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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院3年生
135/593

135 道中

 日の出とともに野営を畳み、町を出発する。まる一日十分に休んで、私も騎士たちも、そして馬も元気いっぱいだ。


 私たちは西の街道を行くが、小領主(バェル)の騎士二人は二頭の青鬣狼(グラール)とともに北の街道から出発する。


 東側の街道を北上してきた敵部隊は私たちが倒したが、完全にすべてを皆殺しにしたわけではない。歩兵の半数ほどと騎士の幾分かは逃走している。それらが北や北東の町を襲わないとも限らない。


 もう一つの懸念もあり、小領主(バェル)も騎士たちを使いに出すことにしたのだ。



 あの人数に対して、馬車の数が少なすぎる。


 そう言ったのはハネシテゼだけではなく、同じことを感じた騎士たちも多くいた。


「どう考えても、帰りの分の食料が足りません。私たちに負けて全滅するのが前提なのでなければ、輜重(しちょう)部隊は少し遅れてやってくるのだと思います。」


 十日分の食料を積んでいても、ここから国境まで十日以上はかかる。この時期では森で採れる食料などたかが知れているし、畑にはまだ何も植えられてすらいない。


「後続部隊がないならば、彼らは食べ物を調達することもできずに、飢えて死んでいくだけです。わたしたちは一週間ほど、領都で防衛するだけで勝利が確定しますよ。」


 いくらなんでもそんな間抜けなことはないだろうというハネシテゼの意見に、大半の騎士たちも首を縦に振った。


 それが正しいならば、当然に私たちの前から逃げ出した敵は後続部隊と合流していると考えるのは自然だ。そして、その部隊が進む先にと予測がされている町には遣いを出すのは当然だろう。


 だからと言って、町を無防備にしてしまうわけにはいかない。出せる騎士はほんの数名が限度だという小領主(バェル)の主張は尊重する必要がある。


 その結果として、まだその辺をうろうろしていた青鬣狼(グラール)にお願いしてみることにしたのだ。


 人間の事情など彼らに分かるはずもなかろうと、「彼らの助けになってほしい」とお願いしただけだが、青鬣狼(グラール)は意外にも承諾してくれたようで、二頭を騎士につけてくれた。


 そして、残り三頭は私たちについてやってきている。


 私としては、ウンガスが攻めてきたのは人間の国の話で青鬣狼(グラール)にはまるで関係がないことだし、山に帰りたいなら帰ってくれて構わないと思っている。


 だが、どういうつもりなのかは分からないが青鬣狼(グラール)とはまだしばらく一緒にいることになりそうである。



 山の道を進み、峠から見下した町は無事であるようには見えなかった。遠目にも家屋が破壊されているように見えるし、何より動いている人の姿が全く見当たらない。


「あの町を襲った別の部隊があることは確定的ですね。」

「ええ、あそこを破壊してから、この道を通らずに迂回して東に回るなんて、時間的にありえないでしょう。」

「西の街道にもいると思いますか?」

「これだけの情報では分かりませんし、今考える必要もありません。」


 予想が一つ的中したことで別の方も気になりはするが、ハネシテゼは「そんなことはどうでも良い」とあっさりと考えることを放棄した。


「どうでもよくはないと思いますが?」


 フィエルは非難を込めて言うが、ハネシテゼの考えは変わることはない。


「本当にいるか分からない敵のことよりも、間違いなくいると分かり切っている敵のことを考えるべきです。」


 西側の確認に時間と人員を割いて、もし()()()()()()()()()どうするのか。


 その分だけ、領都の被害は大きくなるだろう。その代わりに得られるものがなさすぎる。


 可能性としては、西の街道を北上している敵部隊がいるかは五分五分くらいと思う。そのために人数を割けるほど、私たちは人的余裕があるわけではない。


「可能性の話を言うなら、輜重部隊の存在もかなり高いと思うが、先に奪ってしまうのはどうだろう?」

「東側は前線部隊と輜重部隊は離れていましたけれど、こちらの部隊も離れているとは限りません。既に通り過ぎているかも知れないのに、南に向かうことはありえません。」


 仮に敵の食料を奪うことに成功しても、そのために領都を見捨てたのでは何の功績にもならない。

 もちろん、北に向かう途中に見つけたならば、部隊が進めないように先回りして道を塞ぐなどはすると言う。


「北の街道に入る際、道をある程度塞いでしまうというのはどうでしょう?」


 ジョノミディスの案にハネシテゼは暫し考え込み「それほど時間をかけられませんが、やってみましょう」と賛成の返事をすることになった。



 道を下って町に着くと、やはり既に廃墟と化しているようで、人がいる気配はなかった。そこら中に破壊と殺戮の跡が残っており、正視に堪えないあり様だ。


「何故、このようなことができるのでしょうか。」

「魔物と共にいるような狂った者たちです。人と思わない方が良いですよ。」


 私の呟くと、ハネシテゼは吐き捨てるように言う。人の形をした魔物など理解できないし、理解したくなどないというその言葉に、フィエルやジョノミディスも頷く。


「恐らく、南から来て北に行ったのだと思いますが、念のため足跡の確認をします。わたしとジョノミディスは北から、ティアリッテとフィエルナズサは南側を見てください。」

「分かりました。」


 ハネシテゼの指示で二手に分かれて敵の足跡を探すが、そう大きくもない町で、何の工作の跡も見られなければ一時間もかからずに終わる。


「南側は街道にしか痕跡はありませんでした。」

「北側にも出て行った跡しかない。」


 ということで得られた情報もほとんどなく、陽がただ西に傾いただけだ。畑の北端あたりで夜営を張り、北の街道を行くのは翌朝ということにした。


「休むには少し早すぎるので、工作をしておきましょう。」


 出て行くときに北側の道を荒らしていく予定だが、東の道が綺麗なままだと敵の後続部隊は東へ向かってしまうかもしれない。それを防ぐために、東の道も簡単には進めないようにして置く必要があるということだ。


 泥濘に水の槍を突き刺せば路面の凹凸は激しくなり、進むのは容易ではなくなる。特に、馬車で進もうとすればかなりの困難を生じるだろう。


 数百歩ほど道を荒らしてその日の作業は終わった。




 早くに休んだ分だけ早くに起き、夜明け前の薄明りの中を北に向けて出発する。


 明かりが不十分だと進む速さが遅くなってしまうが、暗いうちは後ろの道を荒らしてけば良いということで、私たちは道に向けて水魔法を打ちつけながら進む。


 北側に罠が仕掛けてあるように見えても困るので、荒らす程度は東と同じくらいだ。二百歩ほど荒らした後は特に何もせずに進む。


 空が明るくなってしまえば歩く速さも上がるが、この先はどこに敵がいるかも分からないし、敵との遭遇率も進むごとに上がっていく。


 緊張したまま山の中を縫うように道を行くが、特に何もないまま二つめの峠にまで着いた。

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