アルドの父親とその仲間が帰ってきたぞ
人族の男の子アルドに声をかけられ、友達になったグラティア。
中央都市マグヌスの露店で魚の丸焼きを食べていたところ、旅から帰ってきたという、アルドの父親に出くわす。
グラティアを見て、何故か驚く父親だが…
アルドと魚の丸焼きを食べているところに急にあらわれたアルドの父親。親子で慌てている様子は何か面白い。
「おや、アルドの父は私のことを知っているのか?確か冒険者をしていると言っていたが、もしかすると仕事中に関わったとかかな」
「あっ、その通りですよ。あぁ、でも俺が20代の時だから10年以上前のことなんで、グラティア様は覚えていないかもですけどね〜。クエスト中に強い魔物に襲われていたのを、グラティア様が助けてくれたんですよ」
んー、10年くらい前なら、インパクトがあれば覚えているかもしれない。でも、似たようなこといっぱいしているから、全く覚えていない。むしろ誰を誰と認識したこともないから尚更だな。
「あぁ、そうか。まぁ私は覚えていないが、知り合いなら話は早い。先程、私とアルドは友達になったぞ。それで魚を食わせてやった。人生の先輩として当然のことをした」
「えっ!俺もそんなにしょっちゅう食べないのに!良かったじゃないかアルド。ありがとうございます、グラティア様。あっ、俺はこれから仲間と報酬の分担をして、それから打ち上げにいくんですが…もし良かったらグラティア様も来ませんか?」
ん、なんかわからんけど、面白そうだから行ってみるかな。
「うん、今日は特に何もないからいいよ。楽しそうだから行く。アルドも一緒に行くんだろう?」
父親は、少し気まずい様な顔をして、
「あー…いや、打ち上げはギルドの並びにある酒場でするつもりなんですが、あのあたりは柄の悪い連中も多いんで、できればアルドは連れて行きたくないんですよね…」
「えー。アルドが行かないなら私も行かない」
アルドは私と、父親の顔を見比べてキョロキョロしながら、魚を食べている。
「もう、グラティア様には敵わないですねぇ…わかりました。まぁ今日は俺だけじゃなくて仲間もグラティア様も居てくれるから危なくはないと思いますし。アルド、俺のそばから離れない約束はできるな?」
「うんっ、大丈夫!僕も打ち上げついて行きたい。フロースさんとアリシアさんも来るんでしょ?」
たぶん父親の仲間のことかな。私はもうすでに魚は食べ終えて、串は店のおっちゃんに渡した。
「うんうん、2人とも来るよ。あっ、グラティア様!すみません申し遅れましたが、10年前にも紹介はさせていただいたんですが、きっと忘れてるのでもう一度。私はフィデリスと言います、コイツは俺の息子でアルド。そして、あとで酒場で待ち合わせてる仲間は、また紹介しますが、フロースとアリシアと言います。ひとりは俺と同じ人族ですが、もうひとりはハーフエルフですよ」
アルドの父親は礼儀正しく挨拶をしてきた。私は忘れてしまっていたが、こういう感じで人族は割と恩義を忘れないので好ましい。ただ申し訳ないが結構みんな似ているので覚えにくい。パーティにハーフエルフがいるのだな。まぁたぶん知らないと思うが。
「わかった。えーと、酒場での待ち合わせはいつ頃になるのかな?」
「そうですね…まぁ報酬の分担のためにギルドに行って、それからすぐに向かうんでそんなに時間かからないと思いますが、もしよかったら先に飲んどいてもらったら後で合流しますよ。アルド、グラティア様に失礼のないようにな」
アルドの父親、フィデリスはそう言って仲間の元へ行った。
「グラちゃんって、父とも知り合いだったんですね〜!凄いです!というか、その節は父を助けていただき、ありがとうございます」
「まぁ、知り合いというか…たまたま助けただけじゃないかな。私は一切覚えてないし、別に気にすることもないよ」
アルドが、私の方を見てニコニコ笑っている。魚はいつの間にか全部食べ終えたようだ。
「どうした?アルド」
「えーと…父と仲間達と酒場で一緒に食事できるのも楽しみなんですけど。グラちゃんとそこに一緒に行けることが嬉しくて」
酒場にたくさんの人数で行くのが楽しいのだな。まぁ確かに酒場は知らない者同士でたまに気があったり、逆に酔いの勢いで揉め事になったりもするが、活気があって、楽しい場であることは間違いない。私がこのルミノースが好きな理由も、色んな種族が集まっている中で、ある程度反発はありながらも、お互いを尊重しあい、上手く折り合いをつけて付き合っている様を眺めるのが好ましいからなのだと思う。かといって私がその中に入ることもあまりないのだが、たまにはこのようなことも、良いのかもしれない。せっかくのことだからな。
「そうか、そうか。私も酒場に行くのは好きだ。なんならたまに連れていってやっても良いぞ」
「あ、あ、僕もほんとは行きたいんですけども、一応人族は16歳からって規制されていて…あっ、僕が16歳になったら。ふ、2人で一緒にいきましょう!」
たまにどもるのはなぜなのか。緊張してるのかな。アルドが今8歳と言ってたから、16歳なんてすぐだな。人族にしたらどのくらいの感覚なのだろうか。そういえばフィデリスが先に酒場に行っといてくれと行ってたな。アルドと共に酒場の方へ向かうことにした。酒場は先程フィデリスが言ってたように、この街の中央にある冒険者ギルドがあるのだが、そのギルドのある大通り沿いに建っている店だ。見ている限りはほとんど休みなくやっているようで、いつ見てもまぁまぁ賑わっていると思う。
先程魚の丸焼きを食べていた露店が集まるところから、ギルドは割と近い。酒場が見えてきたところで、店の前にフィデリスと、その仲間と思われる2人が立っていた。フィデリスはアルドに手を振り、私には頭を下げた。それに習い他の2人も頭を下げる。私も同じようにそうしておいた。
「もうそろそろ来るかなと思って、待ってたんですよ。ギルドがちょうど空いてたもんで、割と早く済んだんです。あ、こちらが先ほど話していた、フロースとアリシアです」
「こんにちは、グラティアだ。よろしく」
「フロースです。一応剣士ですが、戦うのはフィデリスがほとんどなので、雑用係みたいなことをやっています」
おとなしそうな人族の男だ。見た目はフィデリスより若いのかな?という感じ。
「アリシアです〜。フィデリスから聞いてるかもですけど、ハーフエルフです。パーティーでは魔法使い、補助魔法と少しだけ攻撃魔法を使えます」
見た目はどのくらいかな、成人にいってないくらいだから70〜80歳くらいかな。冒険者仲間ではないからスキルのことは言わなくてもいい気はするが、たぶんクセみたいなものなのだろう。私と比べると更に幼い感じ、人族で言うと14歳くらいの見た目の女の子だ。
さっそく店の中に入る。この店は初めに飲み物を頼む時に、まず一品を、カウンターに並んでいる美味そうなツマミから自由に選べる。オマケみたいな感じかな。カウンターの中に立つ店主が私達を迎えた。
「いらっしゃい!フィデリス。おぉっ!グリー様、今日は珍しく団体でお越しなんですね。おっ、フィデリスのボウズも一緒かい」
何度も言うが、私はグリーと言われるのは許可していない。ただ、私を認知している人族はグリー様で通っているようで、もういちいち言うのも面倒なので言われるがままにしている。なのでフルネームで呼ぶフィデリスは、きちんとしている方だと私は思う。
店はカウンター席と、四人がけのテーブル席、仕切りで囲われた6〜8人がけのボックス席がある。ボックス席に案内された。席に着こうとした時、ふとカウンターの一番端の席に目がいった。たぶんギターだと思うがハードケースをかたわらに置き、ちびちびとエールを飲んでいるエルフの男性がいた。知ってる顔だったが、わざわざ声をかけることもないので、そっとしておいた。
アルドだけはオレンジジュース、それ以外の四人はエールを頼んだ。あとは五人分のツマミを各々選んで席に持っていく。ツマミを運んでいる時に例のエルフの男が話しかけてきた。
「やあ、グラティア。変わりなく楽しく過ごしているかい?」
「うん、うん。まぁそれなりだな。ムジカは相変わらず寂しそうに過ごしているようだな」
そのエルフの名はムジカ。吟遊詩人だ。そのやり取りをしている間に飲み物が席に届いた。さぁ、乾杯の時間だ。
◯登場人物
グラティア(慈愛):エルフ族の女性、248歳。ルミノース国生まれ、ルミノース育ち。精霊魔法を使える。
アルド(情熱):人族の男性、8歳。街中でグラティアを見かけ、声をかける。冒険者の父親と2人暮らし。
フィデリス(忠実):人族、アルドの父親、38歳。冒険者をしている、戦士。2人の仲間とパーティを組んでいる
フロース(花):人族、男、28歳。フィデリスとパーティを組む冒険者、剣士。おとなしい性格。
アリシア(誠実):ハーフエルフ、女、82歳。フィデリスとパーティを組む冒険者、魔法使い。おっとりとした性格。
◯ルミノースプチ情報
中央都市マグヌスには様々な店が並んでいるが、飲食店・酒場が特に多い。多種族国家であるため食べる時間、量、食べるものも様々なので、それに対応するように、店舗もやたらと多い。他の国からわざわざルミノースに来て観光ということはほとんどないため、おおよそが適正価格で売買されている。
ちなみにグラティア達が訪れた酒場のエール1杯の値は300ルミーである。現代の日本円にすると600円くらい。




