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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院3年生
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146 出撃

 連絡を出して、一時間も経たないうちに文官が結果を知らせにやってきた。予想通り、東門と北門の周辺にも敵が潜んでいたらしい。


 文官の話によると、五十ほどの敵を倒したことになるが、その全てが騎士であるという確証はない。


 敵が奇襲対策をしているのははっきりしたが、これで終わりと考えるのは早計にも程がある。他にどのような手を用意しているのかは分からないが、複数の策がある前提でこちらも動かねばならないだろう。


 南の敵には動きが見えないまま時が過ぎ、昼食を終える頃に出撃に出る騎士たちが南門に集まってきた。


「こちらから出るのですか? 北から出るものだとばかり……」

「敵もそう思っているだろうから、こちらから出るのです。」


 意表を突きさえすれば良いというものでもないが、ハネシテゼの考えはさらに私の想像を超えるものだった。


「あの目障りな南側の敵を先に潰します。あの陣を完全に破壊し、一兵残らず皆殺しにします。」


 とにかく、敵の数を削っていかないと、勝ち目がないどころか敗色が濃厚というのが現状だ。それは私も分かるのだが、ハネシテゼは、わざわざ最も苛烈なところにいく必要はないと言う。


「攻撃もしてこない者を倒すことにどのような意味があるのです?」

「余計なのを潰してしまえば、西の敵に集中できます。南側を押さえられているだけでも、こちらの動きは制限されますからね。それに、敵にとっては、部隊の壊滅は人ごとではありません。」


 皆殺しの憂き目に遭っていれば、西の敵にも少なからず動揺があるはずだという。半ば陽動目的で置いているのかもしれないが、それを完全に叩き潰されれば、士気が落ちるのが通常だという。


「誰だって、捨て駒になどされたくないですからね。いずれ自分たちもまとめて切り捨てられると分かっていて、それでも尚命懸けで戦おうと思う人は少ないのです。」


 ハネシテゼは逆に、自分は誰一人犠牲にするつもりはないと断言する。全員の力で勝利して、全員揃って王宮に帰って報告するのだと気を吐けば、騎士も胸を張って高らかに呼応する。


 騎士の動きや合図についての確認を終えると、私は再度門の外の伏兵対策のために雷光を撒き散らす。門が開けられてハネシテゼと王宮騎士が出ていき、私も梯子を下りて出撃の準備をする。


 私が出るのは、二分ほど後になる。騎士七人と馬に乗った十四人の弓兵を連れて、敵の偵察部隊を探して叩いていくのが役割だ。


 平民の弓兵が馬に乗って出撃することに騎士は不満そうな顔をするが、戦力が不足しているものは仕方がない。馬上で弓を扱えるなら出撃させない手はない。


 門を出ると、防壁に沿って南へと向かう。畑には隠れるような場所はないので、敵が潜んでいるならば壁の際か防風林だろう。


 怪しい枯れ草や土の盛り上がりを見つけたら、問答無用で雷光を放ち、水の槍を叩き込む。文官含めて町の周辺に出している兵や騎士はいないことはしつこいくらいに確認している。


 本当に潜んでいたらそれは敵だ。容赦せず叩けば良い。


 門から畑を四区画南に行くと最初の防風林に当たる。隠れてこちらを窺うのに都合の良さそうな茂みはあるが、完全に身を隠すには足りない。


 私と弓兵が南側に抜け、北側の騎士と挟み込むように防風林に沿って南へと進む。そうしていれば、魔力を探知できない敵兵でも見つけられる可能性が上がる。


 もちろん、どう隠れようとも魔力の気配を隠せない敵騎士は、目を閉じていても居ればすぐに分かる。




 私が魔力の気配を見つけたのは、東西と南北の防風林が交差するところだった。


 考えてみれば、当然とも言える。敵が接近してきたときの逃走、離脱経路は多い方が良い。馬を側に置いて、敵が近づいたら全速力で逃げ出すのであればどこでも構わないのだろうが、それでは見張りや偵察としての役割を果たせない。


 相手の動きをしっかりと見て、その情報を持ち帰るのが偵察任務というものだ。ろくに見もしないで一目散に逃げ出したのでは、持ち帰れる情報が「自分のいたところに敵が近づいてきた」という情けないものにしかならない。


 つまり、敵の偵察は、私たちが近づいたら見つからないところに移動して隠れるものだ。


 実際、近づいていくと林の中の気配は西側へと移動していく。


 百歩以上も先の防風林の向こう側では魔法も矢も届かない。だが、離れていく気配は無視して、防風林が交差するところでじっと動かない気配に向かう。


 あからさまに動いて、引き寄せる作戦なのだろうが、残っている騎士の気配は全く隠れることなく林から漏れ出てきている。


 防風林に向けていくつもの水の玉を放ってやれば東側にいる騎士も気付いたようで、向こうからも大量の水が林の中に撒き散らされていく。


 水浸しになるほど撒いておけば、すぐに命を落としはしなくても、偵察役として機能しなくなるだろう。隠れている者は敢えて放置して、逃げていこうとする方を追いかける。


「弓、射ってください!」

「この距離では当たりません!」


 東西の防風林の南に出ると、走っていく二人の姿が見える。だが、数百歩ほども離れていては命中させるのは難しい。矢を届かせるのが精いっぱいだと弓兵は口答えをする。


「あてる必要はありません。驚かせれば良いのです。」


 速歩(はやあし)で馬を進めながら指示を続ける。走れば追いつくのは簡単だが、可能な限り馬の体力を温存したいのだ。


 困惑の表情を浮かべながらも弓を引き、矢を放つ。運よく命中してくれれば良かったのだが、さすがにそこまで上手く事がはこびはしない。


 だが、直撃はしなくても数本の矢がすぐ側に飛んできたら、逃げている者たちも平静では要られ無いようだ。一度振り返り、一呼吸ほど狼狽(うろた)え、そして林へと駆けこんでいく。


「逃げられてしまいます!」

「今更逃げられませんよ。林の脇の道と、林の中。どちらが早く進めると思いますか?」


 おまけに、防風林の北側に逃げればそちらには騎士たちがいる。余計なことをした分だけ、追いつかれるのを早めてしまっただけだ。


 案の定と言うべきか、林の向こうで騎士の魔法が炸裂し、悲鳴が上がった。

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