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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院3年生
133/593

133 休息

 一日かけて町の周辺の後片付けをし、翌日は今度こそ本当に休むことになった。


「そんな休んでばかりいて良いのでしょうか? 敵はまだほかにもいるかもしれないのですよね?」

「まだいる可能性が高いから、休むのです。私たちの目的は敵と戦うことではありません。万全の状態であれば勝てるのに、回復を怠ったために負けてしまったりしたらどうするのですか。」


 敗走して騎士の半数でも失うことになったら、勝つ機会もなくなってしまうだろう。そうなったら、王都からの本隊が来るまで、イグスエンはウンガスに蹂躙されるままとなってしまう。


 だが、何もせずにただ休むというのも暇なものである。せめて、お茶でもあればゆっくりできるのにと思うが、町はずれの野営地にそんなものはない。


小領主(バェル)(やしき)に行けばお茶くらい出してもらえるのではないでしょうか。」


 敵から奪った馬車の中身の大半は小領主(バェル)の倉に運び込んでいるし、私たちが行っても邪険にされることはないのではないかとハネシテゼは言う。


「地図を見せてもらうとか、近くの町の話を聞くとか、それらしき名目はあるでしょう。」


 イグスエンの小領主(バェル)たちの戦力や地理関係について詳しい者は、私たちの中にはない。この町の小領主(バェル)に聞くのが一番手っ取り早いとも言える。


 次にどこに向かうかも考えなければならないし、確かに小領主(バェル)の話を聞くのは大事かもしれない。


 ということで、私たちは小領主(バェル)の邸に行くことにした。普通ならば約束もせずに突然邸に押しかけるなんてことはしないが、現在は非常事態の最中だ。遣いを出して二日後に約束を取り付けて、なんてことはしていられない。


 邸に着くと、ほぼ問答することもなく当たり前のように迎えられ、応接室に通された。室内は温められていて、テーブルには準備されていたかのように菓子やお茶が出される。何の約束もないのに、と少々意表を突かれた気分である。


「まるで待っていたみたいですね。」

「実際に待っていたのではないか? 小領主(バェル)としても、私たちに聞きたいことはあるはずだろう。」


 そして、当然私たちが来るものだと思っていたとしても不思議ではないとジョノミディスは言う。確かに、私たちは馬車でやってきたわけでもないので、小領主(バェル)が出向いてくると、外で茶も菓子もなく話をすることになってしまう。


 私たちの馬車は、敵から奪った荷馬車しかないと報告を受けたのならば、私たちが邸に出向くと考えるのも分からなくもない。


 チーズを挟んだクラッカーをつまんでいると、ノックがあり小領主(バェル)夫妻と思しき二人が入ってくる。


 そういえば、このような場合はどちらからどのように挨拶をすべきなのか教わっていない。とりあえず立ち上がり、その後どうしようかと、ハネシテゼの方をちらりと見ている間に小領主(バェル)が挨拶の言葉を述べ始めた。


「この度は遥々遠方より救援に来ていただき、感謝に堪えません。私、エディエノ・ダルジュ・ウェンデイオ、町を代表して心からのお礼を申し上げます。」


 その後も長々と口上が続くが、私たちは立ったまま黙って聞いているしかない。立場的に、私たちの方から遮って「畏まらなくても良い」などと言うわけにもいかない。


「わたしはハネシテゼ・ツァール・デォフナハ。王の命でこの地を脅かすウンガスの兵を排除にきましたが、早速、お役に立つことができて幸いでございます。」


 小領主(バェル)の口上がやっと終わったと思ったら、今度はハネシテゼの挨拶の言葉が始まる。だが、それほどの時間をかけずに、早めに切り上げる。


 そして、微妙な沈黙が流れる。


 ハネシテゼはもちろんだが、小領主(バェル)もこのような席は初めてなのだろう。私も何と言えばいいのかさっぱり分からない。ジョノミディスもフィエルも困ったように苦笑するだけだ。


「……わたくしは小子爵ですから小領主(バェル)ウェンデイオの方が爵位は上ではありませんか?」

「そうは申されても、中央から騎士を率いてきたデォフナハ卿を下に置くのもどうかと……」


 本当に困った話だ。どちらを上位者とするのかの認識がお互いに食い違っていて、簡単に収まりそうには思えない。


「ならば、ズオシデアル様が前に出れば良いのでは? 将爵ですと伯爵よりはうえなのですよね?」


 確かにフィエルの言う通り、背後に控える騎士の方が爵位は上なのだが、王命によりこの隊を率いているのは、明確にハネシテゼなのだ。どうしてそのようにしたのか、国王に文句を言いたいが、実際にそんなことはできはしない。


 だが、将爵と聞いてウェンデイオはハネシテゼを将爵に近い扱いをということで話はまとまることになった。


「とにかく、座りましょう。」


 ずっと立ったまま話をしていても仕方がない。私たちが改めて椅子に座ると、テーブルのお茶が替えられていく。


「まず、地図はございますか? この辺りの地理について詳しい話を聞きたいのです。」


 お茶を一口飲み、ハネシテゼが切り出すとウェンデイオは使用人に地図を持ってくるように言う。戻ってくるまでの間は、ウェンデイオからの質問を受け付けることにする。

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