちの方が大打撃を受けてしまいかねない。


 一進一退の必死の攻防が続くところに、中級騎士たちも参戦する。


 敵の魔法も激しく、投擲も難しいかと思ったのだが、なんと彼らは投げた剣や槍を爆炎でさらに吹き飛ばし、無理矢理飛距離を伸ばすという暴挙に出た。そんな方法で狙ったところに飛んでいくはずもないのだが、数回に一回でも上手く飛んでいけば、敵には回避のしようがない。


 というよりも、何が起こったのかも分からないのではないだろうか。恐らく剣か何かが命中したのだろう。敵の騎士が一人、馬から落ちる。


 騎士たちが雄叫びをあげ、次々と短剣や何かよく分からないものが放り投げられていく。その半数以上は明後日の方に飛んで行ってしまったようだが、二十かそこらでも敵のいるところに飛び込んでいけば上出来である。


 次々と倒れていけば、敵も狼狽(うろた)える。いや、冷静であっても、何があったのかを確認するために目を向けなければならなくなる。


 確認することは他にもある。倒れた者たちが戦闘続行可能なのかは重要なことだ。


 傷は浅く、体勢を崩されて馬から落ちただけならば、すぐに戦線に復帰できる。致命的な傷を受けていることがはっきりしているならば、即座に見捨てるという判断もできるだろうが、まだ十分に戦える者を放り出してしまうのは悪手だろう。


 その結果、敵の足が止まりはした。牽制の魔法も僅かにだが減った。しかし、それだけだ。わずかな隙は生まれたものの、切り崩せるほどのものではない。


「堅いな。」

「そう簡単に崩れてはくれませんね。」


 敵の数を少しばかり減らしたが、戦局に大きな影響はない。なんとかして、少しずつ削っていくしかないのだろうか。ハネシテゼの方は敵将を押さえこむので手一杯だし、私たちがどうにかしないとならない。


 敵と味方を交互に見比べ、守りを突破していく方法がないかを考えるが、そう簡単に出てはこない。敵は足を止めずに動き回るため、こちらもそれに対応して動かなければならない。


 どんどん変わっていく陣形に思考が追いつかない。隙が生まれては消え、弱点と思われる箇所も変化していく。今までとは違った形の膠着状態だ。何か手を打つ必要があるのだが、どうすれば良いのか全く分からない。

ここまで読んで、まだ何もしていないそこのアナタ!!


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