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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院3年生
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124 想定外にも程があります!

「何かの間違い、ではないのですよね?」


 そう切り出したのはハネシテゼだ。ウンガス王国が攻めてきた、というのはそれほどに信じられない事態だ。


「イグスエン領の山はもう雪が解けているのですか? いくら急使を立てたとしてもイグスエンの南西の端からここまで一週間では着かないと思うのですが……」


 ウンガス王国の兵が山を越えてきたのはそれより前ということになる。雪の山を越えるのは並大抵のことではない。何百、何千という兵を率いてそんなことができるものなのかと思うのは当然だ。


 そもそも、冬の間は周囲の国は山を越えて攻めてくることはないという前提だからこそ、各地の領主たちが王都に集まってきているのだ。


「どうやったかは分からぬ。何の目的かも分からぬ。だが、五千を超える兵がいくつも町を落としているのは間違いがないだろう。」


 目を鋭くし眉間に深く皺を寄せて国王が答える。


「敵の戦力についての報告はございますか?」

「最低で五千、とだけある。」


 答えて、国王は報告書を王太子に渡すと、王太子はそれを読み上げる。


 報告の内容は簡潔だった。南西の国境である山を越えて兵が侵攻してきて、町や村で殺戮と略奪が行われているという。


 その報告が発ったのは九日前、それから今までにどれほどの被害が出ているのかは想像もつかない。


「急ぎブェレンザッハに戻り騎士に出撃の用意をさせます。」


 ブェレンザッハ公爵が立ち上がりジョノミディスにもすぐに出発の準備をするように言う。ブェレンザッハ領はイグスエン領のすぐ北側だし、悠長にしてはいられないといった様子だ。


「お待ちくださいブェレンザッハ公。用意できる騎士は何人程ですか? 王宮騎士団との合流は何処で行うかの話も必要です。」


 王太子が呼び止め、部屋から出て行こうとしたブェレンザッハ公爵は振り返る。明らかにその表情に焦りの色が見えるのも仕方がないだろう。


「ウジメドゥアからも出します。」


 同じ派閥であり、やはり西南地方に領地を持つウジメドゥアも戦力に加わると宣言し、王太子とブェレンザッハ公爵の行軍作戦の話し合いに加わる。


 一方で東側に領地を持つエーギノミーアやファーマリンキ、さらにはデォフナハでは騎士を出すにしても時間がかかり過ぎる。


 今からエーギノミーアに向かって一週間。そこから騎士に準備をさせ、イグスエンに到着するまで三週間。合計一ヶ月ほどはかかってしまうだろう。デォフナハに至っては、それにさらに十日ほど加算する必要がある。


 とてもではないが、そんなものを待っている余裕などないだろう。長期戦を見込んでの追加の援軍という位置づけにしかなれない。


「最も早いのは、少数精鋭を送ることですね。途中の町で食料を補給できる最大数は百騎ほどでしょうか?」


 立ち寄る町の大きさにもよるだろうが、百人と百頭の食料を現地で調達するのはかなり厳しいのではないかと思う。収穫までの食料が足りなくなってしまう可能性だってある。


「途中の町の方々は、一ヶ月くらいを凌げられれば良いのです。騎士たちが消費した分は、後から馬車で送れば良いのではありませんか。」


 私の疑問に、ハネシテゼはあっさりと解答を出す。


 騎士たちが大量の食料を載せた馬車とともに移動したのでは遅すぎる。馬車は騎士たちの後をゆっくりついていって、街に食料を下ろしていけば住民たちが困ることもないという寸法だ。


「それを其方(そなた)が率いるのか?」


 先王に静かに問われて、ハネシテゼは困ったように首を傾げる。ハネシテゼが率いることになれば、そこに私たちも組み込まれるのではないだろうか。とても嫌な予感しかしない。


「お行きなさい、ハネシテゼ。領内のことは私が何とかします。」

「……わたくしが率いるらしいです。」


 デォフナハ男爵に言われ、ハネシテゼは口を尖らせながらそう答えた。先王や国王を前にそんな態度が許されるのかと不安になるが、今はそんなことを言っている場合でもないようで、国王や先王は頷くと騎士の数や選び方についての話を始める。


「ジョノミディス様、ティアリッテ様、フィエルナズサ様。一緒に来ていただくことは可能でしょうか?」


 嫌な予感がしていたが、やはりそのような話が出た。


「子どもばかりで大丈夫なのか?」

「体力は大人の騎士に劣りますけれど、魔力では劣りません。それに、子どもは食べる量が少ないのですよ。」


 わけの分からないアピールをするのはやめてほしい。できれば私は行きたくない。エーギノミーアに帰ったら畑の仕事は山ほどあるのだ。


「ティアリッテとフィエルナズサを出すならば、エーギノミーアは騎士の捻出を免除してはもらえないだろうか?」

「どういうことだ?」

「私の直系の子息二人、しかも領内で最高の戦力を出すのです。それ以上の力を出すのは困難でございます。その代わりと言っては何ですが、食料の供出を致しましょう。」


 父の説明に他の公爵たちはムッとしたような表情を見せるが、表立っての批判はない。実際にどの程度の戦力が必要なのか分からないし、どの程度長引くのかも分からない。


 これからも山を越えて敵兵が続々とやってくるならば、食料の生産を疎かにすることもできない。戦いに人手を取られている地方に、食料を供給する役割を担うのも重要になる可能性がある。


「我々は騎士を出さねばならぬのですか?」


 北方に位置するデュオナールらは、食料事情が良いというわけでもない。派閥が違うから何もしない、ということを言い出しかねない危うさがあるが、それを叩き潰したのはデォフナハ男爵だった。


「こういう時に、偉そうな事を言うだけではないことを見せるのではございませんか? まあ、男爵に劣る公爵だと言われても構わないならば仕方がないですけれどね。」


 酷い嫌味を言われ、デュオナール公爵らは顔を真っ赤にする。普段から態度の大きいデォフナハ男爵であるが、明らかに見下すように言われれば公爵三人も平常ではいられないようだ。


「そういうデォフナハは一体何をするというのだ!」

「真っ先に敵兵の撃退、足止めに向かうのは私の跡取り娘ですが?」


 先ほどハネシテゼと精鋭騎士で最速で向かうことが決まったばかりだ。私やジョノミディスについては決まっていないが、ハネシテゼに関しては確定している。


「終わるまでにどれくらい掛かるでしょう?」

「当面の敵を蹴散らすまでに一ヶ月、といったところでしょうね。敵の援軍がやってくるかは、完全に全くほんの少しも予測のしようがありません。」


 今の段階では情報が足りなさすぎる。だからこそ、最速で向かう部隊が必要なのだとハネシテゼは強調する。


「できれば、王子殿下にもどなたか一人、来てほしいくらいです。」


 王族が差し向けた部隊であるとできるだけ分かりやすく伝わった方が良いのだとハネシテゼは言う。


「それに、ハネシテゼ・ツァールが来た、というよりも王子殿下が来たと言った方が、敵にも味方にも効果的かと思います。」


 確かに、ウンガス王国の兵がハネシテゼ様の名前を知っているとも思えない。男爵の娘、と言っても恐れてくれる人は多分いない。


 しかし、王子殿下と言って、どんな立場の者が出てきたのか分からない者などいないだろう。


「待つのだ。それより、ティアリッテとフィエルナズサだ。決まらぬことにはこちらも動けぬ。」

「うむ。ジョノミディスはどうする?」


 王子の参加はここでは話さなくて良いと父が話を中断させる。話を急ぎたいのはブェレンザッハ公爵も同じようで、早口に捲し立てる。


「私はいずれにしても出ます。ブェレンザッハの騎士とともに出るか、一足先に王宮騎士団と共に向かうかの違いだけです。」

「ならば、先に行け。状況次第で合流するなりすれば良かろう。」

「承知しました。」


 ジョノミディスはハネシテゼと共に向かうことに決まってしまったことで、私も嫌だとは言い出せずにフィエルと一緒に先行部隊に参加することになってしまった。

【公爵】

第一位:ブェレンザッハ

第二位:ファーマリンキ

第三位:デュオナール

第四位:スズノエリア

第五位:ザイリアック

第六位:エーギノミーア

第七位:ウジメドゥア



【侯爵】

第一位:モレミア

第二位:イグスエン



自国は『バランキル王国』で海に面しています。(エーギノミーアやデォフナハには海がある)

ウンガス王国はバランキルの南西に位置する内陸国です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 王族はこういう時に先頭に立って敵を駆逐するために最強呪文を秘匿して持っているんじゃないの? なのに子供に言われても動かないし、周りは止めようとするし跡継ぎ一人しかいないわけでもないのに…
[気になる点] いくら貴族だからって成人してない処か、確かまだ8歳10歳の子供たちを戦争に、敵兵の撃退、足止めに向かわせるとかこの大人たち大丈夫……?
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