表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院3年生
120/593

120 話し合いは続く

 魔力を撒く時期や頻度について質問や意見が出て、話は思ったよりは一方的にならずに進んだ。


「魔物退治の遠征に出た方はいらっしゃらないのかしら?」


 話が一区切りついたところでハネシテゼが皆に問いかける。


「遠征そのものは私たちよりも大人の騎士にでも聞いた方が良いのではありませんか?」

「旅程についてはそうですね。今更私たちが言うこともないでしょう。ですが、私はとても聞きたいことが一つあるのです。」


 この場で聞くことなのかとも思うが、他領の状況がどうなっているのかは大事なことだ。


「今年、エーギノミーアで退治した大型の魔物は昨年までよりも増えています。特定の地方で急増しているのが原因なのですが、そのようなことが起きているところはないでしょうか?」


 特に聞きたいのはゴルモスの者たちだ。直系が在学していないため情報が得られにくいが、傍系ならばこの場にも来ている。


「領内のことをあまり明らかにはしたくないのではないか?」

「増えて困っているなら言いたくないだろうな。エーギノミーアは状況的には困ってはないのかい?」

「ええ、見つけ次第すべて撃滅しています。困っているというより不安に思っていると言ったほうが正しいでしょう。」


 昨年の岩の魔物といい、何か良くないことが国中で起こり始めているのではないか。そんな漠然とした不安が拭い去れないでいるのだ。


 本当に偶々ならば、他の領では何事も起きていないはずだ。


 だが、誰からも何の反応もない。本当に何もないのか、知らされていないのか、秘密にしているのかは分からない。


「大型の魔物とはどのようなものですか?」

「私が見つけたのは甲熊(ヒギア)ですが、他にも陸鰐(ガムネア)など色々出ているようです。幸い、騎士に倒せないようなものは今のところ出ていないのですけれど、今後はどうなるか分かりません。」


 私が挙げた具体的な魔物の名前に、上級生からどよめきがあがる。大型の魔物について詳しく学ぶのは四年生になってからだし、二年生くらいでは名前を聞いたことがあるという程度の認識しかなくても仕方がない。


 そもそもとして、大型の魔物は、一人では太刀打ちできないというのが共通の認識だ。ハネシテゼならば一人で複数を撃破していきそうな気がするが、それは別の問題だ。


「随分と被害が出ているのではないのか? 大型の魔物がそれほど発見されたなら、騎士の損耗もあるだろう。」


 ザクスネロは心配そうに言うが、人的被害は確認されていない。騎士も一人たりとも欠けることなく、任務から帰ってきている。


「エーギノミーアの騎士は、大型の魔物をそれほど簡単に仕留められるのですか?」

「雷光の魔法を覚えた者が二十人ほどいますからね。魔法が効きさえすれば倒すのはそう難しくはありません。」


 雷光の魔法で倒せないのは、ごく一部の魔法が根本的に通じない魔物だけだ。大型の魔物であってもそのほとんどは雷光の前に倒れる。


「雷光の魔法というのはそれほど強力なのですか?」

「対生物に関していえば、王族の炎雷を上回ります。対物破壊力が低いですけれど、魔物退治には関係ありませんからね。」


 何度目か分からない説明をハネシテゼが繰り返す。既に王族には教えてあるし、早々に各公爵家にも教えることになるだろう。


 学院の演習で使うことも正式に許可されたし、使えるようになる子も出てくるだろう。二年生とはないが、四年生、五年生とは合同演習があるから、手本を見せることができる。





「全体的にエーギノミーアとしての結果はどうだったのだ?」


 そう聞いてきたのはジョノミディスだ。ブェレンザッハは今年はまだ実験的な段階で、本格的に始めたエーギノミーアの何が上手くいって何が良くなかったのかの情報が欲しいのだろう。


「全体としては成功の部類に入るのではないでしょうか。私個人としては失敗も多くて課題も山積みなのですが……」


 私が寝不足で大変だったというのは大した問題ではない。城の倉は溢れんばかりに埋め尽くされたし、それでも尚、小領主(バェル)へ食料を送る余裕もあった。


 来年は領都での生産量を少し抑え、小領主(バェル)にも食料増産を頑張ってもらえば良い。雷光の魔法を覚えたことで騎士たちの戦力が向上したということは、班を細かく分けて、まわる範囲を広げることができるということでもある。


「一番の課題は、増えすぎた作物をどう処理するかなのです。収穫の最盛期は街も城も食べ物で埋め尽くされてしまうかと思ったくらいでしたから。」


 フィエルがそう打ち明けると、ジョノミディスたちは困り顔になる。増えすぎた作物の処理方法など誰も知らないだろう。


「そればかりは貴族も平民も総動員してどうにかするしか方法がないでしょう。芋や麦を粉に変える魔法なんてありませんから。」


 ハネシテゼもそのような状況は経験があるのか、力づくでどうにかするしかないと首を横に振る。

 それに対して、当然の如く質問が上がる。


「貴族も動員とは何をさせるのですか?」

「野菜や芋の加工は魔法をうまく使うと早く済ませることができます。井戸から水を汲んでいては、芋や野菜を洗う時点で躓きます。」


 水は魔法でどんどん生み出して、平民は洗うことに集中させた方が早く終わるし、魔法で温風を吹きつければ乾燥も早くなる。


「食料の倉や加工用工房を作るのも大切ですよ。デォフナハではお酒の醸造所を増やしましたからね。余った麦や芋はお酒にしてしまいます。」

「倉は何のために増やすのでしょうか? 現在の倉いっぱいに詰め込めれば十分かと思うのですが。」

「家畜の飼料用です。家畜を増やしてミルクや毛を採るのは大事ですよ。肉や皮にも需要がありますし。」


 家畜を増やすのには時間がかかる。増やしている間は、肉も皮も採れない。大量の飼料が必要になるのに、収入を得ることができなければ、育てている農民は生活に困ってしまう。最低限として、命じる側が飼料を供出しなくては農民が飢えて死んでしまうということだ。



 話は色々出てくるもので、解散したのは夕方になってからだ。部屋に戻ると、私は参考書を引っぱり出して机に向かう。


 これからしばらくは私は座学を真剣に頑張らねばならないのだ。


 三年生になると法律や古代語など、学ぶことが増える。ハネシテゼに言われて古代語の勉強は二年生のときからしているが、法律に関してはまだまだこれから頑張らねばならないことも多い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ