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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院3年生
149/593

149 凱陣

 横から私たちの攻撃を受けたのをきっかけに、ウンガスの戦線は崩壊していった。ハネシテゼたちの攻撃を食い止めながら、こちらにまで割ける力はなかったらしい。


 必死の抵抗をしていた集団がすべて屍と化し、私たちは一度町へと引き返す。


 騎士やハネシテゼも隠せないほどの疲労があるのが分かるし、何より馬がそろそろ限界だ。これ以上走らせては倒れてしまいかねない。


 帰り道はまっすぐ北に行き、南門を開けてもらう。南側の敵がいなくなり、こちらの門も開けられるようになったと示すのも大事なことらしい。


「恐らく、西側はまだ状況が好転してはいないでしょう。多くの人が恐怖に耐えられる時間というのはそう長くないはずです。分かりやすい形で少しでも良い話を流してやらないと、中から崩壊してしまいます。」


 作戦に支障が出るほどに市民が騒ぎはじめてから対策したのでは手遅れというのは分かるが、門を開けて帰ってくるというのがどれ程の効果になるのかは分からない。


 全員が街に入り、門が閉まれば攻撃隊の任は終わりとなる。


 だが解散する前に報告すべきことを報告しておかなければならない。私からの報告は隠し立てするようなことでもないので、他の騎士や門衛、さらには市民の前で言ってしまっても構わない。


「西側から散発的にあった偵察と思しき者は、見つけ次第すべて倒しました。数は兵は二百以上、騎士も三十を越えます。弓兵たちの戦果も目覚ましく、騎士を何人も仕留めています。」

「それは素晴らしい働きをしたのですね。連れていって正解だったでしょう?」

「はい。随分と楽に戦うことができました。」


 私の報告に周囲の兵たちは沸き立ち、弓兵たちは少し照れたように笑いあう。私やハネシテゼは褒め言葉しか与えられないが、イグスエンの領主が戻り、戦いが終われば褒賞を得られるくらいの功績だ。


 良い話が大事ならば、こういうこともして良いと思う。


「それと、ウンガス騎士は魔物を操る術を持っているようです。私が(おび)き寄せた魔物に、必死に言うことを聞かせようとしている者がいました。」

「それはまた随分と中途半端な術なのですね。魔物はどれほど引き連れていたのですか?」


 ハネシテゼはあまり興味もなさそうに聞いてくる。私たちにとって、魔法の効く魔物の脅威度は、そこらの兵と大して変わらない。むしろ、弓の得意な兵のほうがやり辛いかもしれない。


 五人の騎士が数百の魔物を連れていたと報告すると、その話は終わりだ。


 あとはハネシテゼたちが一掃した南のウンガス陣営に兵や騎士がどの程度残っていたかという話がされて、その場は解散となりそれぞれ持ち場へ戻る。



 城に戻る騎士たちに馬を預け、私は守りに専念しているフィエルのところへと向かう。攻撃が終わったら、防衛に戻らなければならないし、フィエルも心配しながら待っているだろう。


「フィエル、ただいま戻りました。ご心配おかけしましたが、南の敵は殲滅しました。」

「無事に帰ってきてくれたか。」


 私の顔をみてフィエルは大きく、とても大きく息を吐きだす。そこまで心配されるとは、何か信用されていないようで少々悲しいような気もする。


「父上や兄上が気苦労で胃が痛いと言っていたのが少し分かった。何も情報がないまま、時間を持て余すのは精神的に良くないのだ。」


 集中して取り組める仕事でもあれば良いのだが、壁の上で監視している兵からの報を待つだけでは、精神的に苦しいのだとフィエルは何度も溜息を吐きながら言う。


 フィエルがこれだけ苦しんでいるならば、西のウンガス軍の指揮官もかなり精神的に疲弊しているのかもしれない。明らかに南側で衝突が起きているのに、何の情報も入ってこないのだ。その憤懣は計り知れないだろう。


 椅子に腰かけ、とりあえず私が門を出てからのことをフィエルに話す。いつの間に用意されたのか、室内には簡素な椅子にテーブルが置かれ、そして藁敷きの寝床が用意されている。


 敵を完全に排除するまでここから離れるわけにいかないし、すぐに休めるようにしてくれたのは有り難い。



「そうか。南側の敵は排除できたか。」


 私の話を聞き、フィエルはそう言って短く嘆息する。


「それに僅かですが西側の戦力も削ぐことができましたし、今回の出撃は成功と言えると思います。」


 あとは西側の防衛がどうなっているかだが、フィエルにもあまり変わっていないとしか報告がきていないらしい。


「一度、西の様子を見に行きたいですね。」

「話を聞くだけでは分からないからな。しかし、ここを離れるわけにもいかぬだろう。」

「南の敵もなくなりましたし、私たち二人が揃って張りつく必要もないのではありませんか?」


 実際、私が攻撃に出ている間はここを守っていたのはフィエルと三人の騎士だけだ。南側の脅威度が下がったのだから、状況確認のために離れるくらいは大丈夫だと思う。


「確かにそうだな。こちらは、ティアが出ている間、攻撃の気配は一度もなかったくらいだからな。」


 フィエルもそう言って納得したようだが、騎士の方はそうでもないようで、油断だけはしないようにと言葉をかけてくる。


 南や北は無視することで油断させ、気が緩んだところを攻めてくる作戦も考えられるという。確かにそれは分かるし、気を緩めすぎるのも良くないと思う。


 しかし、このままでは気が滅入ってしまうならば、どこかで気晴らしをしなければならないだろう。


 それが未熟なのだと言われれば返す言葉もないが、今すぐ大人になれと言われても、それはできそうにない。


 一時間ほど休憩を取ったあと、フィエルは南門で馬を借りて西門の様子を見に行くことになった。



 周囲が暗くなるころに戻ってくるまでの二時間半ほどだが、何もすることがない中で待機する辛さというのが少しだけ分かった。


 状況の変化が特になければ文官たちも来てくれないようで、本当に退屈で仕方がない。


「そろそろ夕食の準備を……」

「まだ早いです。」


 というやり取りを何度したか分からないくらいだ。

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