121 序列とは
三年生は魔道の演習から始まる。今までと違って、座学は午後からだ。
そしてその一番最初に、雷光の魔法の手本を何度も見せることになった。夏の間、魔力操作の訓練を頑張ってきた者は一時間も経たずに火花を飛ばす以上ができるようになった。
「できる者とできない者に随分と差があるな。」
「努力の成果でしょう? 魔力にも差があるようですし、随分と頑張ったのではありませんか?」
伯爵の直系でも全くできない者がいれば、子爵や男爵の傍系でも火花を飛ばすことに成功した者もいる。雷光に限らず、魔道の成績そのものが大きく入れ替わっているのではないだろうか。
先生としては雷光の魔法の練習はオマケみたいなもので、三年生の本来の課題である爆炎魔法の演習に入っていく。
せっかく上手くいきそうなのにと不満そうな者もいるが、ハネシテゼの意見はまた違う。
「雷光の魔法を練習するのは良いですけれど、爆炎の魔法はよく使いますから、自在に扱えるようになっておいた方が良いですよ。」
私からみると言いたいことはよく分かるのだが、ハネシテゼのアドバイスは自分中心の実用寄りだ。立ち位置が違う人には全く理解できない可能性があるが、そんなことは全く気にしていない。
そして、見せる手本は常識から外れている。杖の一振りで七つの的すべてに爆炎を叩きつけるとか、ほとんどの子は真似することすらできないのではないだろうか。
「随分と器用なことをするのだな。」
「雷光を複数放つのと同じですよ。」
ジョノミディスすら戸惑いの声を上げるが、ハネシテゼにとっては当たり前の技術のようだ。私たちならできて当然とばかりに試行を求めてくる。
真剣な表情でジョノミディスが魔法を成功させると、心なしかザクスネロの顔色が悪くなる。しかし、裂帛の気合いとともに見事に成功させてみせ、フィエルも難なくこなす。
フィエルがこの程度はできることは知っているし、私もできる。魔物の死骸を集めるために爆炎を縦に並べるのは、迅速な作業のためには必要なことだ。
だが、六位以下の者たちではそれに続くことができなかった。同時に放てる爆炎の数がどんどん減っていく。
雷光の魔法の練習に至っていない人は、特に酷い。そもそも魔力が足りていないのか、爆炎魔法を連ねることなどできもしない。
そんな中で、伯爵、そして子爵から七つの爆炎を放てる者がでてきた。
「頑張ってる方もいらっしゃるではありませんか。」
まるで、他の子が頑張っていないかのようにハネシテゼは言う。
「彼らはブェレンザッハの貴族ですよね。ジョノミディス様が指導したのですか?」
「僕は特に何もしていない。彼らが努力したのだろう。」
魔力操作の練習はするように言ってあるらしいが、それはどこの領でも同じだろう。どれだけ真剣にやるのかは本人や家族の資質次第だ。
「魔道の演習は、魔道の成績順で班分けをした方がよろしいのではないでしょうか? このままだと少々不釣り合いになってしまいそうです。」
ハネシテゼの提案に、先生も難しい顔で考え込む。魔道の順位だけ大きく違うというのは考えづらいし、慣例的には総合成績の順そのままでやるものなのだろう。
しかし、実力に差がありすぎる者が同じ班になると、お互いに、ためにならない。下の者にとって上の者の試技は参考にならなかったりするし、上の者にとっては、下の者は足を引っ張る存在だ。
ある程度でも、調整を図った方が演習を進めやすいと判断したのだろう。次回より考慮するということで結論が出された。
座学では私はわき目もふらずに勤しむことになる。無論それは私だけではない。フィエルも当然そうであるし、ジョノミディスやザクスネロだって同じだ。
夏の間は毎日畑に出ることになり、勉強などしている暇がないと伝えてやれば他の子たちも必死に勉学に励むことになる。エーギノミーアの事例は伝えたし、領主たちも父やデォフナハ男爵から話を聞くことになるだろう。
結論として、何もしない領なんてないはずだ。どこもここも、不作が続いて困っているのだ。当然、学生たちだってそれくらいのことは知っている。
ほぼ全員が真剣に取り組む様子に、先生の方が戸惑いを見せるくらいだ。みんな頑張っているのだから、褒め言葉くらいくれても良いと思う。
日々、そうして忙しく過ごしていれば、あっというまに一ヶ月が過ぎて年末年始を迎える。
つまり、日復祭である。
私としては忌まわしい行事だ。そんなことを口にすると叱られてしまうだろうが、昨年も一昨年もろくなことになっていない。今年こそ何ごともなく過ごさせて欲しいのだが、そうもいかないだろう。
エーギノミーアの成果については、父は一通り説明したと言っているが、それでも私やフィエルのところに聞きにくる者はいるだろう。
尚、ファーマリンキ公爵令嬢のモベアリエラは今回もやはり参加するらしいが、私やフィエルが積極的に関わる必要はないらしい。
七歳のお披露目も済んでいるし、トラブルの中心にいがちな私たちより、別の友人と一緒にいた方が良いというのは当然だ。王族の前でおろおろするしかできないとか、恐怖でしかない。
一番想像がつかない動きをするのは王族だ。想定外の言動はハネシテゼも同じだが、王族には逆らえないのが一番困るのだ。




