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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院3年生
122/593

122 はじめて想定内で終わった日復祭

「陛下、殿下、ご機嫌麗しゅうございます。天候厳しい旧年を乗り越え、本年の繁栄をお祈りするとともに、私もお力となれるべく精進していく所存でございます。」


 冬至を過ぎ、新年の日復祭は王族への挨拶から始まる。

 父を先頭に(ひざまず)き、型式通りの挨拶を述べる。今年は王子からの想定外な言葉もなく、無事に挨拶を終えることができた。


 その後、第一公爵ブェレンザッハ、第二公爵ファーマリンキ、と順に挨拶を済ませていき、私たちも所定の位置につく。


 第六位公爵のエーギノミーアは、挨拶にまわるよりも受ける方が圧倒的に多い。第七位のウジメドゥアから六つの侯爵家、さらに伯爵家と続いていく。


 型通りの挨拶はとても退屈なものだ。普段から交流のない者とは特に付け加える言葉話もないので尚更である。


 同じことを何度も繰り返すのに飽きてきた頃に、威風堂々たる親子(デォフナハ)がやってくる。本当に彼女らが男爵家というのが不思議でならない圧倒的さである。父がデォフナハ()揶揄(やゆ)するのも頷ける。


「ご機嫌麗しゅうございます、エーギノミーア閣下。」


 型式通りに跪いてデォフナハ男爵が挨拶をするが、父は(しか)(つら)で横を向いてしまう。そのような態度を取られると、私がどう対応して良いかわからないので本当にやめてほしい。


 取り敢えず無難にハネシテゼに向けて挨拶をしておいて済ませるが、そのような対応で本当に大丈夫なのかは謎である。


 全ての挨拶が終わると、テーブルに移動して歓談が始まる。


 私は人の多い公爵や侯爵家のテーブルを避けて、子爵家のテーブルへと向かってみた。


 並んでいる料理はさほど多くもなく、使われている食材の種類も多そうには見えない。クルミ入りのパンに(いも)のクリームを挟んだものや、芋餅の入ったシチューなど、芋を使った料理が多いのも子爵や男爵のテーブルに共通しているところだ。


 理由ははっきりしている。

 貴族は皆、麦を食べて当たり前のように言うが、実のところ、麦は生産効率がとても悪い作物だ。不作であればあるほど、麦なんて育てる余裕はなくなる。


 今年のエーギノミーアでは、麦は芋の五倍ほどの作付け面積があるのに、収穫量は()()()が倍ほどにもなっている。


 そういうことが分かるってくると、それぞれのテーブルの上の料理で領地の体力は大凡(おおよそ)の想像がつく。


 そして、その差を見つけているのは私だけではない。


「エーギノミーアのご令嬢でもこのような芋料理を好むのですか? 今年のテーブルは随分と贅沢になっているのに、慎ましいのですね。」


 話しかけてきたのはデュオナール公爵だ。彼女の登場で、私の周囲から、未成年の者たちが離れていく。同じ派閥であっても、第三公爵当主の相手などしたくはないだろう。


 ましてや、いきなり嫌味を言ってくるような方に近づきたくはない。


「エーギノミーアでは芋も収穫量が激増していますから、保存や消費の仕方を考えねばなりません。」


 実際のところ、芋になど興味がない、などと言っていられるほどの余裕はない。美味しい芋の料理法を得るというのも大切なことである。


「余った芋など、下人にでも与えていれば良いでしょう? あれほどの麦があるのに、芋に拘るだなんて信じられませんわ。」


 昔から麦が豊かさの象徴のように言われるのは分かっているが、そこまで芋を蔑視しなくても良いと思う。


 確かに、麦から作られる料理の種類は多い。粉に加工してさらにパンやパイ、麺にも姿を変えるし、様々な菓子にもなる。そして、どちらかというと、麦の方が上品な料理が多い。


 だからといって、芋を度外視することはできない。


「作付けの割合を考えねばなりませんから、食材の貴賎など拘っていられません。芋だけでなく、豆や干し野菜などでもどのように料理できるのかは知っておいた方が良いのです。」


 消費の度合いがどれくらいになるのかと、生産のしやすさを秤にかけながら決めなければならない。昨年は飢えることのないようにするのが目標だったが、今年はまた一歩先に進むのだ。


「そんなことを考えるのは平民の仕事でしょう?」


 デュオナール公爵は理解できないとばかりに首を傾げる。彼女と私では見ているものも、見据える先も全く違うようだ。


「少なくともエーギノミーアでは、農業生産は私たちの主導で行います。」


 貴族が平民に使われるわけにはいかない、とは敢えて言わない。ここまで私を馬鹿にしてくる人を相手に、そこまで親切に教える必要はないと思う。


「そうなのですか。では、デュオナールでも検討しましょうかねえ。」


 そんなことをするつもりもなさそうに、デュオナール公爵は話をそれで打ち切る。そして、不満そうな表情をしながら、公爵は芋料理には一つも手をつけずに去っていった。



 その後も当主が何人かやってきたが、みんな知りたいことは同じなのだろう。どれくらいの人員を使ってどれくらいの成果を出せたか。言葉や言い回しが違えど、内容に大きな差はない。


 学生を中心にして、要所要所で騎士を使ったと説明すると、大抵は驚くが、その先は二つに分かれる。


 つまり、真剣に検討をしようとする者と、野菜の加工など平民の仕事で、騎士を使うなどあり得ぬと蔑む者だ。


 最終的に彼らがどう判断するかは私の責任ではないし、ましてやその結果について問われる筋合いはない。何か言いがかりをつけられたら、即座に父や王族に報告するつもりである。



 少々面倒ではあるが特に大きなトラブルも発生せずに日復祭は終わった。今年は大人の相手ばかりで、学生と話をする機会がほとんどなかったくらいだ。


 話をしたそうにしている一年生がいたが、目の前の大人を無視して話しかけるわけにもいかない。今後のお茶会の機会を待つしかないだろう。

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