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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院3年生
143/593

143 作戦

 その後もウンガスの騎士はやってきて火球の一斉攻撃を仕掛けては退きを繰り返す。それ以上の動きは特になく、それが逆に不気味にも感じる。


 とにかく、全体的な状況が掴めず、目の前で起きていることをどう評価して良いのか分からないのが困りものだ。そう思っていたのは私たちだけではなかったようで、文官たちが戦況の報告を求めてやってきた。


 私たちの分かる範囲の状況を伝えてしばらくすると、再び文官が来て東や西、それに北側の状況について伝えてくれた。


 彼らの話によれば、東門を出て行ったハネシテゼが数十の騎士に追われて戻ってきて、その迎撃に王都の騎士たちが出たらしい。


 追ってきたウンガスの騎士は全て倒したが、王都の騎士も何人か負傷をし治療を受けているとのことだ。


「彼らが傷を負ったのですか?」


 思わず聞き返してしまうほどの驚きの話だ。


 私たちと一緒に来た王都の騎士は全員が上級騎士だ。しかも熟練の精強な者ばかりが集められている。その彼らが傷を負えば、戦力の低下は否めないだろう。


「手傷を負わされたのは予定外ですが、敵の上級騎士を倒したのなら十分な功績でしょう。」


 動揺していた私に騎士がそう言って落ち着かせてくれる。

 そこらの下級や中級騎士では相手にならない力を持つ彼らに傷を負わせたとなれば、倒したウンガスの騎士も上級騎士だと考えるのが自然だ。


「確かに、上級騎士の強力な魔法が一番怖いですから、敵の上級騎士を倒せたのならば利も大きいですね。」

「できればもう少し詳しい話が聞きたい。敵の戦力がどれくらいなのか分からなければ反撃の作戦も立てられません。」


 騎士はこのまま敵の攻撃を耐え凌ぐだけというのは考えていないようで、突破口を開くためにも情報の伝達と収集は大切だという。


「ブェレンザッハからの派兵は数日内に到着することはありません。ですが、敵の数はいつどれだけ増えるか分からないのです。」


 西から来ていた隊がどれほどの規模なのかもまだ分かっていないし、後から来ると思われるウンガスの輜重部隊がどれほど戦力を持っているかも分からない。


 とにかく可能な限り敵の戦力を削っていきたいが、そのためにどのような策が良いのか、現状では判断する材料が足りなさすぎる

 というのが騎士たちの共通認識らしい。


 私たちの正面、南側の敵は、戦力の何割かを既に失っているはずだ。魔物を数百、騎士を数十失って何も変わらないなんてことはないだろう。


 しかし、どこが手薄になって、どこが攻めやすいのかは全く分からない。下手な作戦で出ていけば、痛手を受けるのはこちらになってしまうだろう。


 唸りながら頭を悩ませて、フィエルにも何か策はないか、どんな情報があれば作戦を立てられるか聞いてみたら「策ならある」とあっさり返ってきた。


「どこまで有効かは分からぬが、という前置きはありますが、門を開けてしまうのも策の一つだとフィエルナズサ様は仰っていました。」


 門を開ければ敵はそこに寄ってくるはずだ。敵は街の中に入りたいのだから当然だろう。しかし、ただ開けただけならば敵も罠を警戒する。


 それでも、何も動きがないというのも考えづらい。敵がそこでどう動くのかというのも重要な情報になり得るし、突撃してくる者があれば、雷光や炎雷の魔法で一掃すれば良い。


「私はフィエルの策を実行してみても良いと思いますが、いかがでしょう?」

「……他の者の意見も聞きたいと思います。」


 私としては大きな欠点はないように思うが、重大な見落としをしているかもしれない。拙速に進めて失敗に終わっては意味がない。


 城でも検討してもらうとともに、各門を担当している者たちの意見も欲しいというのは私にも理解できることだ。


 早速、文官にフィエルの案を持ち帰ってもらうと、何故かハネシテゼや騎士たちが集まってきた。壁の外の監視は兵士に任せ、私も一度下りて作戦会議に参加することになる。


「随分面白い策を考えましたね。誰の案でしょうか?」


 そう尋ねるハネシテゼに嫌味の色はない。というか、ハネシテゼは常に真っ直ぐすぎる言葉を投げるので、嫌味ということはないだろう。


「私ですが、面白いですか?」

「ええ。敵を前に、門は固く閉ざすものです。それを逆に開け放って様子をみるなど、普通は考えないでしょうね。」


 だからこそ、敵も戸惑うだろうし、その動きで統率の状態などを見ることもできるだろうという。


「しかも、突撃してきた者を炎雷で粉砕するなど、どう考えても逆でしょう。炎雷の魔法は守りを破壊するのに最適な魔法なのですから。」


 防壁を守る私たちが使うべき魔法は雷光で、炎雷は攻め込んでくる敵が使うものらしい。そういう面から考えても、門から炎雷が飛び出したら、敵がとても驚くのは間違いないという。


「別に驚かせたいわけではないのだが……」

「話が逸れましたね。私はフィエルナズサの作戦はやってみる価値があると思います。」


 ハネシテゼは賛成するが、騎士たちの中には難色を示す者もいる。ハネシテゼが〝非常識〟と言うほどなのだから、騎士としても容易に賛成できないのだろう。


「南門を開けるなど危険すぎます。東や北から騎士を出すという作戦なら分かりますが、目の前に敵がいるのにわざわざ弱点を晒す必要はありません。」


 門を開けて、万が一突破されたらどれ程の被害が出るか分からないというのが反対派の言い分である。確かにそれは分かるが、危険性としては低いと思う。


「ハネシテゼ様が攻める側だったら、どう突破しますか?」

「わたしなら炎雷を門の中に放り込みますが、門が閉じていても同じことをしますからね……」


 炎雷を何発も叩き込んで、守りも門扉も粉砕して中に突入するハネシテゼの姿が容易に想像できてしまい、思わず笑ってしまうが笑いごとではない。


「今までそれをしていないということは、ウンガスの騎士にはできないと考えて良いのでしょうか?」

「そうですね。後から来る者はともかく、今、この町の前にいる者の中に炎雷を使える者はいないと考えて良いと思います。敵の騎士がどう動くかは、騎士様の方が分かるのではないでしょうか。」


 ハネシテゼにそう振られて、騎士たちは少し考え込み、一様に「門を閉められないようにすることを考える」と答える。


「防壁のすぐ手前に火柱でも並べれば、壁上からの攻撃は防げます。その上で門扉の破壊を狙えば、かなりの率で成功すると思います。」


 壁の内側にいれば火柱は恐ろしくもないが、敵に攻撃するには壁の外側に出なければならない。敵から見れば、火柱が並んでいる間は反撃の心配がなくなり、攻撃に専念できる。


 それに加えて、射程距離の問題で攻撃側の方が有利なのだと言う。


「我々が狙うのは敵の騎士ですが、敵が狙うのは我々よりも手前にある物なのです。そのため、射程距離が同じならば、敵の攻撃の方が先になります。」


 敵がそう攻めてきた場合に対応する案がない限り、賛成できないというのだが、その主張自体を退けるほどの論は私にはない。


 ならば、敵の攻撃への対策を考えねばならないだろう。


 敵に火柱を並べられないようにするには、こちらが先に火柱を並べてしまえば良いのだが、それでは敵が近づいてこない。


 門扉への集中砲火がされる前に敵を叩ければ良いのだが、それが簡単にできるならば苦労はない。


「中々難しいですね。」

「ああ、確かに開いた門扉を狙うという考えはなかった。」

「落ち込む必要はございません。敵を一掃できる案が簡単に思いつくならば、とっくに実行しています。素晴らしい案を一人でいきなり思いつくことはありません。皆で検討し、改善を加えて有効な策へとしていくのです。」


 騎士の言葉に私たちは頷き、昼食をとりながらみんなで案を出して検討することになった。

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