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貴族令嬢はもふもふがお好きなご様子  作者: ゆむ
中央高等学院2年生
101/593

101 目標達成に向けて

 ワイトェピアとバッツァグーンが畑での仕事に参加するようになって四日で、彼らも雷光の魔法で魔物を撃てる程度にはなった。


「効率の面を考えると、バッツァグーンとワイトェピアがペアになり、騎士を四人お付けして六人で回ってもらうのが良いと思うのですが、いかがでしょう。」


 いつまでも私やフィエルと一緒に作業をしていても効率は上がらない。私とフィエルはもともと騎士二人とやっていたし、別に無理をするわけでもない。


 必要なのは一日に千以上の区画を処理し続けることだ。


「私は構いませんが……」

「私たちだけで畑まわるとしたら、一日にどれほど処理することが期待されているのでしょう?」

「三百程度です。一人当たりの負担で考えると、二分で一区画を処理できれば十分に達成できる数です。」

「フィエルナズサ様たちはどれ程回る予定なのですか?」

「魔物退治が必要な区画を重点的に回ろうと思っているので、しばらくはあまり数を稼げぬと思うが、日に二百ほどは処理していきたい。」


 魔物退治にかかる時間は頑張れば縮むというものではない。魔物が木々の奥に隠れて出てこなければ、それだけ時間がかかってしまう。どれだけ集まってきてくれるかも運次第だ。


「では、ワイトェピアとバッツァグーンは引き続き西側をお願いします。フィエルは北側で良いでしょうか? 私は南側を処理していきます。」

「そうだな。私は異論ない。」


 ワイトェピアとバッツァグーンもそれで良いということで、私は翌日から騎士と二人で南門へ向かうことになった。


「魔物退治をしますので、一度、畑から出てください!」


 開門直後から既に畑で作業している農民はけっこういっぱいいた。一度、退いてもらわないと魔力を撒けないし、魔物退治なんてしていられない。


「一体、何をするんだ?」

「畑周辺の魔物を退治していきます。危険ですので一度畑での作業を中断して畑から出ていてほしいのです。」


 そう口で説明しても、危険だということなどが実感できないらしく、なにやらブツブツ言っているが、あまり構っていられもしない。


 左手の杖を振って水の玉を生み出し、右手で一気に魔力を詰めて畑に撒き散らしてやる。盛大に広がる赤い光に農民は驚きの声を上げるが、それはまだ始まりに過ぎない。


 すぐに地面の下からニョロニョロ、ウネウネと虫が這い出てくるし、防壁の下の方から小型の魔獣が駆け出てくる。


「この虫は潰した方が良いのでしょう?」

「あ、ああ。こんなに出てくるなんて、何をしたんだ?」


 返事の代わりに私は雷光を畑に撒き散らす。雷光は虫も魔獣も貫き、二回、三回と放ってやれば、視界の範囲に動くものはなくなる。


「魔力を撒けば、虫や魔物は群がってきます。あれを徹底的に潰していくのが私の仕事でございます。」


 馬上からそう言ってやると、農民はコクコクと無言で首を縦に振る。


「ですが、あなたたち農民の協力がないと、全ての畑で魔物退治を終わらせることができません。私が魔法を使うときは、邪魔にならぬよう畑の外に出ているよう、周辺の農民に伝えてきていただけますか?」

「わ、分かった。」


 私はできるだけ丁寧に、高圧的にならぬように言っているのだが、魔法の威力に驚いたからなのか、農民は怯えたように頷くと走っていってしまった。

 子どもたちも集めてきてほしいのに、困ったものである。


 農民は道を挟んで反対側、つまり南側の方へ行ってしまったので、私は東隣の区画へと向かう。そちらでも農民を呼び、畑からの退避と子どもを呼んできて虫潰しと魔物の死体集めを手伝わせるように言う。


 それからやる事は同じだ。

 魔力を撒いて、出てきた魔物を退治する。周辺の農民たちにも手伝ってもらって魔物を集めて焼いたら次の区画だ。


 二つめの区画の死骸集めが完了したころに、子どもたちが集まり始める。彼らは魔法を見るのが初めてなのか、私が魔力を撒いたり雷光を放ったりする毎に一々歓声を上げる。


 人手が増えれば、死骸の焼却にかかる時間も減り、時間当たりの処理数は増えていく。道を挟んで一つ南側の区画もみんなで手分けして虫を潰していけば、次々と作業は完了していく。


 夜までに二百八十の区画に魔力を撒いて一日の作業を終えた。フィエルは二百九十六、ワイトェピアたちは三百五十と比較的頑張っているが、まだまだ数が少ない。


「どうにかしてもっと効率を上げられぬものか?」

「魔物の焼却はしないわけにいかないでしょう? もっと上手く農民と連携を取りながらやるしかないと思います。」


 魔力を撒いて出て来た魔物を退治したら、処分は農民に任せて私たちは南側の区画に魔力を撒きにいく。四区画ほど撒いて戻ってくるころには死骸は集め終わっているだろうから、それに火を放って、次の区画で魔物退治をする。


 この時に農民や子どもたちが私たちに合わせて速やかに移動できるようになれば、一日に十や二十は処理できる数が変わるだろう。


「農民たちにも、きちんと作戦を説明せねばならぬな。」

「魔力を撒いて魔物退治をするのは彼らにも利益があるのだということは、改めて念を押しておいた方が良いでしょうね。」


 一気に目を見張るほどの結果を出せる方法など、模索するだけ無駄だ。そんなことをしている暇があるなら、少しずつでも改善していった方が良い。やることの方向性を決めると、私たちは翌日からそれを実践していく。



 必要な処理数としては、全体として一日に一千三百区画だ。毎日、向上を図り、それから五日でこえることができた。


 喜んで城に帰ると、魔物退治に出ていた兄たちが帰還していた。


「お兄様、お帰りになっていたのですね。魔物退治は上手くいきましたか?」

「予定通りだ。其方(そなた)らこそ畑の方は上手くいっているのか?」

「予定より少し遅れております。頑張って挽回しなければなりません。」


 兄たちは上手くいっているというのに、私たちがいつまでも遅れているわけにはいかない。

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